【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

文字の大きさ
68 / 91
本編

67 挿話:卑小な男※

しおりを挟む
 ――こんな強引で、一方的な行為をするつもりではなかった。

 男の物を口に含むなど元来であれば考えられないことだが、リィへのそれには抵抗感などなかった。それどころか色事に不慣れな様子であどけなく喘ぎ鳴く姿に興奮を覚えて、己の欲が高ぶりさえしている。

 口の中に広がる青臭さに咽返りそうになったが、意地で精を飲み込んだ。

「のっ、飲むなバカッ! 信じらんねぇ!」 

 罵声と共に髪を引っ張られ、仕置きをされた。瞳に涙を溜めて低い声で唸る彼の顔色から、さして怒っていないのを感じ取り内心で盛大に安堵した。
 
 幸いにも嫌悪されなかったとはいえ、合意を得ずに色に溺れさせ嬲ってしまった。愛撫に蕩けて弱々しい抵抗しか成せない姿に富に征服欲を満たされ、ここまで初心に恥じらい乱れる姿を見られるは自分だけだという、下らない優越感に酔ってもいた。

  ――リィは、イグルシアスが跡取りを遺すことを望んで女性の伴侶を求めるのならば、闘士として仕えずに身を引くつもりだったのだ。

 真顔で「アンタのものにはならない」と、言い放たれた刹那、心臓が凍り付くような恐怖を覚えた。

 体に教えてあげるなどと陳腐な台詞を吐きはしたが、実際は余裕などまるでなかった。いじらしいまでに一途で潔い彼の在り方に比べて、自分はなんと卑小な男なのだろうか。

 胸の奥で、ひっそりと自らの卑小さを嘆いた。とてもできはしないが、身を引くべきなのはこちらだろう。
 
「リィのことになると、僕は凄くバカになるみたい」

 ……バカどころではないが、緩い態度で苦笑するしかない。ここで下手に謝ってしまうと、いい加減にしろと噛み付かれるだけだ。

「……はぁ。仕方ねぇからそばにいてやる」
「ちっともうれしそうじゃない! 僕の所為だけど辛い!」
「うるせぇよバカ」 

 腰に抱き付くと、「くくっ」と喉の奥で笑われて労わるように頭を撫でられた。柔らかさの欠片もない鍛えられた無骨な男の手だが、それが酷く心地良いのだから不思議なものだ。

「ふふ、人に頭を撫でられるなんていつぶりかな。気持ちいい……」
「そうかよ」

 恍惚としながら彼を見上げて言うと、なぜか不機嫌な顔になり、また髪を引っ張られた。

 これは照れ隠しなのだろう。こういう不機嫌な顔も仕草も可愛くて、たまらない気持ちになる。乱暴だが優しく、素直ではないが真っすぐな彼とのやり取りがとても楽しい。いつまでもこうして、彼とじゃれ合いながら笑っていたい。

「ずっとそばに居て、こんなバカな僕を叱ってね」
「はは。俺のせいでバカになるなら、そばに居ねぇ方がいいかもな」
「そっ、そんなないよっ!」

 リィがいない日々など、考えられない。抱き付く腕に力を込めて、引き締まった腹に頭をぐりぐりと擦り付けて甘えると、腹の虫が豪快に鳴いた。

「あははは! 君のお腹は元気が良いね!」

 大声で笑うと「いい加減に離れろよ」と、軽く頭を叩かれた。

「飯食いに行きてぇけど、今日はどうするんだ?」
「僕の家に招待するよ!」 

 腰に抱き付くのを止めて告げると、意外そうに目を瞬いた。

「アンタのとこで昼飯にすんのか」
「うん! 君を連れて行くって言ったら、侍女達が張り切っていたよ! 外で食事をするのもいいけれど、これから家でも食事をしようね!」
「ああ、アンタとなら俺はどこでもいい」
 
 身軽な動きで長椅子から立ち上がった彼は、柔らかい笑みを浮かべた。この笑みに、いつも心を強く惹き付けられる。その唇がつむぐ言葉にもだ。

 ……彼が一番欲しいのは、豪華な食事ではない。ふたりで過ごす時間なのだ。純粋に己の存在を求められている喜びを感じて心が満たされる。

「君は、とても男前でタラシだね」

 自分よりは幾らか小柄で細身だが、しなやかで逞しい彼の体を強く抱き締める。

「は? なに意味わかんねぇこと言ってんだよ」
「意味なんて分からなくて良い。大好きだよリィ!」
「……ったく、ほんと意味わかんねぇし」

 文句を言いながらも大人しく身を預けてくれたことにまた、溢れんばかりに心を満たされながら、愛しい温もりを時間の許す限り堪能した。
    
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...