【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

35 どんな顔をして会えばいいのか

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 ……シアのことは嫌いではない。

 あの綺麗な手で撫でられると気持ちが良くて、もっと触れてほしいと思う。子供のように無邪気で、なにかあると直ぐに騒ぎ出して煩いし突飛な言動に振り回されると苛つくが、それは決して不快なものではない。

 人を見下したところのない優しい眼差しや、甘く耳触りの良い声も、綺麗な空色の瞳も気に入っている。

 なにより、まだ誰にも声が掛からなかったときに醜い異相持ちの自分にためらいなく触れて好意を向けてくれた彼を、嫌いなる方がどうかしているだろう。声を掛けられた誰よりも、彼の言葉は信用できる。

 ふと、こ姿見の前で抱きすくめられた時の光景が脳裏をかすめて、転がり回りたいほどに恥ずかしくなる。あんな恥ずかしい思いをさせられ泣かされても、嫌いだとは思わなかった。

 頬に唇が触れた感触を思い出すと胸の奥が温かくなり、なんだか甘く疼く。有り得ない話だろうが、もしもあれ以上のことをされても逃げないだろう。

 シアになら……、きっとなにをされても良いのだ。

「――そんなんじゃ、ねぇし……」

 たっぷり間を空けて悩んだ末に顔を赤らめて、それと聞こえない否定をしたリィに好敵手が愕然とした顔になる。
  
「――な、なんだその恥ずかしそうな顔はっ! 本気で惚れてるのか! 止めておけ。詳しくは知らないが、お嬢様が言うにはあの御方は身分が相当に高いらしいからな。相手が悪過ぎる。最後には必ず辛い思いをするだけだぞ!」

 その指摘に、頭を殴られたような衝撃を受けた。確かに、惚れたところでどうもなれない。身分が高いことなど最初から知れていた。

 好きになっていい相手ではないのだ。

 貴族の娘の方が、自分などよりもずっとシアには合っている。あの嫌な態度を取る娘をシアが好んで選ぶとは思えないが、それでも。

 苦い感情が喉元まで込み上げてきて、鼻の奥がつんと痛んだ。こんな分かり切ったことを言われたくらいで泣きたくなどないのに、目に涙が滲んで視界が歪んでいく。

「うるせぇ! テメェに言われたくねぇ!」

 涙目になりながら好敵手に二度目の膝蹴りを食らわせる。一度目よりも鋭く重く容赦のない蹴りに、大柄な身体がいとも容易く吹き飛ばされて通路に転がった。

「あ、あんなバカになんて、惚れてねぇし!」

 感情の高ぶりに任せた渾身の一撃をもろに食らって、声も出せず腹を抱えて悶絶する好敵手を残し、想いとは真反対のことを叫びながら特別席へと駆け出した。

 ーーシアに早く会いたいと思っていたのに、どんな顔をして会えば良いのか分からなくなってしまった。
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