【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

文字の大きさ
28 / 91
本編

27 落ち着かねぇ

しおりを挟む
 ――シアの我ままから数日後の昼下がり。

 王都中央通りの理髪店で、リィは髪を切る事になった。 

 店に着くや否や直ぐに初老の理髪師に捕まえられて、瞬く間に散髪の支度をされて椅子に座らされた。思わぬ早業に呆然とするリィをよそに、理髪師とシアがあれこれと楽し気に会話を交わす。

「前髪は減らした方が良いですね。こうも長いと顔の印象が暗くなりがちですし」
「バッサリいってくれて構わない。丸刈りでなければ、好きにしてくれて良いから!」
「では、大胆にいきましょうか。久々に切りがいのある髪ですよ。腕が鳴ります」
「おい、勝手なこと言ってんじゃねぇよ……!」
「まあまあ、落ち着いて。言い出したのは僕だから、責任と代金は持つからね! 安心して!」
「そういう問題じゃねぇし!」
「お客様、じっとしていてくださいね。怪我しますよー」

 シアの軽口に吠えるリィに動じる素振りも見せず、言葉の通りに理髪師は大胆に鋏を入れていく。次々と髪の房が床に落ちていき小山が出来上がるのを見て、リィは不安気に眉根を寄せた。

「……髪、なくなっちまうんじゃねぇのかこれ」
「ご心配なく。丸刈りには致しませんから、お任せください」

 理髪師は鼻歌混じりで軽快に鋏を操っていて、手を止める事はない。見る間に顔を半ば覆ってた髪が短くなり、後ろ髪もざくざくと豪快に刈り上げられていく。


 ――増々不安気な顔になりながらも大人しく髪を切られ続けて、半刻程が過ぎた頃。

「終わりましたよ」

 理髪師が手早く後始末をして散髪用の布を取り払った。

「凄く恰好良くなったよ! すっきりして良い感じでしょ?」
「すげぇ短くなったな。痣が前よりも目立つし、落ち着かねぇ……」
「大丈夫! 似合ってるよ」
「……ほんとかよ」

 座っている椅子の前に設えられている鏡で、リィは様変わりした自らの姿にじっと見入った。

 すっかり短くなった髪は、後頭部から首にかけて切り詰められていて曲線がくっきり出ている。前髪もかなり短く切られていて顔周りが露わになっていた。ただし、痣がある左側に向かって斜めに長い髪が残されている奇抜な髪型だ。 

「お客様は顔が小さくて頭の形も良いですから、こういった髪形をなさるのが一番ですよ」
「やっぱり短くした方が良いよね! 顔の綺麗さも引き立つし、言う事無いよ。さすがだねぇ」
「はは。ありがとうございます」 

 理髪師の言葉にシアが嬉しそうに応じて腕前を褒めるが、この髪型が良いのかどうかリィには分からなかった。

 髪を短くして顔立ちが露わになった自分の顔は、よく見ると近所で美人と評判らしい母親に似ている。母親に似ているのなら、それなりに整った顔なのかもしれないが、左側の大きな痣が醜くて正直なところ綺麗とは思えない。

「とても恰好良くなったのに、浮かない顔だねぇ……」

 やれやれと呆れ顔で溜息をつかれてうるせぇなと不機嫌顔で見上げると、シアは愛し気に目を細めて微笑みながら髪の短くなった頭を撫でてきた。

「ふふ。前みたいな怖い感じはなくなったよ。とても素敵になったのだから、自信もって良いのに」
「ガキじゃねぇんだから撫でるなよ」

 いつにも増して優しく甘さを含んだシアの視線に、落ち着かない気分になってリィは目を逸らす。

「僕からすれば、君はまだ少しだけ……、子供だよ」
「ちっ! ガキよりガキっぽい野郎が良く言うぜ」
「んー? 誰の事かな? さて、次の店に行こうか!」
 
 満面の笑顔でぐりぐりと頭を撫で回しておいて、リィの手を取り椅子から立ち上がらせてシアが言った。 
 
「なんだよ、髪は切ったんだからもう終わりだろ?」
「ふふ、まだ終わりではないよ。さあ、早く行こうよ!」

 最初に宣言した通りに自ら散髪代を支払って、彼は急ぎ足で店を出ていく。
  
「何処に行くってんだよ……」 
「ついておいで。そうしたら分かるから!」

 またのご来店をお待ちしておりますと微笑む理髪師に見送られて、リィは彼を追いかけた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...