【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

21 嘲りの言葉

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 胸の痛みに眉根を寄せていると、令嬢がさらに嫌な言葉をぶつけてくる。

「二つ名持ちで一人だけ主無しの者がいると噂になっていますけれど、この闘士がそうなのでしょう?」

 ぐっと拳を握り締め、歯を食いしばる。もうすぐ一年が過ぎようとしているのに、いまだに主無しだ。二つ名持ちになった当初に特別席で嫌味な貴族に見世物扱いされてからというもの半ば自棄になっていて、どうでもいいと思っていたが、全く気にしていない訳ではない。

「仰る通りのなのでしたら、一体なぜ、声が掛からないのでしょうね。……シア様のお言葉を疑うのは、とても心苦しいのですけれど」

 銀細工の扇子を開いて口元を隠し、くすくすと令嬢が笑った。嘲りに満ちた声と嫌らしい笑みが、胸に走った痛みを深く強いものへと変えていく。

 ……醜い容姿を莫迦にされ誰からも欲しがられない半端な自分のどこを気に入って、シアは構ってくるのか。他の貴族と同じように、ただ珍しがっているのだろうか。優しい笑顔を自分に向けてくれてはいるが、この娘が向けてくる様な嘲りがその裏に隠れているのだとしたら……。 

 悪い考えばかりが浮かび、胸の痛みは増々強く深くなっていく。幾度も容姿を貶され虐げられてきたリィだったが、こんな奇妙な痛みを感じたのは初めてだった。

 痛い。苦しい。こんな痛みは、誰に殴られ蹴られても、感じたことがないものだった。

「……シア、このお品のいいお嬢様と飯に行けよ。お貴族様同士で仲良くしてりゃいいだろ」

 もう耐えられない。
 
 経験したことのない痛みに苛まれ、追い詰められた末に口から出たのは、拗ねた子供のようなつたない言葉で、それはリィを酷く惨めな気分にさせた。

 どんなに強気に構えていても、こんなことしか言えない。憎たらしい小娘の言葉をあしらえるものを、自分はなにも持っていない。どこまでいっても醜く無力で、どうしようもない人間のままだった。

 苦し気に深く息を吐き、独りきびすを返して歩き出す。

 ――この場にはもう、居たくなかった。

「待って、リィ!」
 
 呼び止めるシアの焦った声を無視して歩調を早める。令嬢の姿を視界に入れたくはなくて、馬車が停まっている方とは真反対の路を選んで下町へと向かうことにした。
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