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本編
39 喜ばせてやりたい
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一番仕えたい相手に欲しがられない。その現実を突きつけられると、切なさが込み上げてきて涙が出そうになるのをぐっと口を引き結ぶ。
そんな顔を見て「君が欲しくない訳ではないよ」と、甘く微笑んで背中をあやすように軽く叩かれた。
「取り敢えず、お腹空いたからご飯食べに行こうよ! リィもお腹空いてるでしょ? あと、お祝いに装束を贈りたいから、そっちの店にも行こうね」
「まだ主は決まってない。そいつは気が早いんじゃねぇのか? 別に俺は祝いなんていらねぇし」
「こういうのは、遠慮しないで貰っておけばいいんだよリィ。どうせなら布選びからの仕立てを頼みたいから、そうすると今からでも遅いくらいだよ」
「はぁ? 布選びからかよ! そこまで金掛けなくてもいいだろ!」
「お祝いなんだからいいの! ほら、早く行こう!」
「分かったから手ぇ離せ! 引っ張るんじゃねぇっ!」
暗くなった雰囲気を吹き飛ばさんばかりに大袈裟な動作で両腕を広げて抱擁を解いて、陽気に振る舞うシアに急かされながらリィは特別席を出た。
――行きつけの飯屋へとシアを連れて行き昼を済ませた後。以前に装束を買い求めた闘士御用達の店で、リィは仕立て師によって全身を隈なく採寸された。
「……仕立てからやるってのは、こんなに疲れるもんなんだな……」
「あはは! お疲れさま!」
シアに笑われながら店の応接室で椅子に腰を下ろしぐったりいていると、大きな卓の上にこれでもかと言わんばかりに大量の上質な布と意匠の見本が並べられた。
「ねぇリィ、何色が良いと思う? 肌が白いからこっちの暗い色の方が映えると思うけど」
「多すぎてなんだか分からねぇ。……アンタに任せる……」
元より服選びの才覚を持たないリィは見本を前にして困惑するばかりで、早速幾つかの布見本を手に取って楽し気に聞いてくるシアに丸投げにした。
――そんな過程を経て注文された装束が仕上がるのは、最短でひと月後になると仕立て師が二人に告げた。顔合わせが順調に終わっていれば、主が決まっている頃だ。
店を出ると、陽は既に傾きかけていた。
「受け取りの時には二人で来ようよ! 着たところを最初に見たいし」
「それで良いぜ」
「えっ! いいの? わざわざ二人で来るとか面倒臭いとか言うと思ったのに……!」
「驚くなよ。その方が嬉しいんだろ?」
リィは柔らかく笑ってシアを見上げる。
――誰にも欲しがられなかった自分に主候補が現れた事を祝ってくれて、こうして楽しそうにはしゃいでいるのを見ると、リィ自身も楽しい気分になった。こんな気持ちにさせてくれる相手がそうしたいと言うのなら、望む通りにして喜ばせてやりたいと思ったのだ。
「うん、嬉しいよ!」
「それなら、決まりだ」
眩しい笑みを見せてシアが答えたのに満足して、ニッと口の端を吊り上げて見せる。
「それじゃ、僕はこの辺で帰るね。近い内にまた会いに来るから!」
「ああ、……またなシア」
軽く手を上げたリィにまたねと言ってひらひらと手を振り微笑んでから、シアは踵を返して夕暮れ前の空の下を軽やかな足取りで去って行った。
そんな顔を見て「君が欲しくない訳ではないよ」と、甘く微笑んで背中をあやすように軽く叩かれた。
「取り敢えず、お腹空いたからご飯食べに行こうよ! リィもお腹空いてるでしょ? あと、お祝いに装束を贈りたいから、そっちの店にも行こうね」
「まだ主は決まってない。そいつは気が早いんじゃねぇのか? 別に俺は祝いなんていらねぇし」
「こういうのは、遠慮しないで貰っておけばいいんだよリィ。どうせなら布選びからの仕立てを頼みたいから、そうすると今からでも遅いくらいだよ」
「はぁ? 布選びからかよ! そこまで金掛けなくてもいいだろ!」
「お祝いなんだからいいの! ほら、早く行こう!」
「分かったから手ぇ離せ! 引っ張るんじゃねぇっ!」
暗くなった雰囲気を吹き飛ばさんばかりに大袈裟な動作で両腕を広げて抱擁を解いて、陽気に振る舞うシアに急かされながらリィは特別席を出た。
――行きつけの飯屋へとシアを連れて行き昼を済ませた後。以前に装束を買い求めた闘士御用達の店で、リィは仕立て師によって全身を隈なく採寸された。
「……仕立てからやるってのは、こんなに疲れるもんなんだな……」
「あはは! お疲れさま!」
シアに笑われながら店の応接室で椅子に腰を下ろしぐったりいていると、大きな卓の上にこれでもかと言わんばかりに大量の上質な布と意匠の見本が並べられた。
「ねぇリィ、何色が良いと思う? 肌が白いからこっちの暗い色の方が映えると思うけど」
「多すぎてなんだか分からねぇ。……アンタに任せる……」
元より服選びの才覚を持たないリィは見本を前にして困惑するばかりで、早速幾つかの布見本を手に取って楽し気に聞いてくるシアに丸投げにした。
――そんな過程を経て注文された装束が仕上がるのは、最短でひと月後になると仕立て師が二人に告げた。顔合わせが順調に終わっていれば、主が決まっている頃だ。
店を出ると、陽は既に傾きかけていた。
「受け取りの時には二人で来ようよ! 着たところを最初に見たいし」
「それで良いぜ」
「えっ! いいの? わざわざ二人で来るとか面倒臭いとか言うと思ったのに……!」
「驚くなよ。その方が嬉しいんだろ?」
リィは柔らかく笑ってシアを見上げる。
――誰にも欲しがられなかった自分に主候補が現れた事を祝ってくれて、こうして楽しそうにはしゃいでいるのを見ると、リィ自身も楽しい気分になった。こんな気持ちにさせてくれる相手がそうしたいと言うのなら、望む通りにして喜ばせてやりたいと思ったのだ。
「うん、嬉しいよ!」
「それなら、決まりだ」
眩しい笑みを見せてシアが答えたのに満足して、ニッと口の端を吊り上げて見せる。
「それじゃ、僕はこの辺で帰るね。近い内にまた会いに来るから!」
「ああ、……またなシア」
軽く手を上げたリィにまたねと言ってひらひらと手を振り微笑んでから、シアは踵を返して夕暮れ前の空の下を軽やかな足取りで去って行った。
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