【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

26 もうひとつだけ我がままを

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 満腹で寝床に横になっている上に、シアの手の気持ちよさも手伝って少し眠くなってしまった。ふあ、と欠伸をすると「眠くなったの? もしかしてもう帰った方がいいかな」と、優しい声が聞いてくる。

「大して眠くねぇから、帰らなくていい」
「それならいいけれど……。ねぇリィ、もうひとつだけ我儘を聞いてくれる?」
「今日はいくらでも付き合ってやるって言っただろ」
「じゃあ、髪形を変えてみてよ!」
「あぁ?」

 触れる手はそのままにリィが顔をしかめると、シアが苦笑しながら言葉を続ける。

「君、髪の毛が長いっていうか、多いっていうか、それで顔の迫力が増してるからね。短くした方が良いよ」
「……そうかよ」

 顔を更に険しくしかめて低い声を出すと、軽く頬を摘ままれた。

「その顔、怖いよ! そういう顔もやめようよ!」  
「おい、摘まむな!」
「リィの頬って手触り良いね。癖になりそう」
「何言ってやがんだ……!」 
 
 シアがクスクスと笑いながら手を頬から引いて、寝転ぶリィの顔の左右に両手を置いた姿勢で見下ろしてくる。

「ふふ。こんなことしてると何だか変だね」 
「ん……?」
「……僕がリィを襲ってるみたい。リィ……、襲っても良い?」
「――お、襲う……って。やめっ! ……シアっ!」

 真顔でそう言ってくるのに驚いて、顔からザッと血の気が引くのが自分でも分かった。だがそれでも蹴り飛ばすことはためらわれて、身じろぎするだけに留まってしまう。軟弱な青年に蹴りなど入れたら、内臓を潰すか骨をへし折るくらいはしてしまいそうだ。

 ……いくらなんでも、怪我など絶対にさせたくない。

 動揺しきりなリィの様子にニッコリと上品に微笑んで、シアが寝床から立ち上がった。

「冗談だよ。……リィったら初心だね」
「ふざけんなよコラァ!」

 犬歯を剥いて吠える様に怒鳴って腹筋の力だけで起き上がり掴み掛かろうとしたが、予想外の軽い身のこなしで避けられた。

「舐めた真似しやがって!」
「ごめんごめん悪かったよ!……って、ちょ! 締めないで! く、苦し……っ!」
 
 ヘラヘラとした軽い態度が我慢ならずに追いすがり、首に腕を回して少しだけ締め上げて仕置きをしてやった。

「次やったら潰すぞ」
「な、なにを潰すの! 怖いよ! 止めて!」
「だったらふざけんじゃねぇよバカ! アンタほんとにバカだなっ!」
 
 胸が大きく高鳴り、顔はやたらと熱い。恥ずかしさと怒りのあまりひと際大きな声で怒鳴り付けてしまう。 

 ――リィ達の暮らす国では、男性同士の色恋はタブーではない。

 血統を尊ぶ家系では血の繋がった跡取りを望めないそれを嫌う向きもあるが王家の神話にも同性愛のくだりが出てくるほどであり、色恋に奔放で寛容な民が多い。
 
 リィとて、その方向の事を知らない訳でもない。闘士の中でも同性で良い仲の者がいて、人目をはばからずに抱き合って口付けを交わしているのを見かけたりもする。ただ、自分が同性とそういった関係を持つかどうかについて、意識した事は無かった。

「あ。髪形変えるのは決まりだね。腕の良い人のいる店に連れて行くから! そのつもりでいて!」
「お、俺は、変えたくねぇ!」
「嫌そうな顔しないで、してみようよ」

 さらりと両手で頬を撫でられて、耳触りの良い甘い声音で強請られる。触るんじゃねぇと跳ね除けようとしたが、頬に滑らされる指先が気持ちよくて気勢が削がれていく。

「ねぇ。お願いだよ。いいよね?」
「あ、ああ……」

 綺麗に微笑みながらの『お願い』にますます顔が熱くなり、求められるままにうなずいでしまった。
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