【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

44 傷が消えないうちに

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 ――会いたくないという願いも虚しく、打たれた傷が消えないうちにシアから呼び出された。

 頬に走った斜めの傷の上には赤黒いかさぶたができていて、痛々しいばかりだ。傷を負った理由を聞かれるのも嫌だが、こんな酷い顔で会うのも嫌だ。

 会わないことにしようと決めると、なおさらに会いたくて胸が切ないくらい苦しくなった。

 誰になにを言われても……、シアが王族だと知っても、胸中に生まれ落ちた想いは日増しに強くなっていく一方だ。あの綺麗な手で撫でて欲しい。無邪気にはしゃいで笑う声を聞きたいし、優しく見詰めてくれる空色の瞳が恋しい。
      
 いつになったら、この気持ちは鎮まるだろうか。胸の奥に閉じ込め切れない苦しさに苛まれながら、係の者に今日は体の調子が悪いから帰るという旨の言伝を頼んだ。

 実際、苦し気な表情をしたリィの様子はそれらしく見えたのか、疑われもせずにあっさりと認められた。


 とぼとぼと冴えない足取りで闘技場の出口へ向かうと、好敵手に行く手を阻まれた。

「リィ、浮かない顔をしてるがどうした」

 心配気な顔をして優しく言葉を掛けられても、令嬢に告げ口をしたことや強引に口付けされたときの嫌悪感を思い出すと、激しい腹立たしさが込み上げてくる。

「話し掛けんじゃねぇし!」
「ぐはぁ……っ!」

 以前より切れが増した膝蹴りを、好敵手の腹に食い込ませてやった。

「くっ、い、いい蹴りだ……」
「気持ち悪ぃ顔すんなっ! この変態がっ!」

 あの一件以来、好敵手は露骨に馴れ馴れしい態度はしなくなった。それなりに悪いことをしたと反省しているのだろう。だが、罵り蹴りを入れる度に恍惚とした顔をする変態に成り下がった野郎相手に警戒を解く気はない。

「そういうつれない態度も嫌いじゃないぞ」
「潰すぞクソが!」
「ぐおっ!」

 好敵手の向こうすねに容赦のない蹴りを入れて、足早に闘技場を出て家路に就いた。

 ――肩を落として平屋に帰り着き、深々と溜息をつく。

 陽は傾きを見せておらず、眠りに就くには早い時間だったが、着のままで寝床に横になり身を守るように手足を折り曲げて丸くなった。

 装束を受け取る予定になっている、約束の日までには傷は消えているだろうか。

 顔合わせがその頃までに終わったとして、誰を主に選んだら良いのかシアに相談してみたい。顔合わせだけではどんな質の人間なのかはいまいち分からない相手もいる。貴族や商人に疎い自分などよりも、幾らかは詳しいだろう。

 仕上がった装束を纏って闘う最初の試合を、観に来て欲しい。そうしたら絶対に勝ち星を捥ぎ取れる気がする。自分のことのように喜び祝ってくれる彼に、できるだけの礼をしたい。

 ――これからのことを取り留めもなく考えているうちに、いつの間にか陽が少し傾いていた。
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