48 / 59
番外編
遠くない未来についての展望
しおりを挟む
セディウスが、ネウクレアから『大好き』と言われた……その日の午後。
執務用の天幕で、リュディードは彼の漂わせている空気に戸惑っていた。
なんというか、明らかに浮ついている。今朝はいつもと変わらず穏やかで冷静な様子だったというのに、昼休憩の一刻ほどの間に何があったのか。
……察するまでもなく、ネウクレア関わっているのだとは分かるが。
笑み崩れた口元と、うっすらと血色の良い頬。どこか陶酔したような眼差しが端正な顔立ちに絶妙な色気を添えている。ペンを片手に「……ふぅ……」と、ときどき小さく漏れ出るため息も、艶めいている。
見ているこちらが赤面してしまいそうだ。
どうにかして顔を引き締めて欲しい。
「団長、この項目ですが、どのように調整すべきでしょうか。私としては現状維持が望ましいと考えますが」
「ああ、これか。これは……」
職務自体はそつなくこなしてくれているが、どうにも落ち着かない。
今までこんなふわふわとした空気を纏ったことのない団長のそれは、年齢が年齢なだけに初々しさよりも成熟した色気の方が強く押し出されてしまっている。
リュディードは思わず『どうしましたか、ずいぶんとご機嫌が麗しいようですが……』などと、口を滑らせそうになって言葉を飲み込んだ。
団長が惚気ている己に気付いて取り乱し、仕事にならなくなっては困る。
書類に意識を集中し続けて、ようやく休憩時間になった。リュディードは内心で緊張の糸を解き、大きく息を吐きながら立ち上がった。
「どうぞ」
丁寧に淹れた香り高い茶に、南街の名店から取り寄せた焼き菓子を添えて供する。
穏やかに微笑んで「ありがとう」と、礼を言いながらカップを手に取る団長。その所作は、さすが公爵家の子息だけあって優雅だ。
……そういえば、ネウクレアには褒賞の話が出ていた。なんでも、男爵位と領地を与えられるとか。
皇国の守護の要として、据え置くための策だろう。悪手とまではいかないが、ネウクレアの生い立ちや人となりを鑑みるに、彼ひとりでそれらを背負うのは荷が重いのは明らかだ。
となると、セディウスが後ろ盾になるのが妥当だ。
ネウクレアは騎士として第一騎士団に派遣され、団長の庇護と指導の下にいる。
英雄であるネウクレアを政治的に利用しようと画策する貴族たちよりも、団長こそがその立ち位置に相応しい……いや、相応しいどころか、団長の他に適任者はいないのだ。
団長とネウクレア間にある恋人とも親子ともつかない親密な関係を知るにつれて、彼らを引き離してはならないと常々思うようになった。
いずれは騎士団長の地位を辞して、ネウクレアと共に領地へ移住する日が来るのは間違いない。早いうちに、世代交代を滞りなく行えるように手を回しておくべきか。
団長と副団長は同時期に世代交代する。
そうなったときに、自分やファイスはどうしているだろうか。
ファイスはまだ何も考えていないようだが、自分としては団を辞した後もセディウスに仕えたい。ネウクレアと彼の領地での暮らしを支える仕事は、きっとやりがいがあるだろう。
そんな展望を脳裏で描きながら、リュディードは湯気の立つカップに口を付けるのだった。
※客観的に見て団長、惚気がダダ漏れだぞという話。
執務用の天幕で、リュディードは彼の漂わせている空気に戸惑っていた。
なんというか、明らかに浮ついている。今朝はいつもと変わらず穏やかで冷静な様子だったというのに、昼休憩の一刻ほどの間に何があったのか。
……察するまでもなく、ネウクレア関わっているのだとは分かるが。
笑み崩れた口元と、うっすらと血色の良い頬。どこか陶酔したような眼差しが端正な顔立ちに絶妙な色気を添えている。ペンを片手に「……ふぅ……」と、ときどき小さく漏れ出るため息も、艶めいている。
見ているこちらが赤面してしまいそうだ。
どうにかして顔を引き締めて欲しい。
「団長、この項目ですが、どのように調整すべきでしょうか。私としては現状維持が望ましいと考えますが」
「ああ、これか。これは……」
職務自体はそつなくこなしてくれているが、どうにも落ち着かない。
今までこんなふわふわとした空気を纏ったことのない団長のそれは、年齢が年齢なだけに初々しさよりも成熟した色気の方が強く押し出されてしまっている。
リュディードは思わず『どうしましたか、ずいぶんとご機嫌が麗しいようですが……』などと、口を滑らせそうになって言葉を飲み込んだ。
団長が惚気ている己に気付いて取り乱し、仕事にならなくなっては困る。
書類に意識を集中し続けて、ようやく休憩時間になった。リュディードは内心で緊張の糸を解き、大きく息を吐きながら立ち上がった。
「どうぞ」
丁寧に淹れた香り高い茶に、南街の名店から取り寄せた焼き菓子を添えて供する。
穏やかに微笑んで「ありがとう」と、礼を言いながらカップを手に取る団長。その所作は、さすが公爵家の子息だけあって優雅だ。
……そういえば、ネウクレアには褒賞の話が出ていた。なんでも、男爵位と領地を与えられるとか。
皇国の守護の要として、据え置くための策だろう。悪手とまではいかないが、ネウクレアの生い立ちや人となりを鑑みるに、彼ひとりでそれらを背負うのは荷が重いのは明らかだ。
となると、セディウスが後ろ盾になるのが妥当だ。
ネウクレアは騎士として第一騎士団に派遣され、団長の庇護と指導の下にいる。
英雄であるネウクレアを政治的に利用しようと画策する貴族たちよりも、団長こそがその立ち位置に相応しい……いや、相応しいどころか、団長の他に適任者はいないのだ。
団長とネウクレア間にある恋人とも親子ともつかない親密な関係を知るにつれて、彼らを引き離してはならないと常々思うようになった。
いずれは騎士団長の地位を辞して、ネウクレアと共に領地へ移住する日が来るのは間違いない。早いうちに、世代交代を滞りなく行えるように手を回しておくべきか。
団長と副団長は同時期に世代交代する。
そうなったときに、自分やファイスはどうしているだろうか。
ファイスはまだ何も考えていないようだが、自分としては団を辞した後もセディウスに仕えたい。ネウクレアと彼の領地での暮らしを支える仕事は、きっとやりがいがあるだろう。
そんな展望を脳裏で描きながら、リュディードは湯気の立つカップに口を付けるのだった。
※客観的に見て団長、惚気がダダ漏れだぞという話。
78
あなたにおすすめの小説
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩
ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。
※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる