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紫紺の瞳
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「シタン」
誰かが、呼んでいる。高く澄んだ声。
「シタン、起きて」
気持ちがいい。ずっと聞いていたい。
「シタン!」
大声で呼ばれながら強く肩を叩かれて、眠気が引いてしまった。
「ん……」
釣竿を握る自分の手が見えた。
そういえば、釣りの最中だった。横を向くと、友達と目が合った。吊り目気味で、睫毛が長くてぱっちりとした瞳だ。
「やっと起きた」
襟足の長さの髪型で、柔らかそう黒髪。白い顔は顎が細くて綺麗で、頬がふっくらとしている。
「あふ、寝てた……」
「ぐっすりだった。いつか川に落ちてしまうぞ。気をつけないと」
胡坐をかいた膝が触れる近さで、心配そうに眉根を寄せて顔を覗き込んでくる友達にふにゃりと笑う。
「そうかも……。でもさ、ラズがいるから安心だよね」
「またそんな事を言う」
友達は木苺を食べたみたいに朱い唇を、不機嫌そうにつんと尖らせた。
「僕はずっと傍にいられないんだぞ。まったく、シタンは鈍臭いから心配だ。弓は上手いのに、どうしてそんな風なんだろう……」
「それって、ほめてないような気がする」
「いや、そんなことはない。ところどころ心配なのは確かだけど。……あっ! 釣れた!」
折れそうなくらい細い腕が、そっと釣竿を上げていく。釣れた魚は、丸々と太った大物だった。
「よし。これで三匹目だ」
「やっぱりラズは凄いな。釣り名人だ」
「お前が釣れなさ過ぎるんだ」
小さくて白い手がさっと針を外して、水を張った桶に魚を放り込む。
「もう一匹釣れたら、焼いて食べようなシタン」
黙っていると気が強そうな顔が、笑うと女の子みたいにw可愛い。そんな友達の笑い顔を見ながら、シタンもまた笑った。
「うん。……ありがと」
魚を分けて貰えなくても、一緒に居られるだけで幸せ。ずっと、こんな風に遊んでいられたら良いのに。
そう思いながら、綺麗な紫紺の瞳を見続けた。
「――んっ、あれ……?」
気付くと、辺りは薄暗くなっていた。
窓の外には黄昏の空が広がっている。ゆっくりと白い寝台の上で身を起こしてみると全身が軋むように痛んだが、それでも眠りに落ちる前よりかなり癒えていた。汗や精などで酷く汚れていた体と寝台は、嘘のように綺麗にされている。
体を丸洗いされて着せ替えらても、起きなかったのか。そのことにとても驚いたが、死にそうなくらい酷いことをされたから当たり前だとも思った。
「こっちが夢なら、よかったのに」
幸せな夢が現実でなかったとしても、せめて自分の住む狭い小屋の固い寝床で目が覚めたら、まだ安心できただろう。
……久し振りに見たラズの瞳は、口移しで水を飲まされたときに見た領主の瞳と似ていた。
瞳ばかりでなく、髪や肌の色もよく似ている。そっくり同じ色だと言っても良い。横暴で非情な行いをする領主が、ラズと似ていると思ってしまったのが嫌だった。
あんな恐ろしい男とは違って、きっと頼もしく優しい男だ。
「ラズ……」
会いたい。
会ってまた、一緒に釣りがしたい。
無性に会いたくなった。別れの日に感じた辛さが昨日のことのようにぶり返してきて、泣きそうになった。
涙ぐみながら歯を食いしばって俯くと、はだけた胸元から鬱血が幾つも見えた。赤い唇で肌を執拗に吸われた感触を思い出し、体に大きく震えが走る。
――『私が満足するまで、払って貰うぞ』
低く艶のある声が耳に再び響いた気がした。
不意に心臓が高鳴って、胸が強く締め付けられる。
あんな奴なんかと思えば思うほど、尻のあらぬ場所が疼く。
「な、んで……、俺なんか、抱いたんだ……っ」
小さく「くそっ!」と、悪態をつくが、胸の高鳴りは収まらない。シタンは再び横になり、頭から乱雑に掛布を被って硬く目を閉じた。
誰かが、呼んでいる。高く澄んだ声。
「シタン、起きて」
気持ちがいい。ずっと聞いていたい。
「シタン!」
大声で呼ばれながら強く肩を叩かれて、眠気が引いてしまった。
「ん……」
釣竿を握る自分の手が見えた。
そういえば、釣りの最中だった。横を向くと、友達と目が合った。吊り目気味で、睫毛が長くてぱっちりとした瞳だ。
「やっと起きた」
襟足の長さの髪型で、柔らかそう黒髪。白い顔は顎が細くて綺麗で、頬がふっくらとしている。
「あふ、寝てた……」
「ぐっすりだった。いつか川に落ちてしまうぞ。気をつけないと」
胡坐をかいた膝が触れる近さで、心配そうに眉根を寄せて顔を覗き込んでくる友達にふにゃりと笑う。
「そうかも……。でもさ、ラズがいるから安心だよね」
「またそんな事を言う」
友達は木苺を食べたみたいに朱い唇を、不機嫌そうにつんと尖らせた。
「僕はずっと傍にいられないんだぞ。まったく、シタンは鈍臭いから心配だ。弓は上手いのに、どうしてそんな風なんだろう……」
「それって、ほめてないような気がする」
「いや、そんなことはない。ところどころ心配なのは確かだけど。……あっ! 釣れた!」
折れそうなくらい細い腕が、そっと釣竿を上げていく。釣れた魚は、丸々と太った大物だった。
「よし。これで三匹目だ」
「やっぱりラズは凄いな。釣り名人だ」
「お前が釣れなさ過ぎるんだ」
小さくて白い手がさっと針を外して、水を張った桶に魚を放り込む。
「もう一匹釣れたら、焼いて食べようなシタン」
黙っていると気が強そうな顔が、笑うと女の子みたいにw可愛い。そんな友達の笑い顔を見ながら、シタンもまた笑った。
「うん。……ありがと」
魚を分けて貰えなくても、一緒に居られるだけで幸せ。ずっと、こんな風に遊んでいられたら良いのに。
そう思いながら、綺麗な紫紺の瞳を見続けた。
「――んっ、あれ……?」
気付くと、辺りは薄暗くなっていた。
窓の外には黄昏の空が広がっている。ゆっくりと白い寝台の上で身を起こしてみると全身が軋むように痛んだが、それでも眠りに落ちる前よりかなり癒えていた。汗や精などで酷く汚れていた体と寝台は、嘘のように綺麗にされている。
体を丸洗いされて着せ替えらても、起きなかったのか。そのことにとても驚いたが、死にそうなくらい酷いことをされたから当たり前だとも思った。
「こっちが夢なら、よかったのに」
幸せな夢が現実でなかったとしても、せめて自分の住む狭い小屋の固い寝床で目が覚めたら、まだ安心できただろう。
……久し振りに見たラズの瞳は、口移しで水を飲まされたときに見た領主の瞳と似ていた。
瞳ばかりでなく、髪や肌の色もよく似ている。そっくり同じ色だと言っても良い。横暴で非情な行いをする領主が、ラズと似ていると思ってしまったのが嫌だった。
あんな恐ろしい男とは違って、きっと頼もしく優しい男だ。
「ラズ……」
会いたい。
会ってまた、一緒に釣りがしたい。
無性に会いたくなった。別れの日に感じた辛さが昨日のことのようにぶり返してきて、泣きそうになった。
涙ぐみながら歯を食いしばって俯くと、はだけた胸元から鬱血が幾つも見えた。赤い唇で肌を執拗に吸われた感触を思い出し、体に大きく震えが走る。
――『私が満足するまで、払って貰うぞ』
低く艶のある声が耳に再び響いた気がした。
不意に心臓が高鳴って、胸が強く締め付けられる。
あんな奴なんかと思えば思うほど、尻のあらぬ場所が疼く。
「な、んで……、俺なんか、抱いたんだ……っ」
小さく「くそっ!」と、悪態をつくが、胸の高鳴りは収まらない。シタンは再び横になり、頭から乱雑に掛布を被って硬く目を閉じた。
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