【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

37 この前のことは忘れろ

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 ――リィが扉を閉めたのと同時に、シアが顔を綻ばせながら近寄って来た。

「リィ、僕の選んだ装束を着てくれたんだね。闘ってるともっと恰好良く見えた!」
「ふん。そりゃ、古い装束よりかマシだろうけどな」
「素っ気ないねぇ。でも、君がそうやって着てくれているのはとても嬉しいよ!」
「抱き付くなっ!」 

 はしゃぎながら抱き締めようとしてきたシアを思わず突き飛ばしてしまい、彼はわっと声を上げて尻もちをついてしまう。
 
「ちょ、なにするの! 突き飛ばすことないでしょ! 酷い!」
「あ……。わ、悪い……」
 
 ぎゃあぎゃあと文句を言うのに謝りながら、手を貸して立ち上がらせて決まり悪げに目を逸らす。

 手荒な真似をしたくはないが、相手の行動を極端に意識してしまって、思わず手が出てしまった。今のは尻もちをついただけで済んだが、場所が悪ければシアが怪我をしていたかもしれない。

 ……こんなことでは駄目だ。なんとかして気を落ち着かせなければ、シアに嫌われてしまう。

 唇を噛み締めて俯いたリィの両肩に大きな手がそっと置かれ、気遣わし気な声が降ってくる。

「どうしたの? この前ふざけ過ぎたのがいけなかったのかな……」
「あぁ? 関係ねぇし!」
 
 試着室での恥ずかしい記憶がぶり返して、リィはカッと顔が熱くなるのを感じながら叫んだ。これでは落ち着こうにも落ち着けない。まるで追い打ちである。

「とにかく、触るんじゃねぇ!」

 両肩に置かれたシアの手を、左右へ払い除けてしまった。触れられていた肩までも熱くなっている気がして、ますます落ち着かない気持ちになってしまう。

「ええっ! リィ、僕の事嫌いになってしまったの? ちょ、待って、なんで! やっぱりあの事まだ怒ってるんでしょ? 泣かせちゃったし! 絶対そうだよね! ねぇ、機嫌直してよ!」
「き、嫌いになってねぇし! うるせぇっ! 何でアンタいらねぇ事ばっか言うんだ!」
 
 声の限りに叫んで、肩で息をしながら睨み付ける。頬が火照っている上に再びジワリと涙が滲んできて、眉根を寄せた心配気な顔でこちらを見ているシアの顔が歪んで見えた。

「だ、大丈夫なの? もしかして、僕、帰った方が良いかな」
「帰るなっ! アンタ、頼むから……、少し黙っていてくれねぇか……」
「……分かったよ」

 小さく溜息をつきながら、片手で顔を覆った。今の自分はとてもではないが、見せられる顔をしてはいないだろう。こんなざまでは、シアが本当に帰ってしまいそうだ。

 ……別に、好きになったところでなにも変わらない。好きだと言ったところで、困らせるだけだろう。こうして会いに来てくれているだけで嬉しくて、それ以上のことはなにもない。

 自分自身に言い聞かせ深く呼吸をして、顔の火照りも滲んだ涙もどうにか引いたのを感じて顔から手を離す。

「もう余計なこと言うなよ。このまえのあれは、忘れろ。いいな?」
「うん……。そうするよ」

 腕組みをして敢えて険しい表情を作り言い聞かせると、シアは神妙な面持ちで素直に返事をした。親に叱られた子供さながらなその様子を目の前にして、やっと落ち着いた心地で彼の綺麗な空色の瞳を見ることができた。
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