【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

28 嫌じゃねぇよ

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――シアが足を向けたのは、闘技場にほど近い場所にある縫製店だった。

 通りに面した展示窓の中には意匠を凝らした装束が何着か飾られていて、扉の上には勇ましく剣を構える男の影絵が描かれた看板が掲げられている。ここは、闘士らが纏う装束を専門に扱っている店なのだ。

 貴族に仕える二つ名持ちの闘士ともなればこの店で布選びからの総仕立てを頼む者もいるし、既製品でもそれなりの額を出せば質が良く見栄えのする装束が手に入る。

「髪形を新しくしたのだから、装束も新しくしよう。ね、良いでしょ?」

 リィもこの店を利用しているが、稽古けいこ着かと見まがう様な地味で安価な装束しか買わない。自分の見目が醜いと感じていて着る物に拘らない彼としては、動き易ければ何でも良いのだ。派手な装束など、とても着る気になれはしない。

「……今着てるやつで良い。俺なんかにはこれで調度良いだろ」
「俺なんかなんて、言わないでよ。悲しくなるから! リィったら妙な所で後ろ向きっていうか弱気だねぇ。あれとか着てみたら良いんじゃない? きっと似合うよ!」
「ちっ、うるせぇな。似合う訳ねぇだろ……」
「そんな事無いよ。ねぇ、試しに着て見せてよ!」

 また我がままを言い出しやがってと顔をしかめながら、展示窓の方を見る。そこには、綺麗に拭き上げられた硝子に二人の姿が映っていた。

 すらりとした長躯を持ち上等な衣を纏ったシアは、黙っていればどこから見ても文句なしに美しい容姿をした貴族の青年だ。それに比べて顔に醜い痣があり地味な装束姿の自分とは大違いだ。貴族の娘が嘲りを含んだ視線を向けてきた理由が、今更ながら身に染みて分かる。

 薄れかけていた胸の痛みがまた蘇ってきて、硝子に映る顔が苦し気に歪む。

「どうしたの? もしかして着るのが嫌なの? それなら無理にとは言わないよ」
 
 急に黙り込んでしまったリィに気付いて、シアが慌てた様子で顔を覗き込んできた。この青年はいつも外見など気にする素振りを見せずに接してくれる。

 ……考えてみれば、他人から嫌悪され続けてきた痣に触れたがったりする物好きな野郎だ。子供のように無邪気でアホっぽくてふざけたシアに振り回されて、こんなに深刻に悩んでいるか。

 それに思い至ると妙に莫迦らしい気分になり、思わず苦笑が漏れてしまった。

 展示窓に飾られている装束が似合うかは別としても、今持っている装束はかなり着古しているから買い替え時だろう。その方がシアも喜ぶのだし、新品の装束を着れば少しはマシな見た目になるに違いない。

「嫌じゃねぇよ」

 心配そうに見詰めてくる空色の瞳へと真っすぐに視線を向けて、そう言葉を返した。
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