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本編
33 奇妙な騒がしさ
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――闘士らの反応はさて置き、見目を整えたリィの人気は日を追うごとに高くなっていった。
「始め!」
開始の合図と共に、真新しく華やかな装束に身を包んだ細身が舞台の上を矢のような勢いで駆け出す。
自分よりもはるかに大柄な闘士の攻撃をものともせず、素早い動きで翻弄して舞うが如き闘い振りを見せる彼に、感嘆や驚きの声が観客から上がった。
もともとリィの身軽で曲芸じみた戦いぶりを好む観客は多かったのだが、ここ最近の彼が出る試合の観客数や賭けられる金額は常のそれを軽く上回っている。
「――おらぁっ!」
「ひぃっ! ま、参った!」
気合の乗った鋭い一撃で剣を弾き飛ばされ、喉元に剣先を突き付けられた闘士がたまらず降参した。
観客席を揺らす大きな歓声が上がり、勝者の名を叫ぶ声が盛んに飛んだ。相変わらずニコリともしない不愛想さながらも、声に応じて剣を空に向けて掲げると更に歓声が大きくなった。
――二つ名持ちになってから数ヵ月もの間、全く声が掛からなかったのが嘘であったかのように彼を召し抱えたいという貴族や豪商が現れ始めた。そうして驚いたことに、半月も過ぎない内に両手に余る人数に達した。
「……なんかおかしいんじゃねぇか? これ……」
闘技場の管理側を通して声を掛けてきている者の名が記された名簿を手に、眉間に皺を寄せた。まったく知らない商人や貴族に混ざって、以前に自分を見世物扱いしてきた連中の名も含まれている。
散々に莫迦にして舐め切っていた癖に、今さらなんなのか。
――声が掛かり始めてから幾らも経たない間に彼らから再び呼び出しを受けたが、態度が全く別人のようだった。
「身綺麗にするとこうも違うものか。驚いたな! 実に見目の良い闘士になったものだ」
「こうして見ると痣があるのも良いな。まるで物語に出てくる異国の戦士の様ではないか」
……連中はなにか悪い物でも食って、頭がおかしくなったのか。あまりにも極端で大袈裟な褒め方に、これは新手の嫌がらせなのかと疑いもした。
「――私の闘士になってくれないか。なんでも望む物を与えてあげるから」
どこぞの貴族の子息だという若造など、いやらしい笑みを浮かべて無造作に手を握りしめてきた。間近に顔を寄せられ猫なで声でしつこく口説かれて、地位や財産についての自慢話を延々と聞かされたのには参った。
あからさまに嫌そうに顔をしかめて見せても、なかなか手を離さず特別席だけではなく私の屋敷でも会おうと誘われもした。余りのしつこさに怒鳴り付け蹴り飛ばしたくなったが、どうにか耐えて丁重に断った。
この若造が一番酷かったが、ほかの連中も目つきや言うことが気持ち悪かった。
……どいつもこいつも様子がおかしい。こんな連中になんか絶対に召し抱えられたくない。
急に騒がしくなった周囲に、優越感を抱くどころか軽く苦痛を覚え始めていた。主が決まらない限りこの奇妙な騒がしさが続くのかと、気が重くなるリィだった。
「始め!」
開始の合図と共に、真新しく華やかな装束に身を包んだ細身が舞台の上を矢のような勢いで駆け出す。
自分よりもはるかに大柄な闘士の攻撃をものともせず、素早い動きで翻弄して舞うが如き闘い振りを見せる彼に、感嘆や驚きの声が観客から上がった。
もともとリィの身軽で曲芸じみた戦いぶりを好む観客は多かったのだが、ここ最近の彼が出る試合の観客数や賭けられる金額は常のそれを軽く上回っている。
「――おらぁっ!」
「ひぃっ! ま、参った!」
気合の乗った鋭い一撃で剣を弾き飛ばされ、喉元に剣先を突き付けられた闘士がたまらず降参した。
観客席を揺らす大きな歓声が上がり、勝者の名を叫ぶ声が盛んに飛んだ。相変わらずニコリともしない不愛想さながらも、声に応じて剣を空に向けて掲げると更に歓声が大きくなった。
――二つ名持ちになってから数ヵ月もの間、全く声が掛からなかったのが嘘であったかのように彼を召し抱えたいという貴族や豪商が現れ始めた。そうして驚いたことに、半月も過ぎない内に両手に余る人数に達した。
「……なんかおかしいんじゃねぇか? これ……」
闘技場の管理側を通して声を掛けてきている者の名が記された名簿を手に、眉間に皺を寄せた。まったく知らない商人や貴族に混ざって、以前に自分を見世物扱いしてきた連中の名も含まれている。
散々に莫迦にして舐め切っていた癖に、今さらなんなのか。
――声が掛かり始めてから幾らも経たない間に彼らから再び呼び出しを受けたが、態度が全く別人のようだった。
「身綺麗にするとこうも違うものか。驚いたな! 実に見目の良い闘士になったものだ」
「こうして見ると痣があるのも良いな。まるで物語に出てくる異国の戦士の様ではないか」
……連中はなにか悪い物でも食って、頭がおかしくなったのか。あまりにも極端で大袈裟な褒め方に、これは新手の嫌がらせなのかと疑いもした。
「――私の闘士になってくれないか。なんでも望む物を与えてあげるから」
どこぞの貴族の子息だという若造など、いやらしい笑みを浮かべて無造作に手を握りしめてきた。間近に顔を寄せられ猫なで声でしつこく口説かれて、地位や財産についての自慢話を延々と聞かされたのには参った。
あからさまに嫌そうに顔をしかめて見せても、なかなか手を離さず特別席だけではなく私の屋敷でも会おうと誘われもした。余りのしつこさに怒鳴り付け蹴り飛ばしたくなったが、どうにか耐えて丁重に断った。
この若造が一番酷かったが、ほかの連中も目つきや言うことが気持ち悪かった。
……どいつもこいつも様子がおかしい。こんな連中になんか絶対に召し抱えられたくない。
急に騒がしくなった周囲に、優越感を抱くどころか軽く苦痛を覚え始めていた。主が決まらない限りこの奇妙な騒がしさが続くのかと、気が重くなるリィだった。
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