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46 大した値段ではないのか
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――村や町をいくつか経由して、何日もかけてようやく王都にたどり着いた。
活気はあるものの、どこかのんびりとした風情のある辺境とは違い、建物は高くそびえ立っていてまるで渓谷のようだし、その谷間にある大きな通りを行く人々は皆、格好が垢抜けている。行き交う馬車も半端なく多くて忙しない。大きな建物ばかりで、森どころか林すら見当たらないし、空気もなんだか悪い気がする。
シタンは馬車からしばらく外を眺めてから、自分の格好を見下ろしてなんとも言えない気分になった。確かにちょっと……いや、かなり違う。これは間違いなく、浮く。ざっと見渡した範囲では、弓を背負った狩人なんて一人もいない。
……とんでもないところに来てしまった。
頭の中を見透かしたように、ハイレリウスが苦笑しながら肩を叩いてくる。「凄く困った顔をしているよ。そんなに心配しなくても大丈夫だ」と、言われて思わず「あ、うん」と、頷いて苦笑を返してしまった。
「森が豊かな辺境とは別世界だから驚いたかな? さて、まず服を着替えようか。馴染みの店がこの先にあるから、今から直接向かうとしよう」
こんなところの出稼ぎ先でなんて、自分のような要領の悪い人間が働けるのだろうか。本当は、辺境の南端で農園を営んでいる叔父夫婦のところへ出稼ぎに行きたかった。皆でワイワイと収穫した物を運んだり、まだ小さい甥や姪の面倒を見るのは楽しいし、なにより叔父の嫁が作る飯が美味い。
――それから連れて行かれた店で、シタンはまた困り顔をして苦笑されることになった。
馬車が横付けされたのは、およそ辺境では見られないような美しい外観をした三階建ての店だった。手持ちの金では服を買えそうにないとシタンは尻ごみをしたが、ハイレリウスに腕を取られて店に引っ張り込まれた。
「ようこそおいでくださいました。今日はどのようなご用件でございましょうか」
上品で隙のない身形をした店主が、流暢な言い回しでハイレリウスに軽く頭を下げた。王都ではあきらかに浮いている格好のシタンを見ても、店主は表情を変えず奥へと招き入れる。
「この青年に、何着か似合うものを見繕って欲しい。派手なものではなく普段着を頼む」
ハイレリウスの要望に素早く応じて「こちらなど如何でしょうか。無駄な飾りの省かれた、動きやすいものをご用意いたしました」などと、丁寧な態度で何着かの上下を見せてくれた。
「えっと、これ、普段着られるものなの?」
「そうですね。余所行きというにはさすがに飾り気がなさすぎますから」
見せられた服の布地は見るからに柔らかくて質が違う。小さく飾り彫りのされた留め金などがついているだけでも十分に洒落ていて、晴れ着のように見えた。
「……俺、こんな服着たことない……」
確かにこれなら、外で見た人々と比べても浮かないだろう。しかし、ごわついた麻布ばかり着ていたシタンにしてみれば、目の前にある服は袖を通すのもためらわれる高そうな服にしか見えなかった。
「試しに三着ほど買おうか。支払いはとりあえず私がするから、着替えてくると良いよ」
さらりと店主から服を受け取り、シタンの肩を抱いてハイレリウスが促してくる。
「え、あの、でも」
「このシャツとか似合うね。こっちの上着も良さそうだ。きっと、君の銀髪が映えると思う」
「いや、こんな綺麗なの高そうだし、もっと安いので」
「なにを言っているんだい。目立ちたくなかったら観念して着替えることだよ。それに、この店でこの服だったら、大した値段ではないよ」
……本当にそうだろうか。絶対に違う気がする。貴族の言う大した値段ではないというのは、平民からすると大した値段だろう。
「あの、これって、値段は……」と、店主に助けを求めるように尋ねるが、「お値段の方は、後ほどということで」と、にこやかに受け流されてしまい、抵抗も空しく着替えのための部屋へと押し込まれた。
活気はあるものの、どこかのんびりとした風情のある辺境とは違い、建物は高くそびえ立っていてまるで渓谷のようだし、その谷間にある大きな通りを行く人々は皆、格好が垢抜けている。行き交う馬車も半端なく多くて忙しない。大きな建物ばかりで、森どころか林すら見当たらないし、空気もなんだか悪い気がする。
シタンは馬車からしばらく外を眺めてから、自分の格好を見下ろしてなんとも言えない気分になった。確かにちょっと……いや、かなり違う。これは間違いなく、浮く。ざっと見渡した範囲では、弓を背負った狩人なんて一人もいない。
……とんでもないところに来てしまった。
頭の中を見透かしたように、ハイレリウスが苦笑しながら肩を叩いてくる。「凄く困った顔をしているよ。そんなに心配しなくても大丈夫だ」と、言われて思わず「あ、うん」と、頷いて苦笑を返してしまった。
「森が豊かな辺境とは別世界だから驚いたかな? さて、まず服を着替えようか。馴染みの店がこの先にあるから、今から直接向かうとしよう」
こんなところの出稼ぎ先でなんて、自分のような要領の悪い人間が働けるのだろうか。本当は、辺境の南端で農園を営んでいる叔父夫婦のところへ出稼ぎに行きたかった。皆でワイワイと収穫した物を運んだり、まだ小さい甥や姪の面倒を見るのは楽しいし、なにより叔父の嫁が作る飯が美味い。
――それから連れて行かれた店で、シタンはまた困り顔をして苦笑されることになった。
馬車が横付けされたのは、およそ辺境では見られないような美しい外観をした三階建ての店だった。手持ちの金では服を買えそうにないとシタンは尻ごみをしたが、ハイレリウスに腕を取られて店に引っ張り込まれた。
「ようこそおいでくださいました。今日はどのようなご用件でございましょうか」
上品で隙のない身形をした店主が、流暢な言い回しでハイレリウスに軽く頭を下げた。王都ではあきらかに浮いている格好のシタンを見ても、店主は表情を変えず奥へと招き入れる。
「この青年に、何着か似合うものを見繕って欲しい。派手なものではなく普段着を頼む」
ハイレリウスの要望に素早く応じて「こちらなど如何でしょうか。無駄な飾りの省かれた、動きやすいものをご用意いたしました」などと、丁寧な態度で何着かの上下を見せてくれた。
「えっと、これ、普段着られるものなの?」
「そうですね。余所行きというにはさすがに飾り気がなさすぎますから」
見せられた服の布地は見るからに柔らかくて質が違う。小さく飾り彫りのされた留め金などがついているだけでも十分に洒落ていて、晴れ着のように見えた。
「……俺、こんな服着たことない……」
確かにこれなら、外で見た人々と比べても浮かないだろう。しかし、ごわついた麻布ばかり着ていたシタンにしてみれば、目の前にある服は袖を通すのもためらわれる高そうな服にしか見えなかった。
「試しに三着ほど買おうか。支払いはとりあえず私がするから、着替えてくると良いよ」
さらりと店主から服を受け取り、シタンの肩を抱いてハイレリウスが促してくる。
「え、あの、でも」
「このシャツとか似合うね。こっちの上着も良さそうだ。きっと、君の銀髪が映えると思う」
「いや、こんな綺麗なの高そうだし、もっと安いので」
「なにを言っているんだい。目立ちたくなかったら観念して着替えることだよ。それに、この店でこの服だったら、大した値段ではないよ」
……本当にそうだろうか。絶対に違う気がする。貴族の言う大した値段ではないというのは、平民からすると大した値段だろう。
「あの、これって、値段は……」と、店主に助けを求めるように尋ねるが、「お値段の方は、後ほどということで」と、にこやかに受け流されてしまい、抵抗も空しく着替えのための部屋へと押し込まれた。
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