【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

34 抱いている感情

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 ――激変した状況に戸惑いながらも、リィは自分を召し抱えたいと名乗り出た面々との顔合わせを着実こなしていった。

「まったく、この連中の誰に仕えりゃいいんだか……」

 試合後、控室の廊下で呼び出しを待っているリィの手には、最初に渡された名簿に加えて、新たにもう一枚の名簿があった。顔合わせが終わるまでには、もうしばらく掛かるだろう。

 頭数が多いのは良いことだが、見目を整えた途端にそれが始まったというのが気に入らない。幼い頃から容姿の問題で苦しんできた身としては、嬉しさよりも不信感が先に立ってしまうのだ。

 ……少なくとも、嫌らしい目つきで見てくる気持ち悪い若造には仕えたくない。

 貴族の子息に無造作に手を握られ執拗に迫られた時の不快感を思い出すと、つい眉間に皺が寄ってしまう。今思い出しても鳥肌が立ちそうになる。あんなのに仕えたら、なにをされるか分かったものではない。
 
「おお? 主の候補が増えたのか。随分と人気者になったな」

 控室から出てきた好敵手が、横合いから名簿を覗き込んできた。
 
「多けりゃいいってもんじゃねぇ」
「贅沢を言うな。お前、声が全く掛からなかったんだからこれは有り難いことだろう」
 
 爽やかな笑顔で、さりげなく肩を抱いてこようとする好敵手の腕からさっと身をかわす。元々、リィの不愛想な態度や強烈な膝蹴りにも懲りずに気安く話し掛けてくる男だったが、以前はこんな馴れ馴れしい感じではなかった。

「ベタベタすんな。気色悪い」
「つれないな。リィ、呼び出しが終わったら一緒に昼飯を食べに行かないか」
「行かねぇ」
「そう言うな。美味い店を知ってるから試しに……」

 最近は、なにを思ったのか食事にまで誘って来るようになり、それがまた非常にうっとおしい。

「一人で行け!」
「ぐはっ!」

 しつこさに苛ついて思わず吠えながら膝蹴りを食らわせて黙らせたところに、係の者が呼び出しを告げにやって来た。

「……シアがきてるのか」

 呼び出し相手の名を聞いた途端に、不機嫌だったリィの表情が喜色に染まる。シアに会えるのは嬉しい。他の貴族らにうんざりしている今だからこそ、余計にそう思うのかもしれない。

 ……早く会いたい。

「お、おい、何でそんなに嬉しそうなんだ」 

 急いで特別席へ向かおうとしたリィだったが、不意に後ろから好敵手に肩を掴まれて引き留められた。

「なにしやがんだテメェ!」

 すぐさま肩から手を叩き落とし、素早く振り返り身構えながらきつく睨み据える。

「もう一発蹴られてぇのか!」
「呼び出しが増えてから、いつも嫌そうにしていたじゃないか。今日のお前は変だぞ」
「あぁ?」
「……シアって言ったら、お前が暫く前に一緒に歩いていた御方か。うちのお嬢様が相当に好いているみたいだが、一体どこの貴族なのか……。……ま、まさか、あの男に惚れてるのか!」
「なっ! 惚れてるとか、そんな――」

 そんなんじゃねぇと怒鳴ろうとして、声を詰まらせてしまう。

 ……他人に聞かれて初めて、リィは自身がシアに対して抱いている感情がどういったものなのかを意識した。
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