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本編

12 抱擁

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「……俺、こんなに自分のこと他人に話したのは、アンタが初めてだ」

 胸の奥が温かくなっていく。言うべき言葉が見つからないもどかしさに苛立って、険しくなっていた表情がふわりと綻び、言葉の柔らかさそのままの綺麗で優しい笑みが広がっていく。

 ――その刹那、シアに強く抱き締められた。

「うわっ……!」
「あはは! よかった! 安心したよ!」

 衣から漂う微かな香の匂いが鼻先をかすめ、密着した身体から伝わる温もりが嫌に熱く感じた。

 一体どうしたのかと目を見開いて驚くリィを他所に、抱き締めている当人は心底嬉しそうに笑い声を上げてはしゃいでいる。そんなに喜ぶようなことを言っただろうか。訳が分からない。

「――ああ、まいった。そう言って笑って貰えて僕も、とても嬉しいよ……」

 耳元で囁かれ、背中に回された腕に力を込められたのに驚いて大きく身を震わせると、惜しむようにゆっくりとした動きで抱擁が解かれて温もりが遠退いていった。

「ふふ。驚かせてごめんね。とても嬉しくて、思わず抱き締めちゃった」

 身を離してこちらを見たシアは、仄かに頬を上気させて蕩けるような甘い笑みを浮かべていた。なまじ端正な顔をしているだけに、そんな顔をされるとこちらまで顔が熱くなってしまう。

「それじゃ、またね!」
「……あ、ああ」

 この場で起きた出来事を頭の中で噛み砕けずに呆然としているリィの前で、シアはヒラヒラと無邪気に手を振って微笑んだかと思うと、くるりと背を向けて軽やかな足取りで歩き去って行った。

「な、何だったんだあれ……」

 唐突な嵐が過ぎ去った後のような心地で、リィはしばらくその場に立ち尽くしてしまったのだった。
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