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本編
18 下町での食事
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客用の出入り口から闘技場の外へと出た二人は、下町へ向かう路を肩を並べて歩き出した。
「馬車は使わないのか」
「歩きたいから良いよ。のんびり話もしたいし」
「そういや、アンタ下町で食事したいって言ったけどな、お坊ちゃんの口に合うもんかどうかなんてわかんねぇだろ。食えないってダダ捏ねられても困るからな」
「お坊ちゃんって! 大丈夫だよ。僕、舌は庶民だから!」
「庶民が腹抱えて笑うこと言ってんじゃねぇし」
「リィったら酷い! ほんとだからね!」
「騒ぐんじゃねぇって言ったそばから騒ぐな。あんたアホなのか」
「アホじゃないよ! バカかもしれないけど……」
「似たようなもんだろ」
「違うと思うよ!」
やはり、この青年はとにかく騒がしい。
だが、返される言葉には嫌悪や棘のようなものは一切なく、料理店で食事をした夜もそうだったが、こうして肩を並べて歩くのは悪い気分ではない。独りで黙って歩くいつもの下町の景色も、シアと話しながら歩くとまた違って見えてなんだか新鮮だ。
――やがて、入り組んだ路地の奥にある飯屋へと辿り着いた。昼時の混雑で賑わう中で空いた席を見つけて座ると、店主の娘が注文を取りにやって来る。
「アンタ、なに頼むんだ」
「リィと同じので良いよ」
「……そうかよ。屑野菜スープと雑穀パンにスジ肉の煮込み、二人分くれ」
「はいよ」
素っ気のないリィの淡々とした注文に、同じような態度で返答をしながらも娘の視線は時折シアの方へと向けられている。下町では凡そ見掛けない類の美青年だからだろう。
――そんな娘の視線に気付いたシアが娘にニコリと微笑んで見せると、頬を赤くして厨房へと駆け込んでいった。
「初々しくて可愛いね」
「下手に色目使ってるとオヤジに締められるぞ」
「わぁ、怖いね! 気を付けるよ」
恥ずかし気な笑みを浮かべた娘が二人分の料理を大きな盆に載せて運んで来て、手際よくテーブルの上に並べていく。
「お待ちどう! ごゆっくりどうぞ」
「美味しそうだ。ありがとう」
礼を言うシアに向けて娘がどういたしましてとはにかんだ笑顔を浮かべ、再び厨房へ駆け戻っていく。リィが一人で来ている時には、ごゆっくりどうぞなんて言われない。あんな笑顔も見たことがない。
相手によってこんなにまで違うのかという、感心と呆れの混ざった複雑な気分になったが、そんな気分に浸るよりも空きっ腹に飯を詰め込む方が優先だ。
丸いパンを平たく裂き、スジ肉をたっぷり乗せてがぶりとかじる。それを見ていたシアも、同じようにスジ肉をパンに乗せて豪快に大口を開けてかじった。
「んぐ……、んっ、美味しい」
満足気に笑みを浮かべて顎に垂れてしまった肉の油を指で拭い、それをペロリと舐める仕草が妙に様になっている。料理店でのゆったりとした品のある食べ方とは全く違う姿を見て、リィは思わずニヤリと笑ってしまった。
「んっ? 僕、食べ方が変だったかな」
「いや、アンタみたいなお坊ちゃんが、俺と同じ様に大口開けて飯食ってるのが面白ぇってだけだ」
「笑わないでよ! 酷い!」
「騒ぐんじゃねぇ。大人しく食えよ」
「君が笑うからでしょ……!」
「アンタが面白いのが悪いんだ」
「ええっ! リィったら意地が悪いよ! ……ああでも、こうやって食べて話せるのが楽しいよ。リィと一緒だからかなぁ。連れて来てくれてありがとう」
聞いている方がむずがゆくなるようなことを照れた様子もなく言って、シアが嬉し気に微笑む。その笑顔を見ていると、こちらまで嬉しい気分になって口元が緩んでしまう。
「アンタさえ良けりゃ、また飯食いに連れて来てやる」
「ほんと? 嬉しいよ! ありがとう!」
ここで誰かと共に食事をしたことなどなかったが、シアと食べる昼飯は、どうしてかいつもより美味く感じる。こんなうるさい奴だが、構ってやるのもいいのかもしれない。
――このときはまだ、そんなふうにしか……シアという青年のことを思っていなかった。
「馬車は使わないのか」
「歩きたいから良いよ。のんびり話もしたいし」
「そういや、アンタ下町で食事したいって言ったけどな、お坊ちゃんの口に合うもんかどうかなんてわかんねぇだろ。食えないってダダ捏ねられても困るからな」
「お坊ちゃんって! 大丈夫だよ。僕、舌は庶民だから!」
「庶民が腹抱えて笑うこと言ってんじゃねぇし」
「リィったら酷い! ほんとだからね!」
「騒ぐんじゃねぇって言ったそばから騒ぐな。あんたアホなのか」
「アホじゃないよ! バカかもしれないけど……」
「似たようなもんだろ」
「違うと思うよ!」
やはり、この青年はとにかく騒がしい。
だが、返される言葉には嫌悪や棘のようなものは一切なく、料理店で食事をした夜もそうだったが、こうして肩を並べて歩くのは悪い気分ではない。独りで黙って歩くいつもの下町の景色も、シアと話しながら歩くとまた違って見えてなんだか新鮮だ。
――やがて、入り組んだ路地の奥にある飯屋へと辿り着いた。昼時の混雑で賑わう中で空いた席を見つけて座ると、店主の娘が注文を取りにやって来る。
「アンタ、なに頼むんだ」
「リィと同じので良いよ」
「……そうかよ。屑野菜スープと雑穀パンにスジ肉の煮込み、二人分くれ」
「はいよ」
素っ気のないリィの淡々とした注文に、同じような態度で返答をしながらも娘の視線は時折シアの方へと向けられている。下町では凡そ見掛けない類の美青年だからだろう。
――そんな娘の視線に気付いたシアが娘にニコリと微笑んで見せると、頬を赤くして厨房へと駆け込んでいった。
「初々しくて可愛いね」
「下手に色目使ってるとオヤジに締められるぞ」
「わぁ、怖いね! 気を付けるよ」
恥ずかし気な笑みを浮かべた娘が二人分の料理を大きな盆に載せて運んで来て、手際よくテーブルの上に並べていく。
「お待ちどう! ごゆっくりどうぞ」
「美味しそうだ。ありがとう」
礼を言うシアに向けて娘がどういたしましてとはにかんだ笑顔を浮かべ、再び厨房へ駆け戻っていく。リィが一人で来ている時には、ごゆっくりどうぞなんて言われない。あんな笑顔も見たことがない。
相手によってこんなにまで違うのかという、感心と呆れの混ざった複雑な気分になったが、そんな気分に浸るよりも空きっ腹に飯を詰め込む方が優先だ。
丸いパンを平たく裂き、スジ肉をたっぷり乗せてがぶりとかじる。それを見ていたシアも、同じようにスジ肉をパンに乗せて豪快に大口を開けてかじった。
「んぐ……、んっ、美味しい」
満足気に笑みを浮かべて顎に垂れてしまった肉の油を指で拭い、それをペロリと舐める仕草が妙に様になっている。料理店でのゆったりとした品のある食べ方とは全く違う姿を見て、リィは思わずニヤリと笑ってしまった。
「んっ? 僕、食べ方が変だったかな」
「いや、アンタみたいなお坊ちゃんが、俺と同じ様に大口開けて飯食ってるのが面白ぇってだけだ」
「笑わないでよ! 酷い!」
「騒ぐんじゃねぇ。大人しく食えよ」
「君が笑うからでしょ……!」
「アンタが面白いのが悪いんだ」
「ええっ! リィったら意地が悪いよ! ……ああでも、こうやって食べて話せるのが楽しいよ。リィと一緒だからかなぁ。連れて来てくれてありがとう」
聞いている方がむずがゆくなるようなことを照れた様子もなく言って、シアが嬉し気に微笑む。その笑顔を見ていると、こちらまで嬉しい気分になって口元が緩んでしまう。
「アンタさえ良けりゃ、また飯食いに連れて来てやる」
「ほんと? 嬉しいよ! ありがとう!」
ここで誰かと共に食事をしたことなどなかったが、シアと食べる昼飯は、どうしてかいつもより美味く感じる。こんなうるさい奴だが、構ってやるのもいいのかもしれない。
――このときはまだ、そんなふうにしか……シアという青年のことを思っていなかった。
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