【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

14 もうひとつの悩み

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 ――シアの夢を見た日の試合前。

 控室の壁に背を預けて腕を組んだ姿勢で静かに出番を待っていたリィは、その夢のなかの出来事が頭から追い出せず、珍しく険の抜けたぼんやりとした顔で物思いに耽っていた。

 ……そういえばシアは、別れ際にまたねと言っていた。そのうち会いに来てくれるかもしれない。
 
 そんな期待をしている自分に気付いて、頭をひと振りして眉間に皺を寄せる。
 
「来る訳がねぇし」

 小さくため息をついた直後に、試合の呼び出しが掛かった。冴えない表情で控室から出て通路を進み、歓声の響く屋外の舞台へと足早に歩いていく。



 ――今、リィの抱える悩みはシアのこと以外に、もうひとつあった。

 二つ名持ちになった闘士は、貴族や豪商から食客や武術の指南役として召し抱えられる。貴族らにとっては二つ名持ちを抱えるという事そのものに価値があり、闘士にとっても悪い話ではない。

 そうしてお抱えになった闘士は、試合前の案内で本名や二つ名に加えて、何処の誰に仕えているかという事も観客に向けて毎回告げられる。

  リィには、まだ仕えている相手はいない。

 二つ名を得たのはもう二カ月ほど前になる。それ以降も地位に恥じない数の勝ち星を上げており戦績はそれなりなのだが、未だ何処からもそういった誘いの声が掛からないのだ。

 ――以前に間近で顔を見たいと、闘技場に設けられた上客用特別席に呼び出された事はあった。

「こんな痣は見た事が無い。呪われているようだな!」 
「本当に生まれ付きなのか? 目立とうとして紅でも塗っているのではいのかね」
「なんとも恐ろしい顔をする闘士だ。これでは夜会なぞの供には出来そうもないな」

 などと、その場にいた複数の貴族らに揶揄い混じりに好き勝手なことを言われ、珍しい生き物を眺める見世物のような扱いを受けた。とてつもなく腹立たしく暴れ出したい衝動を堪えながらも、険悪な表情をして無言を貫き通したリィに対して、ついぞ召し抱えたいなどという声は掛からなかった。

「愛想というものを覚えたまえ。そうすれば誰か召し抱えてくれるかもしれないぞ」

 肥え太った貴族が尊大な口調で言った皮肉に、はらわたが煮える思いをした。

 ……この顔の、痣の所為で、子供の頃と同じ目にまた遭うのか! 薄汚れた豚に似た貴族が言うように、愛想というやつを覚えて振り撒けばいいのか! 

 そんな風に媚びるくらいなら、いっそ永久に声など掛からなくて構わないと思った。
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