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本編
42 望まない口付け
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――とうに試合は終わり静まり返った控室に駆け込んで、リィは壁に拳を叩きつけた。
「くそっ……! ううっ……」
屈辱的な仕打ちを受けても耐えるしかなかったのだが、それが仕方のないことだと分かってはいてもやはり自分が情けない。あまりの情けなさに涙が出そうになり、歯を食いしばって堪える。
「――リィ! ……ここに居たか」
控室の扉が乱暴に開けられ、血相を変えて追いかけてきた好敵手が近寄ってきた。
「来るんじゃねぇよ! 独りにしてくれ……っ!」
「……済まなかった。お前をあの男に近付かせたくなくて、お嬢様に口添えを頼んだんだが……、まさかあんな手酷いことをなさるとは思わなかったんだ」
「テメェ……っ!」
勝手な言い訳に苛立ち吠えながら筋肉質な胸板に拳を叩きつけたが、力が入らずまともな打撃を与えられなかった。その拳を好敵手の大きく節くれだった手が、優しく包み込む。まるで恋人にでも接する様な触れ方をした好敵手は、爽やかな笑顔ばかりが印象に残る常の彼らしからぬ真剣な表情をしていた。
「弱ってる時に、こんなことを言うのはどうかとも思うが、言わせてくれ」
「よ、弱ってなんかっ、ねぇし……っ!」
熱の込もった視線が、悲しみに暮れ涙で瞳を潤ませながらも気丈に声を張り上げたリィに注がれる。
「お前が好きだ。俺とならあんな風に貶されることだってないし、ずっと一緒にいられるぞ。……俺を、選んでくれないか」
「はあぁっ?」
……この野郎はなにをいきなり言い出すのか!
予想だにしない突然の告白に唖然として固まったリィを、好敵手の太い腕が抱き締めてくる。
「お前、ほんとに細いな。これでよく闘ってこれたものだ……」
「なにすんだっ!」
性急で荒々しい動作でもって厚みのある胸板に身体を押し付けられ、シアから感じた仄かな香の匂いとはまた違った男の匂いが鼻先をかすめた。
「うっ、触るなっ! い、いやだっ!」
嗅ぎ慣れない匂いと腰を抱き寄せる無骨な手の感触に総毛立ってしまい、胸に手を突っ張って離れようとするが強く腰を掴まれて逃げられない。
「あっ、くそっ! 離せっ! この馬鹿力がっ!」
生まれつきの体格が華奢で身軽さが長所であるリィの力では、捕らえられてしまうと体格に恵まれた闘士の力にはどうしても適わない。焦ってもがくリィの顎を好敵手の片手が捕らえて、唇を無理やり合わせてきた。
「ん――っ!」
悲鳴は声になり切らずに口付けに飲み込まれて、ぐっと身体が強ばる。筋肉に覆われた硬い背中に爪を立て指を食い込ませて拒絶しても、肉厚な舌が情け容赦なく咥内を犯してきた。
好きでもない相手からの一方的な行為は苦しく吐き気すら引き起こしたが、混乱の内に上顎の裏をなぞられ強く舌を吸われると脳髄の中を妙な痺れが走って、それは腰にまで下り落ちていく。
「んぁ、うぐっ!」
望まない行為の末に引きずり出された性感に激しい恐怖に襲われ、手加減など考えずに死に物狂いで膝を振り上げた。
「ぐぉ……っ!」
くぐもった低い呻きが上がり、我が物顔で咥内を荒らしていた舌の動きが止まって唇が離れていく。腰を抱いていた腕の力も弱まり、身を捻って抜け出しどうにか自由を取り戻したリィは、素早く距離を取ってから唾を床に吐き捨てて濡れた口を手の甲でぐっと拭った。
「はあっ、ううっ……、気持ち悪い……っ! こんのクソ野郎!」
――膝蹴りが突き刺さった先は、腹ではなかった。渾身の膝蹴りを食らわされた股間を押さえて前屈みの姿勢で悶えている好敵手を、罵声と共に繰り出した回し蹴りで薙ぎ払う。
「ごはっ!」
「地べたとシてろ! 変態がっ!」
「ぐっ、う……っ」
情けない姿のまま横倒しに転がったところを、暴言を浴びせて横っ面を遠慮なく踏みにじる。好敵手は痛みに呻き声を上げながらもなぜか恍惚とした表情をしていて、気持ちの悪さに拍車が掛かってしまった。
「テメェなんか死んでも選ばねぇよバカっ!」
半泣きで叫びながら好敵手を飛び越えて、一目散でその場から走り去った。
「くそっ……! ううっ……」
屈辱的な仕打ちを受けても耐えるしかなかったのだが、それが仕方のないことだと分かってはいてもやはり自分が情けない。あまりの情けなさに涙が出そうになり、歯を食いしばって堪える。
「――リィ! ……ここに居たか」
控室の扉が乱暴に開けられ、血相を変えて追いかけてきた好敵手が近寄ってきた。
「来るんじゃねぇよ! 独りにしてくれ……っ!」
「……済まなかった。お前をあの男に近付かせたくなくて、お嬢様に口添えを頼んだんだが……、まさかあんな手酷いことをなさるとは思わなかったんだ」
「テメェ……っ!」
勝手な言い訳に苛立ち吠えながら筋肉質な胸板に拳を叩きつけたが、力が入らずまともな打撃を与えられなかった。その拳を好敵手の大きく節くれだった手が、優しく包み込む。まるで恋人にでも接する様な触れ方をした好敵手は、爽やかな笑顔ばかりが印象に残る常の彼らしからぬ真剣な表情をしていた。
「弱ってる時に、こんなことを言うのはどうかとも思うが、言わせてくれ」
「よ、弱ってなんかっ、ねぇし……っ!」
熱の込もった視線が、悲しみに暮れ涙で瞳を潤ませながらも気丈に声を張り上げたリィに注がれる。
「お前が好きだ。俺とならあんな風に貶されることだってないし、ずっと一緒にいられるぞ。……俺を、選んでくれないか」
「はあぁっ?」
……この野郎はなにをいきなり言い出すのか!
予想だにしない突然の告白に唖然として固まったリィを、好敵手の太い腕が抱き締めてくる。
「お前、ほんとに細いな。これでよく闘ってこれたものだ……」
「なにすんだっ!」
性急で荒々しい動作でもって厚みのある胸板に身体を押し付けられ、シアから感じた仄かな香の匂いとはまた違った男の匂いが鼻先をかすめた。
「うっ、触るなっ! い、いやだっ!」
嗅ぎ慣れない匂いと腰を抱き寄せる無骨な手の感触に総毛立ってしまい、胸に手を突っ張って離れようとするが強く腰を掴まれて逃げられない。
「あっ、くそっ! 離せっ! この馬鹿力がっ!」
生まれつきの体格が華奢で身軽さが長所であるリィの力では、捕らえられてしまうと体格に恵まれた闘士の力にはどうしても適わない。焦ってもがくリィの顎を好敵手の片手が捕らえて、唇を無理やり合わせてきた。
「ん――っ!」
悲鳴は声になり切らずに口付けに飲み込まれて、ぐっと身体が強ばる。筋肉に覆われた硬い背中に爪を立て指を食い込ませて拒絶しても、肉厚な舌が情け容赦なく咥内を犯してきた。
好きでもない相手からの一方的な行為は苦しく吐き気すら引き起こしたが、混乱の内に上顎の裏をなぞられ強く舌を吸われると脳髄の中を妙な痺れが走って、それは腰にまで下り落ちていく。
「んぁ、うぐっ!」
望まない行為の末に引きずり出された性感に激しい恐怖に襲われ、手加減など考えずに死に物狂いで膝を振り上げた。
「ぐぉ……っ!」
くぐもった低い呻きが上がり、我が物顔で咥内を荒らしていた舌の動きが止まって唇が離れていく。腰を抱いていた腕の力も弱まり、身を捻って抜け出しどうにか自由を取り戻したリィは、素早く距離を取ってから唾を床に吐き捨てて濡れた口を手の甲でぐっと拭った。
「はあっ、ううっ……、気持ち悪い……っ! こんのクソ野郎!」
――膝蹴りが突き刺さった先は、腹ではなかった。渾身の膝蹴りを食らわされた股間を押さえて前屈みの姿勢で悶えている好敵手を、罵声と共に繰り出した回し蹴りで薙ぎ払う。
「ごはっ!」
「地べたとシてろ! 変態がっ!」
「ぐっ、う……っ」
情けない姿のまま横倒しに転がったところを、暴言を浴びせて横っ面を遠慮なく踏みにじる。好敵手は痛みに呻き声を上げながらもなぜか恍惚とした表情をしていて、気持ちの悪さに拍車が掛かってしまった。
「テメェなんか死んでも選ばねぇよバカっ!」
半泣きで叫びながら好敵手を飛び越えて、一目散でその場から走り去った。
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