【完結・加筆修正中】横暴領主が平民狩人の俺に執着してくるんだけど、どうしたらいいと思う?

ゆらり

文字の大きさ
105 / 110
番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」

37 友に、深い感謝の念を抱く

しおりを挟む
 ――憎らしい。だが、それは愛しさに落ちる一滴の雑味のようなもので、愛嬌とも感じられる。

「だ、だって、あの時のラズって凄く怖かったし。お、怒ってるみたいだったから」

 恥ずかし気に言葉を濁すシタンに小さく苦笑していると、「君達、前から知り合いだったんだね。なんとなくそんな気がしていたけど……」という、ハイレリウスの呆れを含んだ声がした。 

 こちらを抱き締めたまま、身を捻り背後を見遣ったシタンとともに友を見れば、まさに呆れたと言わんばかりの顔つきで、その淡い青色をした瞳でこちらを見返してきた。否定はすまい。愛嬌ではあるが、過ぎたものであることは確かだ。

「……あ、ああ、うん……。えっと、子供の時に会えなくなってた、友達のラズだよ」
「君、本気で気付かなかったのかな」
「えっ。いや昔のラズって、すごく可愛くて小さかったから……」
「はは。ありがちな話だね。それでも、もっと早く気付いても良さそうなものだけど……。まあ何にせよ、そんな風に仲良く抱き合って話せるならもう安心かな。なんだか妬けてしまうよ」
「あ、いや、これは、嬉しくてつい……、ちょっとラズ、は、放してくれよ」

 放すとでも思っているのか。腕の中から逃れようとする体を腕の中に閉じ込めて、しっかりと体を寄せる。今この腕から温もりが離れていっては欲しくない。

「あはは! 驚いたな。あの辺境伯がすっかり甘えたがりだね。後は二人でよく話し合ってきちんと仲直りするんだよ」

 ハイレリウスは黒髪を揺らし、愉快でたまらないといった感情を隠しもせずに朗らかに笑った。幾ら笑われようと、何と言われようとも恥じることなどない。言われるまでもない忠告にを小さく鼻で笑って見せると、彼はひらひらと手を舞うように振って、少しばかり癖のある笑みを口元に浮かべて返した。

「えっ、帰っちゃうの? ま、待ってくださいよ。ちょ、ラズっ、ほんとに放してくれよ!」

 ぐい、と乱雑に体を押し退けてくるシタン。さすがに、恩義のある相手との別れすらも阻むほど、狭量であるなどとは思われたくなく、仕方なく腕から彼を解放した。その途端に、自分以外の男の元へと走り寄っていくその、薄情な後ろ姿に、寂しさを感じてしまう。

「ハル様、また今度、辺境に来るようなら蜜酒でもご馳走するよ。あんまり高いのは無理だけど」

 貴族であるハイレリウスに、子犬が尻尾を振るように懐き慕う姿は、見ていてあまり気分の良いものではなかった。同じ貴族であるというのに、なぜこうもハイレリウスはシタンに友として好かれているのか。私という者がありながら……と、いささか稚気のある嫉妬だと自覚しながらも、ラズラウディアは密かに歯噛みをした。

「君と飲めるのならば、どんな酒でも良い。奉納祭には必ず来るから、その時にでも一緒に飲もう。あと、森の散策なんかにも付き合ってもらえたら、嬉しいれけど……どうかな?」
「うん! 俺で良ければ」

 ここまで素直に、少年のように頷くシタンなど、久しく見ていない。領主としてのラズラウディアにみせていた態度は、砕けた口調であっても、どこか腰の引けたものであったからだ。愛想を振りまき過ぎだ。堪え難くなり、背後からシタンを抱きすくめた。

「うわ。な、なにすんだよ。急に」
「散策は許すが、酒を飲むのは私とだけにしておけ」
「えっ、なんで」
「なにかあってからでは遅い」
「なにかって、なんだよ。酒飲むくらい別にいいだろ……」
「駄目だ」
「ぷっ、あははは!」

 貴族らしからぬ騒がしさだが、心から楽し気な笑い声が響く。ハイレリウスがこんなふうに笑う姿を見るのは初めてではないが、久しく見ていなかったものでもある。これは、シタンの気質が引き出したものだろう。

「はぁっ、まったく君達ときたら面白過ぎるよ。君の狩人殿は、私にとっては大切な友だ。襲ったりはしないから安心してくれ」

 当然だろう。もしもハイレリウスが、シタンに不埒な真似をするようならば、許しはしない。

「えっ、ハル様が俺を襲うと思ったのか? そんな訳ないだろ。なに考えてるんだよぉ……」
 
 それよりも問題は、自分にはそういった相手に食指を動かされることなどないと、なんの根拠もなく思い込んでいるこの男だ。体を拓かれたことで艶を増した肌に、気付く者がいないとも限らない。

「ふん。お前に馴れ馴れしく触れるような男は油断ならん。用心に越したことはない」
「なっ、なんてこと言ってるんだよぉ!」

 知らぬは当人ばかりだ。そんなシタンとラズラウディアのやり取りが余程に愉快だったのか、ハイレリウスは目に涙を浮かべてまで笑い転げている。

「ハル様、ラズの言うことなんて、気にしなくていいよ。俺、ハル様に友だって言ってもらえて嬉しいよ。また会えるの、楽しみにしてるから」
「ああ、気にしないよ。シタン、私も会えるのを楽しみにしている。……さて、それでは行くよ」
「うん、気を付けて。ハル様、ほんとにありがと!」

 嵐のごとく吹きすさんだかと思えば、そよ風のような軽やかさでハイレリウスは立ち去って行った。こうして、腕の中にシタンを送り届けて……いや、送り届けたと言うよりも、返しに来たというべきか。どちらにしても、望みうる最高の関係にまで、二人の繋がりを結び直していった。

 言葉にこそしなかったが、ハイレリウスの手荒くも親愛の籠った心遣いに、ラズラウディアもまたシタンと同様に深い感謝の念を抱いたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

カワウソの僕、異世界を無双する

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕 いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい! お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡ ★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。 カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり! BLランキング最高位16位♡ なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡ イラスト*榮木キサ様

処理中です...