【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

19 貴族の令嬢

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 ――シアと再会した日から数カ月が過ぎた。

 この頃には、彼とはすっかり顔馴染みとなっていた。なぜなら、頻繁ではないが彼が試合を観戦した際には、必ず特別席へリィを呼ぶからだ。そして、時間が許せば下町や闘技場の近くの食事処で、昼飯を食べながら過ごすのが当たり前の流れになっていた。

「今日はどこに行こうかな。ねぇ、リィはなにが食べたい?」
「麺物がいい」
「そう。それならあっちかな。麺料理が美味しい店が新しくできたのだけれども、どうかな」
「へぇ。いいなそれ。行ってみたい」

 などと話し合いながら数度目になる食事に行こうと足を向けた先の路際に、立派な馬車が停まっていた。

 馬車の横にはリィが今日の試合で負かした闘士……リィが好敵手とみなしている男……と、貴族の令嬢がいた。気位の高そうなきつい顔立ちをした令嬢は、自らの前に片膝を付きかしこまっている闘士に向けて、銀細工の施された扇子を畳んで教鞭のように振りながらなにかを言っている。

「まいったな……」
  
 ぼそりと小さくシアが呟いたのが耳に入って、リィは彼の顔を見上げた。

「どうしたんだよ」
「あの子、苦手なんだよねぇ……。あ、気付かれちゃった」

 視線を戻すと、令嬢が微笑みながらこちらへ歩いて来ていた。

「奇遇ですわね。貴方様にお会いできるなんて」
「ああ、本当に奇遇だ。君も試合を観に来ていたのかな」

 明るく砕けた態度は鳴りを潜め、やや硬い口調でもってシアは娘に応じる。 

「ええ、今日は我が家で抱えている闘士の試合を観ていましたの。そういうときに限って、負けてしまいましたけれど」

 令嬢がちらとリィの方を見て、憎らし気に目を細める。

 嫌な視線に気分が悪くなり目を逸らすと、馬車の方で片膝を付いた姿勢から立ち上がりこちらを見ている好敵手の闘士と目が合った。リィの心中を知ってか知らずか苦笑しながら手を振ってきたので、軽く手を上げて応えておく。
 
 そうしたやり取りを闘士の二人がしている間に、令嬢がシアに身を寄せて話を続ける。

「以前に見たときにも思いましたけれど、その御髪の色もシア様によくお似合いですわ」
「そう? それは嬉しいね。有難う」
「うふふ。例えどの様な色に変えていらしても、私はきっと貴方様だとひと目で判ります」
「君には適わないな……」

 親し気に話し掛けてくる彼女に対して、シアは品良く微笑んだ。端正で甘い容貌に浮かべられたその微笑みは美しかったが、リィに見せていた感情豊かで無邪気な様とは明らかに違っている。

「シア様とお会いできるのを楽しみにしていましたのに、夜会などにお姿をお見かけ致しませんでしたし、お声も掛けて頂けなくて私、寂しく思っていましたの。こうして奇遇にもお会いできて、とても嬉しゅうございますわ」
「いや、なかなかに忙しくてね」
 
 熱の籠った視線で見詰めながら延々と喋り続ける令嬢に、シアが品のいい微笑みを貼りつけた顔で型に嵌った言葉を返すという会話が繰り広げられた。

 粘着質な視線を送りながら話し掛けてくる娘のことを、シアは相当に好きではないらしい。態度の違いと言葉選びからそれに気付いて、リィは思わず眉間に皺を寄せてしまった。
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