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本編
拭いきれない疑念
しおりを挟む――翌日。
セディウスと連れ立って演習場に現れたネウクレアは、ほかの騎士団の団長らに対し無言で見事な騎士の礼を披露し、早々と箱の開封に取りかかった。
箱に施された術式に、ネウクレアが別の術式を重ねると、封印はあっさりと解けて霧散した。
衣装箱のような大きさのそれからいくつかの部品を取り出し、周囲が見守るなか慣れた手つきで組み立て始める。
大人の二の腕ほどの太さで、身の丈の半分ほどの長さがある筒状の金属の下部に、剣の柄のような大小の部品がはめ込まれた。筒の後部には、縦長の楕円を湾曲させたような金具が取り付けられた。
短時間で完成させられたそれは、帝国の銃と大砲を掛け合わせたような奇妙な形状だった。 剣と魔導による戦闘を主体とするレゲムアーク皇国では、見られない類の武器である。
「なんと奇っ怪な……。これが魔導銃か」
第二の騎士団長が髭をしきりと弄りながら、呟く声が聞こえた。
「ネウクレア、これをお前は扱えるのか」
真横で組み立てを見守っていたセディウスがそう問うと、ネウクレアが弾丸の入った帯を腰に着けながら「トウルムントで訓練を完了している」と、答えた。
立ち上がり、完成した武器を取り回す姿は武器の使い方を知らないセディウスから見ても、相当に扱い慣れていると感じる動きだった。
「……そうだったのか」
まるで、今回の全面戦争を予見していたかのようだ。また、ひたひたと近付いてくる悍ましいものを感じる錯覚に陥り、セディウスは全身に力を込めて震えが走るのを堪えた。
――全てが、トウルムント公の掌の上にあると、否が応でも思わされる。
「ネウクレア! その武器ちょっと見せてくれ!」
明るく大きな声が演習場に響き、セディウスの体から震えが消え去った。
ファイスだ。
演習場の入口に現れた彼は、一直線に駆けてきて銃を見ようとネウクレアを囲む騎士団長たちを押し退けて近づいてきた。それに便乗して足早にリュディードも前に出て、副官らしくセディウスの後ろに立った。
ファイスがネウクレアの手にある魔導銃を覗き込み、その愛嬌のある緑色の瞳を丸くして、「へぇ、なんかカッコいいな!」と、叫んだ。
「……こいつ、相変わらずだな」と、第四の騎士団長が言いながら苦笑し、ほかの面々もまあ、ファイスだから仕方ないなという雰囲気で破顔する。
「はしゃぎすぎですよ、ファイス」
ファイスの無邪気さにリュディードも苦笑しながら、魔導銃をじっくりと観察し始める。
「後部に爆発系統の魔導術式が後部に刻印されていますね。ヴァイドの銃に似ていますが……火薬の代わりに魔力を使うなんて、面白い仕組みですね」
魔導銃の機構を、見事に言い当てたリュディード。
「そうだ」
ネウクレアは驚きもせず肯定の言葉を返し、周囲からは感心したような声が上がった。ファイスはというと、呑み込めていない様子で目を白黒させて首を傾げてしまっている。
「つまり、どういう武器なんだ? リュデ、わかりやすく説明しろよ」
「帝国の銃火器技術と、こちらの魔導術式を合成した遠距離攻撃武器ですよ。昨日の会議に出ていなかったとしても、貴方ちょっと勉強不足すぎやしませんか。今度、座学を受けさせましょうか」
「あー、聞こえない! 聞こえないぞ! 俺は感覚派なんだ!」
あからさまに叫んで耳を塞ぐファイスの頭を、リュディードが拳で軽く叩く。
「イテっ!」
「戦闘特化であっても、知識は大事ですよ。まったく……」
そんな二人には見向きもせず、ネウクレアは腰の帯から卵ほどの大きさの弾丸を抜き出し、銃身である金属筒の上部に装填した。
「ん? それを撃つってことか」
「そうだ」
側面の小さな握り金具を引くと、鈍く金属が噛み合う音を立てて、弾丸装填用の開口部が閉じられた。
「魔力を下部の柄を介して注入することで起爆術式が発動する」
ネウクレアはそう言うなり、体を捻り握って柄の部分をファイスの鼻先に向ける。
「そして、衝撃によって弾丸が筒の先端部から射出される」
続いて鍛錬場に準備された的へ銃口を向け、肩に後部を当てながら構えて見せた。
「うん、なんとなくわかったぞ。バンッてやると弾が出るんだな!」
ぱっと顔を明るくしてファイスが叫ぶ。
「……間違ってはいないですが、ふっ、ふふ……その、言い方がなんというか、ふふ……」
「リュデ、お前ちょっとうるさいぞ!」
ふくれっ面をしたファイスに肘でわき腹を突かれたリュディードが「痛いですよ!」と……怒る。一連のやり取りに複数の忍び笑いが漏れ聞こえ、なんとも緩い空気が漂っていた。
ネウクレアはそんな彼らを気に留めた様子もなく、銃身後部の金具を肩に当て直し、銃身を低く下げて身構えてから、「では、発射する」と、周囲に告知した。
――緩い空気が一瞬で引き締まり、誰もが口を噤んだ。
下から振り上げるようにして、銃口を遠く離れた位置にある、人工の土山に向けた刹那。
銃が眩く発光した。
――ドウッ!
地響きをともなう爆発音……いや、発射音が、辺り全体に響き渡り、直後に炎をはらんた過剰な爆発によって土山は跡形もなく四散した。
「うおっ!」
誰のものとも知れない、愕きの声が上がる。かなり距離を取っていた騎士たちにまで、その余波が土ぼこりをともなう爆風となって吹き付けてきたのだ。
肌がひりつくような空気の揺れが、衝撃の強さを物語っている。土ぼこりが収まると、地面までもが深く抉り取れられているのが見て取れた。
恐ろしい威力だ。
セディウスは、ネウクレアの身体が発射の瞬間に大きくぶれたのを見逃さなかった。
踏み締めた足元が、深く土にめり込むのも。
「……お、おおっ? 山が消えたぞ!」
ファイスが真っ先に叫んだ。
懐疑的な表情で遠巻きに見守っていた騎士たちからも、大きなどよめきが起こる。
「こ、これは……凄まじい……。現状の魔導術式では、出せない威力ですね……」
リュディードが呆然としながらも、思わずといった様子で声を漏らした。
魔導銃からは、微かに鉄臭が漂っている。戦場で嗅いだ忌まわしい硝煙の臭いとは違うそれは、過剰な摩擦による発熱によって起こったものか。
魔力の余韻が燐光となって銃身の周りを蝶のように優雅に舞い散り、儚く消えていく。魔導術式による機構が間違いなく組み込まれているのだと、はっきりと見て取れた。
「砲撃部隊に着弾した場合は火薬に反応し、さらに広範囲が爆発炎上する」
「もっとすごいのか! これ、俺にも撃てるのか?」
ファイスが瞳を輝かせて聞くと、ネウクレアは静かな声で「不可能。自分の魔力によってのみ、適正な威力で発動するよう調整されている」と、明瞭に答えた。
「なんだ、撃てないのかぁ……。俺も撃ちたかったぞ! ちょっと見てくる!」
土ぼこりと白煙が立ち上る山の跡地へ、好奇心丸出しで走っていく。その後を追うようにして、ほかの騎士たちも動き出した。
セディウスはそんな彼らを横目に、「こんな破壊力のある武器を使っていて、お前の身体には影響がないのか」と言いながら、銃を支えていたネウクレアの肩に触れた。
「鎧が衝撃を緩和する」
「緩和……か」
彼の答えにセディウスは眉をひそめた。
「完全には抑えきれないということだな。魔導防壁を併用してもか」
「衝撃の完全抑制は不可能だ」
たとえどれほどに鎧の耐性が高いとしても、衝撃は想像を絶するだろう。
「ネウクレア、お前はそれでいいのか」
「了承している。自分が魔導銃を使用しない場合の、騎士団の損害は甚大であると予想。最善ではない」
「そうか……。だが、無理はするな。限界が近くなったら、撃つのを中止するように」
「全弾使用で問題はない」
管状の揺らぎのない、明確な返答だ。
そうあるべくして育成されたのだとしても、健気な献身と強い決意をそこに見て取ったセディウスは、ただ黙って彼を見詰めることしかできない。
ファイスは消えた山の跡にできた窪地を覗き込んで、騎士の面々と興奮した声を上げて騒いでいる。……好奇心旺盛な彼らしい姿に、思わず苦笑が漏れた。
彼のように、素直に喜べる気分には到底なれない。
魔導銃は、勝機を見出すに足りる光明なのは間違いない。だが、それを放つネウクレアは最後まで無事でいられるのだろうか。
耐久限界とは、彼の身体的な限界そのものを指しているではないのか。
――この疑念は、開戦当日まで拭い去ることができず、セディウスの胸に言い様のない不安と鈍い痛みを与え続けることになる。
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