【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

本編

15 どこかで観てくれている気がした

　なんともすっきりしない気分のまま、リィは闘技場の舞台へと進んでいく。　

「――赤痣のリィ！」
　
　名を告げられ、大きくなった歓声と共に舞台に上がり、真っすぐに相手を睨み据える。

　今日の相手は自分と同じ二つ名持ちの闘士だ。主無しのリィとは違い、二つ名に加えて仕えている主の名も告げられた。大柄な体躯に恵まれ、野性味のある容貌をしたなかなかの男前だ。

　女受けも良いらしく、歓声に娘らが彼の名を呼ぶ甲高い声も多く混ざっている。愛嬌のある笑みを浮かべ観客に手を振る様は、剣呑な表情で不愛想に立ち尽くしているリィとは正反対だ。

　あんな真似は自分には出来ないと、少しばかりささくれた気分になってしまう。

　この闘士とは何度も闘っているが、勝敗は五分五分だ。互いに好敵手と認めている相手である。

　……今日は、コイツに絶対に負けたくない。

　夢を見たせいかも知れないが、どこかでシアが試合を観てくれている気がした。勝てば喜んでくれるかもしれないという考えに至った途端、気持ちが高揚して卑屈混じりのささくれた気分があっという間に消えていく。

　……この感じは悪くない。どんな試合になっても、きっと勝てる。

　身体から無駄な力が抜けていく感覚と共にリィはそれを確信し、口元には微かにだが柔らかい笑みが浮かんだ。早く戦いたい。今ならきっと最高に良い動きが出来るだろう。

　際限なく湧き上がる高揚感に心を躍らせながら、試合開始の合図を待った。







　――実際、この試合でリィは観客が目を見張る闘い振りを見せ、鮮やかに勝利を収めたのだった。