【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

29 それなりに変わるもんだな

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 店に入ったリィは、シアが来てみればと言った装束と同じ物を手に取った。

「これを着れば良いのか」
「そうそれ! きっと似合うよ」
「どうだかな」

 後は適当に安い装束を物色しようとすると、シアから待ったが掛けられた。

「もっと恰好良いのを選ぼうよ! あっ! あれもいいね。あとはこれも――」 

 そう言うなり次から次へと好き勝手に選び始め、何着もの装束を持たされた。どれもリィの趣味では絶対に選ばない洒落た意匠のものばかりだ。

「よし! それ、全部試着してみてね! 見てみたいから」
「こんなに着るのかよ」
「これでも数は抑えたよ。本音を言えば、もっといっぱい着て見せて欲しいんだから」
「めんどくせぇな」
 
 そんな事言わずに早くとシアに背中を押されて、店の奥にある試着部屋へと向かう。急かされてしぶしぶながら試着を始めたリィだったが、縫製がしっかりしていて見栄えのする装束に段々と気分がよくなっていった。

「――へぇ。悪くねぇもんだな」
「細かく寸法を測って仕立てから頼むと、もっといいよ。時間もお金も結構掛かるけどね」 
「なにか違うのか?」
「勿論! 自分の体に合ったものだからね。動き易くて見栄えも凄く良いんだから」
 
 仕立てについて商売人顔負けに詳しく語るのを聞きながらリィが最後に袖を通したのは、シアが店の前で着て欲しいと言って指差した装束だった。

「……わぁ! ちょっと派手だけど君が着るとぴったりだね! 痣の色とも合っているし、とても良い感じだよ!」
「アンタの見立ても、意外と捨てたもんじゃなかったな」
「ちょ、褒められてるのに嬉しくない! もしかして、いい加減に選んだみたいに思っていたの?」
「あれだけほいほい軽く選んでたら、そりゃあそう見えるだろ普通」
「酷い! 酷いよ! しっかり考えて選んだのに!」

 騒ぐシアを尻目に、新しい装束を纏った姿をリィは繁々と眺めた。

「それなりに、変われるもんだな」

 黒地に銀糸や朱色の糸で見事な刺繍を施された装束は、細身でしなやかなリィの容姿を際立たせている。常は醜いとばかり感じていた痣は、髪を整えて装いを新たにした今、『赤痣』という二つ名を持つ闘士の個性を際立たせる飾りにさえ見えた。

 ――鮮やかな赤い痣に飾られた顔に、余裕のある笑みを浮かべ堂々と立つその姿からは、常の卑屈さなど欠片もなくなっていたのだった。
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