【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

文字の大きさ
71 / 91
本編

70 しても、良いかな

しおりを挟む
 ――和やかな雰囲気の中で食事を済ませた後、イグルシアスの私室へと通された。

「ここが僕の仕事部屋だよ!」

 部屋の中央には執務用らしき机が置かれ、左右の壁にはびっしりと書物の押し込まれた棚が天井までを占めている。それら以外には調度品などの類は何も置かれていなかった。

「一日中ここで仕事すんのかよ」
「そうでもないよ。現地に出向いてする仕事もあるからねぇ」

 棚に近付いて納められた本を見てみると、何やら小難しい題名ばかりだった。無邪気に笑ってふざけたことを言ったり、やたらとちょっかいを出してくる青年が、こんな堅苦しい雰囲気の部屋で机に向かって仕事をしているというのが意外だ。

「いつもバカっぽいし堪え性がないくせに、仕事は真面目にやってんだな」
「ちょ! 地味に心に刺さる言い方しないで! 国を支えている王族の一人だもの。兄さんみたいに万能じゃないけれど、頑張ってるんだからね! 偉いでしょ?」
「ちっとも想像つかねぇ……」
「酷い! 今度仕事をしている姿を見せてあげる! 絶対惚れ直すよ!」
「なに言ってんだ。俺は王族で公爵やってるアンタに惚れた訳じゃねぇんだぞ」

 振り向いてバカのアンタで良いんだと笑って言ってやると、イグルシアスは不意に目を見開いた。

「どうした? なんか変なこと言ったか?」
「あ、ううん。変なことなんて言ってない……」

 端正な顔に笑みが緩やかに広がる。その笑みは酷く幸せそうで、それでいて今にも泣きだしそうなほどの儚さがあった。

「……悔しいなぁ」

 独白めいた、密やかで静かな声だった。

「良い所なんてちっとも見せられないし、それどころか逆に君には惚れ直してばかりいる……。惚れすぎて苦しいくらいだ」

 ゆっくりと近づいてきたイグルシアスは書棚に両手を着いて、リィの身体を囲い込んだ。こちらを見据えてくる空色の瞳は微かに潤んでいて、いつもにも増して美しく見える。
 
「リィ」

 低く甘く名を呼ばれ、首筋の産毛が逆立つような熱気を感じて息を呑む。

 「な、なんだよ」

 気圧されて後ずさろうとしたが、書棚に阻まれて身動きが取れなかった。

「君にもっと沢山触れたくて、仕方がない。今すぐ欲しいよ」
 
 欲しいというその意味など、問うまでもなく解っている。何度も触れられ唇を重ねられて、強く求められていることは十二分に感じていたのだ。

 ここは特別席でも馬車の中でもないのだから、それを理由に拒む必要などない。相手に触れたいと望んでいたのは、イグルシアスの方だけではないのだ。……場を考えずに淫らに触れられて、羞恥や苛立ちばかりが先立ってしまっていても嫌悪感はなかった。

 今ここで彼の求めを受け入れてしまえば、もう最後まで止まることなどないだろう。  

「……も、限界……」
  
 男を感じさせる欲情の色に染まりながらも、悩まし気で美しい顔が目の前にある。こんな表情をさせているのが自分だというのが信じられないが、夢ではないのだ。

「すげぇ顔してる」
「ん……っ」

 思わず両手で褐色の頬を包み込むと、彼は震えながら瞳を閉じて小さく呻く。

「ねぇ、リィ、……しても、いいかな……」

 返事をする代わりに、苦し気に息をしている唇に自らの唇を重ねていった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...