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本編
43 会うのが怖い
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――どこをどう走って来たのか、気付けば平屋の前に立っていた。
「……くそっ!」
身体から気持ち悪さが消えない。
体の奥にわずかながらも痺れが燻っている気がして、好きでもない相手からの口付けに感じてしまったという事実がおぞましかった。
なにもかも拭い去りたくて、装束のまま頭から井戸水をかぶり口の中も執拗に濯いだ。それでも気分が悪くてたまらず、平屋に設えられている板で仕切られただけの簡素な洗い場で身体を隅々まで洗った。
「なんでこんな目にあわなくちゃならねぇんだ……」
強くなり闘士になってからは、誰にも莫迦にされず虐げられずに生きていけると思っていたのに、現実はそうではなかった。見世物のように扱われて、醜く汚らわしいと打ち据えられる。理不尽なことばかりだ。
……いつも誰かに傷つけられて、泣いてばかりいた非力で小さい子供に戻ったようだ。
打たれた頬がじくじくと痛む。
普段着を纏って濡れた装束を片してから、壁にある備え付けの鏡で傷の具合を確かめる。痛みはするが、傷薬を塗るだけで済む傷だ。ただ、頬骨辺りから斜めに顎へと付いたそれは酷く目立っていて、直ぐには消えてくれそうもない。
古ぼけた鏡の中で、濡れそぼった髪から水滴を滴らせた若者が悲し気な表情をしていた。
……傷のせいで、醜い顔がもっと醜く見える。
こんな醜い顔だから誰かを好きになることさえ、許されないのか。痣を持って生まれて来なければ、シアを好きにならなければ、もしかしたらこんな最悪な仕打ちなど受けずに済んだのだろうか。
顔の傷をシアに見られたら、なにがあったかを問い質されるかもしれない。とてもではないが、令嬢にされた仕打ちを詳しく話したくない。
自分の弱さを彼に晒すのは嫌だし、気を煩わせたくはない。
それに、まかり間違って恋愛の意味で好きだと本人に知られて、どんな反応をされるのかも怖かった。
迷惑をかけたくないし、嫌われたくない。醜い闘士の自分が、王弟殿下である彼の傍にいるのは相応しくないのだとしても……、せめて今の関係はずっと続いて欲しい。
切ない想いに苛まれて痛む胸をかきむしって、中身を抉り出してしまいたい衝動に駆られる。人を好きになるのが、こんなにまで苦しくて、辛いとは思いもしなかった。
……会うのが怖い。せめて、傷が癒えるまでは呼び出されたくはない。
出逢ってから初めて、そんな感情を抱いてしまった。
「……くそっ!」
身体から気持ち悪さが消えない。
体の奥にわずかながらも痺れが燻っている気がして、好きでもない相手からの口付けに感じてしまったという事実がおぞましかった。
なにもかも拭い去りたくて、装束のまま頭から井戸水をかぶり口の中も執拗に濯いだ。それでも気分が悪くてたまらず、平屋に設えられている板で仕切られただけの簡素な洗い場で身体を隅々まで洗った。
「なんでこんな目にあわなくちゃならねぇんだ……」
強くなり闘士になってからは、誰にも莫迦にされず虐げられずに生きていけると思っていたのに、現実はそうではなかった。見世物のように扱われて、醜く汚らわしいと打ち据えられる。理不尽なことばかりだ。
……いつも誰かに傷つけられて、泣いてばかりいた非力で小さい子供に戻ったようだ。
打たれた頬がじくじくと痛む。
普段着を纏って濡れた装束を片してから、壁にある備え付けの鏡で傷の具合を確かめる。痛みはするが、傷薬を塗るだけで済む傷だ。ただ、頬骨辺りから斜めに顎へと付いたそれは酷く目立っていて、直ぐには消えてくれそうもない。
古ぼけた鏡の中で、濡れそぼった髪から水滴を滴らせた若者が悲し気な表情をしていた。
……傷のせいで、醜い顔がもっと醜く見える。
こんな醜い顔だから誰かを好きになることさえ、許されないのか。痣を持って生まれて来なければ、シアを好きにならなければ、もしかしたらこんな最悪な仕打ちなど受けずに済んだのだろうか。
顔の傷をシアに見られたら、なにがあったかを問い質されるかもしれない。とてもではないが、令嬢にされた仕打ちを詳しく話したくない。
自分の弱さを彼に晒すのは嫌だし、気を煩わせたくはない。
それに、まかり間違って恋愛の意味で好きだと本人に知られて、どんな反応をされるのかも怖かった。
迷惑をかけたくないし、嫌われたくない。醜い闘士の自分が、王弟殿下である彼の傍にいるのは相応しくないのだとしても……、せめて今の関係はずっと続いて欲しい。
切ない想いに苛まれて痛む胸をかきむしって、中身を抉り出してしまいたい衝動に駆られる。人を好きになるのが、こんなにまで苦しくて、辛いとは思いもしなかった。
……会うのが怖い。せめて、傷が癒えるまでは呼び出されたくはない。
出逢ってから初めて、そんな感情を抱いてしまった。
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