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本編
13 夢にまで見る
しおりを挟む――甘く優しい声が、自分の名を呼んでいる。
「リィ……」
空色の美しい瞳が細められて、端正な顔に無邪気な笑みが浮かぶ。
「……君に喜んでもらえて、嬉しいよ」
両腕を取られて引き寄せられたかと思うと広い胸に抱き締められて、大きな手の平で優しく背中を撫でられた。
青年の身体は筋肉の付きが薄く逞しいとは言えないが、長身で骨格が確りとしている為か頼りなさは感じない。衣から漂う微かな香の匂いは不快なものではなく、密着した体から伝わる温もりが心地良い。
やがて背中に回された腕が解かれ、青年がリィから離れた。
「――それじゃ、またね」
霞が掛かった様に視界が薄れて行き、青年の姿も消えていく。
「シア……」
思わず引き留めようとした手が掴んだのは、寝床に敷いたシーツだった。
――シアという青年に抱き締められた夜から、随分と日が過ぎていた。
あれから再び会う機会はなく変わり映えのしない毎日を過ごしていたのだが、あの無邪気でうるさく強引な青年のことがどうにも忘れられずにいた。
闘技場の舞台に立つとき、今まで視線をほとんど向けなかった観客席に目を凝らし、空色の瞳に明るい赤毛の青年の姿を探してしまったのは一度や二度ではない。
裏路地で助けた際に、試合を観るのは好きだと彼が言っていたのを覚えていたからだ。
あんな場面に出くわさなければ、話をするどころか近づくこともなかった類の人間だ。もう二度と会うことなどないのかも知れない。それなのに、どうしてこんなに気になるのか。
……考えるだけ無駄な事だ。忘れよう姿を探すのも止めよう。
そう気持ちを切り替たつもりでも、どうしても観客席に彼の姿を探すのを止められない。挙句の果てには抱き締められる夢まで見てしまった。しかも、現実で抱き締められた時より身体の熱や匂いを生々しく意識してしまい、それはリィを酷く居た堪れない気分にさせた。
これは一体、何だろうか。どうにも始末に負えない。あんな奴が忘れられないなんて。
「ありえねぇ……」
いつまでこんなもやもやとした気分が続くのか。さっさと忘れてしまいたい。寝床の上で髪をかき乱しながら、不機嫌な表情を更に恐ろしく不機嫌にしてリィは呟いた。
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