【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

38 一番仕えたい相手

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 とりあえずは落ち着いたリィの様子を伺いながら、シアがおずおずと口を開いた。

「……そういえば、最近はどうなの? 凄く人気が上がったって聞いてるけど」
「主選びの顔合わせをしてる最中だ」
「おお、そうなんだ! いい感じの人は見つかったかい?」
「仕えたくねぇ奴なら何人かいた。貴族は気持ち悪くてムカつく奴ばっかだ」
「あはは! 酷いなぁ。貴族にだって良い人はいるよ」
 
 リィにしてみれば良い人と言えそうなのは、目の前にいるシアだけだ。

「……俺からしたら、そう言えるのはアンタくらいだ」 

 真っすぐに空色の瞳を見詰めて思ったままを伝えると、彼は一瞬驚いた表情をしたあとで酷く嬉し気な笑みを浮かべた。

「それって、僕は特別ってことだね」
「大袈裟に言うほどのもんじゃないだろ。アンタのこと嫌いじゃねぇし、そりゃあ、ほかの貴族とは違うってのは……、あるけどな。なんか……、特別ってのは……」
「それってやっぱり、特別ってことだね。嬉しいよ!」

 結局のところ特別なのだ。リィが口ごもりながら強く否定しきれずにいると、シアは上機嫌になり幸せそうな顔をして頭を撫でてくる。髪を梳きながら滑らされる指先が気持ちよく、つい好きに撫でさせてしまった。

「リィ、お願いがあるのだけれど」
「……なんだよ、また何か我がまま言う気か?」
「抱き締めさせて!」
 
 言うが早いか急に腕を引かれて身体が前に傾ぎ、逃げる間もなくあっさりシアの広い胸に抱きこまれていた。

「うぁ! な、なにすんだバカっ!」
「良いでしょ! 僕のこと嫌いじゃないのに、どうしてそんなに怒るの?」 
「う、うるせぇ! そんなの、聞くなバカっ!」
 
 ……恥ずかしいからだという叫びが喉から飛び出しそうになったが、なんとか飲み込んだ。
 
 さすがにもう手荒に突き放せない。また熱くなってしまった顔を隠そうとして肩へ押し付けると、背中をやんわりと撫でられた。

「リィは、僕が凄く嬉しくなることをたまに言ってくれるね。そういうときって凄く可愛い!」
「可愛いって、俺がかよ……! 頭いかれてるな」
「そう思うんだから、仕方ないでしょ!」

 なんの含みもない純粋な感情が伝わってきて、むず痒い気分になりはしたが嫌悪感は湧かない。ほかの貴族や商人なんかより、シアが自分を召し抱えてくれるのならどんなに嬉しく誇らしいだろうか。今までそう思わなかったのが不思議なほどだ。

 一番仕えたい相手は、シアだ。

 下町で悪ガキどもに襲われていたのを、偶然助けたのが切っ掛けだったからだろうか。呼び出されるようになってからも単なる親しい知人のつもりで接していたが、彼も上客の一人であって闘士を召し抱えられる身分のはずだ。名簿にはシアの名前が載っていなかった。

 すでに別の闘士を抱えているのか、自分など欲しいと思っていないのか……。そう考えてしまうだけで、胸の深い部分に鋭く強い痛みが走る。

「なぁ、アンタは……、俺が欲しくないのか?」

 本音を聞くのは怖かったが、聞かずにはいられなくて顔を上向けて聞いてみると、彼は顔を僅かに赤らめて抱き締める腕の力を強めてきた。

「ええっと、それって……、君を召し抱えたくないのかってことだよね?」
「そうだ。名簿にはアンタの名前はなかったから、聞くのもなんだけどな」
「今のところ、誰も召し抱えるつもりはないよ」
「……俺じゃ、だめか」
「そうではないよ。詳しくは言えないけど、僕の立場ってちょっと特殊だから……」

 どういう理由があるにしても、シアが自分を召し抱えるつもりがないのだと知れた。
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