【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

25 触れる手の

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「……つねってごめんね」

 まだ痛みの残る頬を指で何度もそっと撫でられると、胸の奥が緩やかに締め付けられて心地良い温かさが満ちてくる。

「ひりついたり、痛んだりしないのかい?」
「し、しないっ……!」
「そう。ただ赤いだけなんだね。安心したよ」

 その言葉にとくりと大きく心臓が鳴った。

 シアにとって痣は嫌悪の対象ではないのだ。それどころか、痣によってリィ自身に障りがないかの心配までしてくれている。こんな言葉を他人からもらえるとは予想もしていなかった。

 言い表し様のない、幸せな気分だ。

 そして、肌の上を滑る指先のあまりの気持ちよさにつられて、思わず身を震わせ小さく吐息を漏らしてしまう。身体の力が抜けそうになり、両の拳を強く握り締めて足を踏ん張った。

「……な、なぁ、まだ触るのか……?」
「もう少しだけ」

 頬を両手でやんわりと挟んで上向かせて、鼻先が触れそうなほど顔を寄せてきた。恐ろしく澄んでいて綺麗な空色の瞳や長い睫毛がよく見えて、落ち着かない。

 ……近い。近過ぎる。

 痣を良く見ようとしているのだろうが、まるで口付けでもされてしまいそうなほどに極端な顔の近さに瞳を閉じてしまった。

「髪が邪魔だなぁ。ちょっと失礼するよ」
「んっ……」

 額や頬に掛かっている髪が指で梳かれて、除けられていく。その手つきも優しくて気持ちいい。もっと触れて、いつまでも撫でて欲しいという欲求が溢れ返って、なにも考えられなくなる。

「こんな顔をしていたんだね……」

 ――我を忘れかけたリィの耳に、微かな声音での呟きが届いた。

 気持ちよさに酔った頭で、こんな顔とはどういう意味なのかとぼんやりと疑問に思うが、それは声にならずトロリと意識の中に溶けてしまう。

「ありがとう。満足したよ」 
「うう……っ」 
 
 顔から手が離れたのを合図に目を開けたリィは、ふるりと幾度か頭を振って酔いを追い払う。撫でられただけで、なぜこんなふうになってしまうのか。シアの手には変な力でもあるのかと疑いたくなった。

「あはは、ちょっと弄り過ぎたね。疲れちゃったかな?」
「ほんとに弄り過ぎだ……。バカ」
「ごめんごめん。そんな顔しないで」
 
 笑って頭を撫でてくるのを低い声で凄んで睨み付けてやったが、物好きなお坊ちゃんは動じない。

「ふふ。今日は割と時間があるから、食事にも行こうね!」

 ……気持ちいいと思った反面、脱力しないように力んでいたせいか妙に疲れてしまった。そんなリィとは対照的に、シアは満ち足りた顔で笑っていたのだった。
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