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本編
70 しても、良いかな
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――和やかな雰囲気の中で食事を済ませた後、イグルシアスの私室へと通された。
「ここが僕の仕事部屋だよ!」
部屋の中央には執務用らしき机が置かれ、左右の壁にはびっしりと書物の押し込まれた棚が天井までを占めている。それら以外には調度品などの類は何も置かれていなかった。
「一日中ここで仕事すんのかよ」
「そうでもないよ。現地に出向いてする仕事もあるからねぇ」
棚に近付いて納められた本を見てみると、何やら小難しい題名ばかりだった。無邪気に笑ってふざけたことを言ったり、やたらとちょっかいを出してくる青年が、こんな堅苦しい雰囲気の部屋で机に向かって仕事をしているというのが意外だ。
「いつもバカっぽいし堪え性がないくせに、仕事は真面目にやってんだな」
「ちょ! 地味に心に刺さる言い方しないで! 国を支えている王族の一人だもの。兄さんみたいに万能じゃないけれど、頑張ってるんだからね! 偉いでしょ?」
「ちっとも想像つかねぇ……」
「酷い! 今度仕事をしている姿を見せてあげる! 絶対惚れ直すよ!」
「なに言ってんだ。俺は王族で公爵やってるアンタに惚れた訳じゃねぇんだぞ」
振り向いてバカのアンタで良いんだと笑って言ってやると、イグルシアスは不意に目を見開いた。
「どうした? なんか変なこと言ったか?」
「あ、ううん。変なことなんて言ってない……」
端正な顔に笑みが緩やかに広がる。その笑みは酷く幸せそうで、それでいて今にも泣きだしそうなほどの儚さがあった。
「……悔しいなぁ」
独白めいた、密やかで静かな声だった。
「良い所なんてちっとも見せられないし、それどころか逆に君には惚れ直してばかりいる……。惚れすぎて苦しいくらいだ」
ゆっくりと近づいてきたイグルシアスは書棚に両手を着いて、リィの身体を囲い込んだ。こちらを見据えてくる空色の瞳は微かに潤んでいて、いつもにも増して美しく見える。
「リィ」
低く甘く名を呼ばれ、首筋の産毛が逆立つような熱気を感じて息を呑む。
「な、なんだよ」
気圧されて後ずさろうとしたが、書棚に阻まれて身動きが取れなかった。
「君にもっと沢山触れたくて、仕方がない。今すぐ欲しいよ」
欲しいというその意味など、問うまでもなく解っている。何度も触れられ唇を重ねられて、強く求められていることは十二分に感じていたのだ。
ここは特別席でも馬車の中でもないのだから、それを理由に拒む必要などない。相手に触れたいと望んでいたのは、イグルシアスの方だけではないのだ。……場を考えずに淫らに触れられて、羞恥や苛立ちばかりが先立ってしまっていても嫌悪感はなかった。
今ここで彼の求めを受け入れてしまえば、もう最後まで止まることなどないだろう。
「……も、限界……」
男を感じさせる欲情の色に染まりながらも、悩まし気で美しい顔が目の前にある。こんな表情をさせているのが自分だというのが信じられないが、夢ではないのだ。
「すげぇ顔してる」
「ん……っ」
思わず両手で褐色の頬を包み込むと、彼は震えながら瞳を閉じて小さく呻く。
「ねぇ、リィ、……しても、いいかな……」
返事をする代わりに、苦し気に息をしている唇に自らの唇を重ねていった。
「ここが僕の仕事部屋だよ!」
部屋の中央には執務用らしき机が置かれ、左右の壁にはびっしりと書物の押し込まれた棚が天井までを占めている。それら以外には調度品などの類は何も置かれていなかった。
「一日中ここで仕事すんのかよ」
「そうでもないよ。現地に出向いてする仕事もあるからねぇ」
棚に近付いて納められた本を見てみると、何やら小難しい題名ばかりだった。無邪気に笑ってふざけたことを言ったり、やたらとちょっかいを出してくる青年が、こんな堅苦しい雰囲気の部屋で机に向かって仕事をしているというのが意外だ。
「いつもバカっぽいし堪え性がないくせに、仕事は真面目にやってんだな」
「ちょ! 地味に心に刺さる言い方しないで! 国を支えている王族の一人だもの。兄さんみたいに万能じゃないけれど、頑張ってるんだからね! 偉いでしょ?」
「ちっとも想像つかねぇ……」
「酷い! 今度仕事をしている姿を見せてあげる! 絶対惚れ直すよ!」
「なに言ってんだ。俺は王族で公爵やってるアンタに惚れた訳じゃねぇんだぞ」
振り向いてバカのアンタで良いんだと笑って言ってやると、イグルシアスは不意に目を見開いた。
「どうした? なんか変なこと言ったか?」
「あ、ううん。変なことなんて言ってない……」
端正な顔に笑みが緩やかに広がる。その笑みは酷く幸せそうで、それでいて今にも泣きだしそうなほどの儚さがあった。
「……悔しいなぁ」
独白めいた、密やかで静かな声だった。
「良い所なんてちっとも見せられないし、それどころか逆に君には惚れ直してばかりいる……。惚れすぎて苦しいくらいだ」
ゆっくりと近づいてきたイグルシアスは書棚に両手を着いて、リィの身体を囲い込んだ。こちらを見据えてくる空色の瞳は微かに潤んでいて、いつもにも増して美しく見える。
「リィ」
低く甘く名を呼ばれ、首筋の産毛が逆立つような熱気を感じて息を呑む。
「な、なんだよ」
気圧されて後ずさろうとしたが、書棚に阻まれて身動きが取れなかった。
「君にもっと沢山触れたくて、仕方がない。今すぐ欲しいよ」
欲しいというその意味など、問うまでもなく解っている。何度も触れられ唇を重ねられて、強く求められていることは十二分に感じていたのだ。
ここは特別席でも馬車の中でもないのだから、それを理由に拒む必要などない。相手に触れたいと望んでいたのは、イグルシアスの方だけではないのだ。……場を考えずに淫らに触れられて、羞恥や苛立ちばかりが先立ってしまっていても嫌悪感はなかった。
今ここで彼の求めを受け入れてしまえば、もう最後まで止まることなどないだろう。
「……も、限界……」
男を感じさせる欲情の色に染まりながらも、悩まし気で美しい顔が目の前にある。こんな表情をさせているのが自分だというのが信じられないが、夢ではないのだ。
「すげぇ顔してる」
「ん……っ」
思わず両手で褐色の頬を包み込むと、彼は震えながら瞳を閉じて小さく呻く。
「ねぇ、リィ、……しても、いいかな……」
返事をする代わりに、苦し気に息をしている唇に自らの唇を重ねていった。
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