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本編
53 挿話:彼に恋をしていた
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――弟のように可愛くて大切な友人となったリィに、親愛の情とは違う感情を抱いているのを意識したのは、我がままを聞いて貰う約束にかこつけて散髪をさせた日のことだった。
髪を整えて華やかな装束に身を包んだ彼は、見惚れる程に美しかった。
茶化した態度で見目を整えさせたことへの礼を求めたのに対して、へそを曲げて調子に乗るなと生意気な返答をしたリィを揶揄い半分に姿見の前で抱きすくめた。
「あっ……、や、やめろっ!」
「……君は、僕に触れられるの、嫌いじゃないよね。……ふふ、とても可愛い……」
「う……っ」
恥ずかしがり動揺する姿に嗜虐心をそそられ頬へ唇をかすめさせると、彼の潤んだ瞳から涙が零れ落ちていった。
――鏡越しに、その光景を見た刹那。
羞恥のあまり声も上げずに涙を流し、顔を朱に染めて喘ぐように息をする彼の唇に口付けたいと思ってしまった。
間違っても、友人に向ける感情ではない。男の浅ましい肉欲を孕んだ感情だ。今まで女性ばかりを色恋の対象にしてきた自分が、十歳近くも年下の彼に欲情しているのが信じられなかった。
素直になり切れないながら自分を慕い、綺麗で柔らかい笑みを多く向けてくれるようになったリィに、こんな欲望をぶつけてしまえば信頼を失ってしまうだろう。
――いつの間にか彼に恋をしていたことに、このときになってやっと気付いたのだった。
その後、彼の人気は急激に高くなっていった。
豪商や貴族の中に、リィを召し抱えたいと望む者が出始めた。本当は、自分が召し抱えて手元に置きたかった。だが、彼に身分を知られたくないのと、それをして共に居られる時間が増えてしまうと欲を抑え切れる自信がなかったのとで、主候補に名乗りを上げられずにいた。
「――なぁ、アンタは俺が欲しくないのか」
抱き締めた腕の中から、リィが切な気な眼差しで見上げながら問い掛けてきた時。
全てをかなぐり捨てて己の望む形で彼を手に入れてしまいたかったが、それが受け入れて貰えるとは限らない。今の関係すらも壊してしまうのが怖くて、身を切る思いで誰も召し抱える気はないと答えた。
――間もなく主無しと笑われることもなくなる。人並みにどこかの娘と恋をして結ばれる未来もあるだろう。乱暴なようでいてその実優しい彼ならば、いい家庭も築けるに違いない。
希なる異相を持つというだけで、不遇だったリィが幸せになれるのだ。自分は『シア』として、ずっと彼の友人で在れるのならそれで良い。悪戯に愛しい彼の人生を穢してしまうような真似をしてはならない――。
これが最良だと自らに言い聞かせて、強い衝動を心の奥深くに抑えつけていた。
「――こういう意味で、アンタのことが好きなんだ」
拒絶と諦めに満ちた泣き笑いの顔で、彼が思いを告げるまでは。
髪を整えて華やかな装束に身を包んだ彼は、見惚れる程に美しかった。
茶化した態度で見目を整えさせたことへの礼を求めたのに対して、へそを曲げて調子に乗るなと生意気な返答をしたリィを揶揄い半分に姿見の前で抱きすくめた。
「あっ……、や、やめろっ!」
「……君は、僕に触れられるの、嫌いじゃないよね。……ふふ、とても可愛い……」
「う……っ」
恥ずかしがり動揺する姿に嗜虐心をそそられ頬へ唇をかすめさせると、彼の潤んだ瞳から涙が零れ落ちていった。
――鏡越しに、その光景を見た刹那。
羞恥のあまり声も上げずに涙を流し、顔を朱に染めて喘ぐように息をする彼の唇に口付けたいと思ってしまった。
間違っても、友人に向ける感情ではない。男の浅ましい肉欲を孕んだ感情だ。今まで女性ばかりを色恋の対象にしてきた自分が、十歳近くも年下の彼に欲情しているのが信じられなかった。
素直になり切れないながら自分を慕い、綺麗で柔らかい笑みを多く向けてくれるようになったリィに、こんな欲望をぶつけてしまえば信頼を失ってしまうだろう。
――いつの間にか彼に恋をしていたことに、このときになってやっと気付いたのだった。
その後、彼の人気は急激に高くなっていった。
豪商や貴族の中に、リィを召し抱えたいと望む者が出始めた。本当は、自分が召し抱えて手元に置きたかった。だが、彼に身分を知られたくないのと、それをして共に居られる時間が増えてしまうと欲を抑え切れる自信がなかったのとで、主候補に名乗りを上げられずにいた。
「――なぁ、アンタは俺が欲しくないのか」
抱き締めた腕の中から、リィが切な気な眼差しで見上げながら問い掛けてきた時。
全てをかなぐり捨てて己の望む形で彼を手に入れてしまいたかったが、それが受け入れて貰えるとは限らない。今の関係すらも壊してしまうのが怖くて、身を切る思いで誰も召し抱える気はないと答えた。
――間もなく主無しと笑われることもなくなる。人並みにどこかの娘と恋をして結ばれる未来もあるだろう。乱暴なようでいてその実優しい彼ならば、いい家庭も築けるに違いない。
希なる異相を持つというだけで、不遇だったリィが幸せになれるのだ。自分は『シア』として、ずっと彼の友人で在れるのならそれで良い。悪戯に愛しい彼の人生を穢してしまうような真似をしてはならない――。
これが最良だと自らに言い聞かせて、強い衝動を心の奥深くに抑えつけていた。
「――こういう意味で、アンタのことが好きなんだ」
拒絶と諦めに満ちた泣き笑いの顔で、彼が思いを告げるまでは。
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