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本編
25 このままでいたい
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いつも以上に機嫌のいいシアを連れて下町へと繰り出し、昼飯を平らげた。そして飯屋を出た所で、彼はまた我がままを言い出した。
「リィの住んでいる所が見たい!」
「面白い物なんてねぇぞ。……なんでそう、物好きなんだよアンタ」
「君は僕のお気に入りの闘士だもの。色んなことを知りたいのは当然だよ」
「それにしたって、物好きだ。ったく、我がまま聞いてやるなんて言うんじゃなかったな……」
ぼやきながら生まれ育った下町の路を行く。
「そこそ歩くんだね」
「町の端だからな。街に近いと家賃が高過ぎて手が出ねぇし」
町並みを抜けた先の家屋がまばらで閑散とした場所の片隅に、リィの住む平屋があった。細い枝で作った簡単な柵に囲まれた小庭に入り、井戸の横を通り抜ける。
「わぁ。隠れ家みたいだね。中はどうなってるの」
「狭い上になにもねぇよ。寝て起きるだけの小屋だ」
古びた一枚扉を開けて中に入ると、シアが物珍し気に部屋をぐるりと見渡す。
「無駄な物が一切無いって、こういうのを言うんだよねきっと……」
「椅子なんかねぇからな。座るなら寝床の上くらいだ」
物干し用に天井に張った紐から、掛け布を引き下ろして寝床にバサリと敷いた。何も無いよりはマシというやつだ。
「寝床に座って良いの?」
「気すんな。歩き疲れてんならそこに座れよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて……。おお、硬いね。これで眠れるの?」
「お坊ちゃんのアンタと一緒にするな」
対角の位置に背中合わせに腰を下ろしながら、リィは苦笑した。
「それにしても、割ときれいにしてるね!」
「物は置かねぇしな。これくらいで普通だろ」
「そうかなぁ。……僕も下町に生まれていたら、こういう生活していたのかな」
「アンタの場合、女に全部やらせてそうだぜ」
「なにそれ! 僕がまるで女たらしみたいな言い方して!」
「貴族の女にも言い寄られてたし、飯屋の奴だって愛想がよかったじゃねぇか。たらし込んで尽くさせるくらい簡単にやれそうじゃねぇかよ。違うか?」
後ろに少しだけ身を傾けて端正な横顔を視界に入れながらフンと鼻で笑ってやると、彼は風を切る音がするほどの勢いで立ち上がって振り向いた。
「まってよ! なんでそうなるの! 僕だって男だから、この歳までには幾らか付き合いは、あったけど……っ!」
「……へぇ。結構遊んでるんだな」
「遊んでるってそれは……、ええっと、リ、リィ? そんな目で見ないで!」
否定もせずに慌てる様子に、疑いの眼差しを向けてしまう。やはり顔の良い奴はあちこちで遊んでいるのかと思うと、面白くない気分になった。
「アンタみたいな色男ならそりゃ、女も寄ってくるだろうな。俺はねぇけど」
不貞腐れて寝床にごろりと横になったリィを、シアが苦笑しながら見下ろす。
「リィは、綺麗で恰好良いよ」
傍らに座り直したシアにそう言われて、つい眉間に皺を寄せる。
「綺麗なんて何処見て言ってんだよ。目ぇ腐ってるのか?」
「目は腐ってはいないよ。君は自分の良さを磨かないとダメだよ」
「磨けって言われてもな……」
「そんな顔しないで。磨けばきっと良くなるよ」
顔立ちは悪くないんだからと、痣のある方の頬を撫でてくるシアの手を押さえる。
「撫でるなよ。……アンタの手に触られると、なんか疲れる」
「えぇ……、それってどういうことなの」
「知るかよ」
撫でられるのが気持ちがいいとは、絶対に言えない。
重ねた手のひらに触れる甲もやはり滑らかで、触るのも気持ちがいい。鍛錬で硬くなっている手では傷を付けそうだったが、このままでいたいと思うほどに。
「リィの住んでいる所が見たい!」
「面白い物なんてねぇぞ。……なんでそう、物好きなんだよアンタ」
「君は僕のお気に入りの闘士だもの。色んなことを知りたいのは当然だよ」
「それにしたって、物好きだ。ったく、我がまま聞いてやるなんて言うんじゃなかったな……」
ぼやきながら生まれ育った下町の路を行く。
「そこそ歩くんだね」
「町の端だからな。街に近いと家賃が高過ぎて手が出ねぇし」
町並みを抜けた先の家屋がまばらで閑散とした場所の片隅に、リィの住む平屋があった。細い枝で作った簡単な柵に囲まれた小庭に入り、井戸の横を通り抜ける。
「わぁ。隠れ家みたいだね。中はどうなってるの」
「狭い上になにもねぇよ。寝て起きるだけの小屋だ」
古びた一枚扉を開けて中に入ると、シアが物珍し気に部屋をぐるりと見渡す。
「無駄な物が一切無いって、こういうのを言うんだよねきっと……」
「椅子なんかねぇからな。座るなら寝床の上くらいだ」
物干し用に天井に張った紐から、掛け布を引き下ろして寝床にバサリと敷いた。何も無いよりはマシというやつだ。
「寝床に座って良いの?」
「気すんな。歩き疲れてんならそこに座れよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて……。おお、硬いね。これで眠れるの?」
「お坊ちゃんのアンタと一緒にするな」
対角の位置に背中合わせに腰を下ろしながら、リィは苦笑した。
「それにしても、割ときれいにしてるね!」
「物は置かねぇしな。これくらいで普通だろ」
「そうかなぁ。……僕も下町に生まれていたら、こういう生活していたのかな」
「アンタの場合、女に全部やらせてそうだぜ」
「なにそれ! 僕がまるで女たらしみたいな言い方して!」
「貴族の女にも言い寄られてたし、飯屋の奴だって愛想がよかったじゃねぇか。たらし込んで尽くさせるくらい簡単にやれそうじゃねぇかよ。違うか?」
後ろに少しだけ身を傾けて端正な横顔を視界に入れながらフンと鼻で笑ってやると、彼は風を切る音がするほどの勢いで立ち上がって振り向いた。
「まってよ! なんでそうなるの! 僕だって男だから、この歳までには幾らか付き合いは、あったけど……っ!」
「……へぇ。結構遊んでるんだな」
「遊んでるってそれは……、ええっと、リ、リィ? そんな目で見ないで!」
否定もせずに慌てる様子に、疑いの眼差しを向けてしまう。やはり顔の良い奴はあちこちで遊んでいるのかと思うと、面白くない気分になった。
「アンタみたいな色男ならそりゃ、女も寄ってくるだろうな。俺はねぇけど」
不貞腐れて寝床にごろりと横になったリィを、シアが苦笑しながら見下ろす。
「リィは、綺麗で恰好良いよ」
傍らに座り直したシアにそう言われて、つい眉間に皺を寄せる。
「綺麗なんて何処見て言ってんだよ。目ぇ腐ってるのか?」
「目は腐ってはいないよ。君は自分の良さを磨かないとダメだよ」
「磨けって言われてもな……」
「そんな顔しないで。磨けばきっと良くなるよ」
顔立ちは悪くないんだからと、痣のある方の頬を撫でてくるシアの手を押さえる。
「撫でるなよ。……アンタの手に触られると、なんか疲れる」
「えぇ……、それってどういうことなの」
「知るかよ」
撫でられるのが気持ちがいいとは、絶対に言えない。
重ねた手のひらに触れる甲もやはり滑らかで、触るのも気持ちがいい。鍛錬で硬くなっている手では傷を付けそうだったが、このままでいたいと思うほどに。
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