31 / 91
本編
30 涙がひとしずく
しおりを挟む
「――悪くねぇな」
様変わりした鏡の中の自分の姿に、思わずそんな言葉が出てしまった。
「そうでしょ! 全部僕のお陰だよね! ありがとうシア! って言ってくれて良いんだよ?」
散髪にしても装束選びにしても、一人ではここまでやらなかったのは間違いない。確かにシアのお陰な訳だが、さあ礼を言えとばかりに催促されると面白くない気分になる。
「ふん。調子に乗るんじゃねぇよ」
「言い方が冷たい! まったく、素直じゃないんだから!」
へその曲がった返事をした途端、後ろからがばりとシアが抱き付いてきた。
「いきなりなにしやがる!」
「あはは! 素直になったら離してあげるよ」
頬に唇が触れんばかりに顔を寄せて楽しそうに笑うシアの姿と、後ろから抱きすくめられたことに眉根を寄せて戸惑う表情をした自分の姿が視界に飛び込んで来た。鏡越しにそれを見せられるのは、強烈に恥ずかしいものだった。
あまりの恥ずかしさに身体を強張らせてしまい、身動きが取れなくなる。
「あ……っ、は、離せ……! おい、くっつくな!」
「リィったらほんと、恥ずかしがり屋だねぇ」
ふざけながら抱きつく力を強めたシアの頬が、痣のある自分のそれに押し付けられた。
「……やっ、やめろっ! うぅ……っ」
羞恥に頬を淡く朱に染めて、無防備な表情を晒す己自身と目が合った。動揺のあまりか険しさが消えた顔は幼く見えて、驚きに見開かれた緑の瞳はわずかに潤んですらいた。
――なんて顔をしているのか――。
無邪気に笑う青年の腕に捕らわれて、こちらを見ている若者はとても弱々しい顔をしている。
「……君は、僕に触れられるの、嫌いじゃないよね。……ふふ、とても可愛い……」
押し付けた頬はそのままに、空色の瞳で鏡の中からリィを見詰めながら低く甘い声音で囁いたシアの唇が、リィの頬に微かに触れた。その感触と光景が重なり合って、更に羞恥心を強く煽られる。
「あ、う……っ」
こんな恥ずかしい思いをしたのは初めてだ。火が点いたように顔が熱くなる。
もしかしなくても、撫でられるのが気持ちいいと思っているのを勘付かれているのだろうか。そう思うと増々恥ずかしくてたまらない。誰が可愛いだとバカがいい加減にしろと怒鳴りたくても、声が出ない。呼吸すら忘れそうで、なんとか喘ぐように息をするのがやっとだ。
……どうして、こんな恥ずかしい思いをさせられるのか。
手酷く嬲られている様な感覚に襲われ、その苦しさに胸を締め付けられて涙がひとしずく零れた。
様変わりした鏡の中の自分の姿に、思わずそんな言葉が出てしまった。
「そうでしょ! 全部僕のお陰だよね! ありがとうシア! って言ってくれて良いんだよ?」
散髪にしても装束選びにしても、一人ではここまでやらなかったのは間違いない。確かにシアのお陰な訳だが、さあ礼を言えとばかりに催促されると面白くない気分になる。
「ふん。調子に乗るんじゃねぇよ」
「言い方が冷たい! まったく、素直じゃないんだから!」
へその曲がった返事をした途端、後ろからがばりとシアが抱き付いてきた。
「いきなりなにしやがる!」
「あはは! 素直になったら離してあげるよ」
頬に唇が触れんばかりに顔を寄せて楽しそうに笑うシアの姿と、後ろから抱きすくめられたことに眉根を寄せて戸惑う表情をした自分の姿が視界に飛び込んで来た。鏡越しにそれを見せられるのは、強烈に恥ずかしいものだった。
あまりの恥ずかしさに身体を強張らせてしまい、身動きが取れなくなる。
「あ……っ、は、離せ……! おい、くっつくな!」
「リィったらほんと、恥ずかしがり屋だねぇ」
ふざけながら抱きつく力を強めたシアの頬が、痣のある自分のそれに押し付けられた。
「……やっ、やめろっ! うぅ……っ」
羞恥に頬を淡く朱に染めて、無防備な表情を晒す己自身と目が合った。動揺のあまりか険しさが消えた顔は幼く見えて、驚きに見開かれた緑の瞳はわずかに潤んですらいた。
――なんて顔をしているのか――。
無邪気に笑う青年の腕に捕らわれて、こちらを見ている若者はとても弱々しい顔をしている。
「……君は、僕に触れられるの、嫌いじゃないよね。……ふふ、とても可愛い……」
押し付けた頬はそのままに、空色の瞳で鏡の中からリィを見詰めながら低く甘い声音で囁いたシアの唇が、リィの頬に微かに触れた。その感触と光景が重なり合って、更に羞恥心を強く煽られる。
「あ、う……っ」
こんな恥ずかしい思いをしたのは初めてだ。火が点いたように顔が熱くなる。
もしかしなくても、撫でられるのが気持ちいいと思っているのを勘付かれているのだろうか。そう思うと増々恥ずかしくてたまらない。誰が可愛いだとバカがいい加減にしろと怒鳴りたくても、声が出ない。呼吸すら忘れそうで、なんとか喘ぐように息をするのがやっとだ。
……どうして、こんな恥ずかしい思いをさせられるのか。
手酷く嬲られている様な感覚に襲われ、その苦しさに胸を締め付けられて涙がひとしずく零れた。
21
あなたにおすすめの小説
白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜
西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。
だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。
そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。
◆
白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。
氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。
サブCPの軽い匂わせがあります。
ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。
◆
2025.9.13
別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる