【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

10 ……シャクだ。

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 ――食事を終えて店を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。忘れないうちにとシアに首飾りを手渡しながら、リィは満ち足りた表情でこう言った。
 
「ちょっと助けただけで、いい思いをさせてもらったな」
「足りないくらいだよ! 助けて貰えなかったら、もっと酷い事になっていたよ」

 受け取った首飾りを身に付けて衣の下に仕舞いながら、蹴られた所が青あざになっていたよと苦笑する。

「あいつら、今度顔見たら締めとくか……」
「止しておいて。彼らに君が恨まれてしまうし、僕が不用心だったのだから」
「ちっ、人が良すぎるぜアンタ。あれに懲りて、今度は護衛でも連れて歩けよ」
「個人的に出歩く時に連れて行きたい人が、ちょっと居ないんだよね」

 気の合う人でないと肩が凝るよと呑気に笑いながら言う様に、リィはあからさまに眉間に皺を寄せる。

「ふざけた我がまま言ってんなよ。次も打撲で済むとは限らねぇぞ! アホなのか?」
「ははは! 怒られちゃったね。リィに心配掛けない様に出来るだけそうするよ」
「心配してねぇ! アンタがお気楽すぎて呆れてんだ! じゃ、俺はここいらで帰るぜ」

 騒がしく喋りながら表通りまで来た所で、あっさりと別れを告げたリィの腕を大きな手がぐっと掴んで引っ張った。何だまだ用があるのかと怪訝に思いながら振り返れば、眉尻を下げた情けない顔で此方を見る青年と視線がかち合う。

「なんだよ?」
「ねぇリィ、もう少しだけ僕と一緒に歩いて」
「は? なんだそれ。この辺なら夜でも護衛なんて必要ねぇだろ。馬車でも捕まえて帰れ」
「冷たい! 凄く冷たい! 事が済んだらさよならなんて! 折角お近付きになれたのだから、もっと仲良くしてくれてもいいでしょ! リィったらホントに冷たいよ! お願いだからもっと話そうよ!」
「あぁ? うるせえ! 腕を離せ! 近寄るな! すげぇ気色悪い!」

 大人気なく駄々をこねる青年の手を振り払って、後ずさる。

「なんで後ずさるの! 酷いよ!」
「アンタ、相当酔ってるだろ……。分かったから騒ぐなっ」

 人通りのある場で騒いだ事もあり、何事かと二人をちらちらと見る者達がいる。顔に赤痣を持つ異相の若者と、身なりの良い長躯の美青年の言い合いだ。さすがに悪目立ちに過ぎるのだろう。

「ありがとう! それじゃ、東通りまで一緒に行こう」
「……それ以上は付き合わねぇからな」
「うん。わかったよ」

 お願いが叶えられてコロッと大人しくなるその現金さに、リィはやっぱりコイツは厄介な奴だと内心で舌打ちをした。裏路地で助けた時もだが、嫌そうな態度を取ろうが露骨に断ろうが、結局はシアの思い通りにされている。……シャクだ。
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