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本編
27 落ち着かねぇ
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――シアの我ままから数日後の昼下がり。
王都中央通りの理髪店で、リィは髪を切る事になった。
店に着くや否や直ぐに初老の理髪師に捕まえられて、瞬く間に散髪の支度をされて椅子に座らされた。思わぬ早業に呆然とするリィをよそに、理髪師とシアがあれこれと楽し気に会話を交わす。
「前髪は減らした方が良いですね。こうも長いと顔の印象が暗くなりがちですし」
「バッサリいってくれて構わない。丸刈りでなければ、好きにしてくれて良いから!」
「では、大胆にいきましょうか。久々に切りがいのある髪ですよ。腕が鳴ります」
「おい、勝手なこと言ってんじゃねぇよ……!」
「まあまあ、落ち着いて。言い出したのは僕だから、責任と代金は持つからね! 安心して!」
「そういう問題じゃねぇし!」
「お客様、じっとしていてくださいね。怪我しますよー」
シアの軽口に吠えるリィに動じる素振りも見せず、言葉の通りに理髪師は大胆に鋏を入れていく。次々と髪の房が床に落ちていき小山が出来上がるのを見て、リィは不安気に眉根を寄せた。
「……髪、なくなっちまうんじゃねぇのかこれ」
「ご心配なく。丸刈りには致しませんから、お任せください」
理髪師は鼻歌混じりで軽快に鋏を操っていて、手を止める事はない。見る間に顔を半ば覆ってた髪が短くなり、後ろ髪もざくざくと豪快に刈り上げられていく。
――増々不安気な顔になりながらも大人しく髪を切られ続けて、半刻程が過ぎた頃。
「終わりましたよ」
理髪師が手早く後始末をして散髪用の布を取り払った。
「凄く恰好良くなったよ! すっきりして良い感じでしょ?」
「すげぇ短くなったな。痣が前よりも目立つし、落ち着かねぇ……」
「大丈夫! 似合ってるよ」
「……ほんとかよ」
座っている椅子の前に設えられている鏡で、リィは様変わりした自らの姿にじっと見入った。
すっかり短くなった髪は、後頭部から首にかけて切り詰められていて曲線がくっきり出ている。前髪もかなり短く切られていて顔周りが露わになっていた。ただし、痣がある左側に向かって斜めに長い髪が残されている奇抜な髪型だ。
「お客様は顔が小さくて頭の形も良いですから、こういった髪形をなさるのが一番ですよ」
「やっぱり短くした方が良いよね! 顔の綺麗さも引き立つし、言う事無いよ。さすがだねぇ」
「はは。ありがとうございます」
理髪師の言葉にシアが嬉しそうに応じて腕前を褒めるが、この髪型が良いのかどうかリィには分からなかった。
髪を短くして顔立ちが露わになった自分の顔は、よく見ると近所で美人と評判らしい母親に似ている。母親に似ているのなら、それなりに整った顔なのかもしれないが、左側の大きな痣が醜くて正直なところ綺麗とは思えない。
「とても恰好良くなったのに、浮かない顔だねぇ……」
やれやれと呆れ顔で溜息をつかれてうるせぇなと不機嫌顔で見上げると、シアは愛し気に目を細めて微笑みながら髪の短くなった頭を撫でてきた。
「ふふ。前みたいな怖い感じはなくなったよ。とても素敵になったのだから、自信もって良いのに」
「ガキじゃねぇんだから撫でるなよ」
いつにも増して優しく甘さを含んだシアの視線に、落ち着かない気分になってリィは目を逸らす。
「僕からすれば、君はまだ少しだけ……、子供だよ」
「ちっ! ガキよりガキっぽい野郎が良く言うぜ」
「んー? 誰の事かな? さて、次の店に行こうか!」
満面の笑顔でぐりぐりと頭を撫で回しておいて、リィの手を取り椅子から立ち上がらせてシアが言った。
「なんだよ、髪は切ったんだからもう終わりだろ?」
「ふふ、まだ終わりではないよ。さあ、早く行こうよ!」
最初に宣言した通りに自ら散髪代を支払って、彼は急ぎ足で店を出ていく。
「何処に行くってんだよ……」
「ついておいで。そうしたら分かるから!」
またのご来店をお待ちしておりますと微笑む理髪師に見送られて、リィは彼を追いかけた。
王都中央通りの理髪店で、リィは髪を切る事になった。
店に着くや否や直ぐに初老の理髪師に捕まえられて、瞬く間に散髪の支度をされて椅子に座らされた。思わぬ早業に呆然とするリィをよそに、理髪師とシアがあれこれと楽し気に会話を交わす。
「前髪は減らした方が良いですね。こうも長いと顔の印象が暗くなりがちですし」
「バッサリいってくれて構わない。丸刈りでなければ、好きにしてくれて良いから!」
「では、大胆にいきましょうか。久々に切りがいのある髪ですよ。腕が鳴ります」
「おい、勝手なこと言ってんじゃねぇよ……!」
「まあまあ、落ち着いて。言い出したのは僕だから、責任と代金は持つからね! 安心して!」
「そういう問題じゃねぇし!」
「お客様、じっとしていてくださいね。怪我しますよー」
シアの軽口に吠えるリィに動じる素振りも見せず、言葉の通りに理髪師は大胆に鋏を入れていく。次々と髪の房が床に落ちていき小山が出来上がるのを見て、リィは不安気に眉根を寄せた。
「……髪、なくなっちまうんじゃねぇのかこれ」
「ご心配なく。丸刈りには致しませんから、お任せください」
理髪師は鼻歌混じりで軽快に鋏を操っていて、手を止める事はない。見る間に顔を半ば覆ってた髪が短くなり、後ろ髪もざくざくと豪快に刈り上げられていく。
――増々不安気な顔になりながらも大人しく髪を切られ続けて、半刻程が過ぎた頃。
「終わりましたよ」
理髪師が手早く後始末をして散髪用の布を取り払った。
「凄く恰好良くなったよ! すっきりして良い感じでしょ?」
「すげぇ短くなったな。痣が前よりも目立つし、落ち着かねぇ……」
「大丈夫! 似合ってるよ」
「……ほんとかよ」
座っている椅子の前に設えられている鏡で、リィは様変わりした自らの姿にじっと見入った。
すっかり短くなった髪は、後頭部から首にかけて切り詰められていて曲線がくっきり出ている。前髪もかなり短く切られていて顔周りが露わになっていた。ただし、痣がある左側に向かって斜めに長い髪が残されている奇抜な髪型だ。
「お客様は顔が小さくて頭の形も良いですから、こういった髪形をなさるのが一番ですよ」
「やっぱり短くした方が良いよね! 顔の綺麗さも引き立つし、言う事無いよ。さすがだねぇ」
「はは。ありがとうございます」
理髪師の言葉にシアが嬉しそうに応じて腕前を褒めるが、この髪型が良いのかどうかリィには分からなかった。
髪を短くして顔立ちが露わになった自分の顔は、よく見ると近所で美人と評判らしい母親に似ている。母親に似ているのなら、それなりに整った顔なのかもしれないが、左側の大きな痣が醜くて正直なところ綺麗とは思えない。
「とても恰好良くなったのに、浮かない顔だねぇ……」
やれやれと呆れ顔で溜息をつかれてうるせぇなと不機嫌顔で見上げると、シアは愛し気に目を細めて微笑みながら髪の短くなった頭を撫でてきた。
「ふふ。前みたいな怖い感じはなくなったよ。とても素敵になったのだから、自信もって良いのに」
「ガキじゃねぇんだから撫でるなよ」
いつにも増して優しく甘さを含んだシアの視線に、落ち着かない気分になってリィは目を逸らす。
「僕からすれば、君はまだ少しだけ……、子供だよ」
「ちっ! ガキよりガキっぽい野郎が良く言うぜ」
「んー? 誰の事かな? さて、次の店に行こうか!」
満面の笑顔でぐりぐりと頭を撫で回しておいて、リィの手を取り椅子から立ち上がらせてシアが言った。
「なんだよ、髪は切ったんだからもう終わりだろ?」
「ふふ、まだ終わりではないよ。さあ、早く行こうよ!」
最初に宣言した通りに自ら散髪代を支払って、彼は急ぎ足で店を出ていく。
「何処に行くってんだよ……」
「ついておいで。そうしたら分かるから!」
またのご来店をお待ちしておりますと微笑む理髪師に見送られて、リィは彼を追いかけた。
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