【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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本編

78 王弟殿下と赤痣の闘士

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――月が変わり、ついに披露目式の日がやってきた。

 見事な晴天となったこの日、闘技場は立ち見客が出るほどの満員となっていた。

 華やかで美しい純白の衣をまとったイグルシアスが、舞台の中央に立っている。彼の名を呼ぶ人々の声に応えて時折親しみのある笑みを浮かべ優雅に手を振ると、歓声とともに多くの名を呼ぶ声が上がった。

「――只今より、イグルシアス王弟殿下と赤痣の闘士リィの披露目式を行います!」

 司会者らが、声を揃えて披露目式の開始を報せた。

 それを合図に入場口から現れたリィの姿に、歓声や手を打ち笛を吹き鳴らす音が一斉にわき起こる。天地を揺らすほどの大音声だいおんじょうに臆することなく、彼は顎を引き悠々とした足取りで舞台の上で待つイグルシアスの前まで歩み出た。

 ――二人が舞台の上に揃うと、場内がしんと静まっていく。

 リィが流麗な動作で片膝を付いて、主となるイグルシアスに深く頭を垂れる。

「誠意を示し、誓いを告げよ」

 低く甘い声音とともに差し出された褐色の手を両手で恭しく取り上げて、額に暫し手の甲を押し当てたのち、触れるだけの軽い口付けを落とす。そうして、おもむろに甲から唇を離し、天に広がる青空に負けず劣らず美しく輝く空色の瞳を見上げて、厳かに誓いの言葉を口にした。

「生涯を掛けて、貴方に仕えます」

 公の場に相応しく流暢りゅうちょうな言い回しで告げられた誓いに、イグルシアスが雅やかに微笑んで頷く。

「――その言葉、確かに受け取った」

 王族然とした威厳に満ちた、しかしながらやはり甘さを含む声が場内に響き渡る。今度はイグルシアスが軽く頭を下げて、彼の動作に合わせてリィが立ち上がり差し出した手を取り、その甲を額に当てる。

「親愛を以て、其方そなたの誓いに応えよう」

 顔を上げて同じく手の甲に口付けを落とすかと思いきや、彼は不意に一歩踏み込んでリィの左頬にちゅっと口付けを落とした。途端、観客席のあちこちから黄色い悲鳴混じりの歓声が上がる。
 
「唇にしたかったけれど、騒がれると後が大変だからね。これで我慢しておくよ」

 ――という囁きと共に悪戯っぽく微笑んだイグルシアスに対して、リィは思わず目を剥いた。

「手にしろって言っただろうがバカ……!」
「したかったんだもの。試合に勝てなくても良いから、怪我しないで」
「怪我なしで勝ってやる。見てろよ」

 軽く会釈をしてうしろに下がり仁王立ちの姿勢で剣呑な顔つきをしたリィに、悪びれもせずに上品な微笑みを向けてから、イグルシアスは長衣の裾をひるがえして悠然とした歩みで舞台を降りていった。




 ――その特異な容姿ゆえに誰にも欲されず主無しとまで揶揄やゆされてきた闘士は今、最良の主を得た。現役闘士の中で、直系の王族を主としている者は彼のほかに誰一人としていない。

「イグルシアス王弟殿下がお抱えの闘士、赤痣のリィ!」

 この国において最も有名な闘士となった彼が、観客に向けて誇らし気に綺麗な笑顔を見せて力強く天へ向け拳を掲げる。

 華やかな装束に身を包んだ凛々しく美しい姿に、闘技場全体を揺らさんばかりの大歓声が再び沸き起こった。舞台の際に特別に設けられた観客席から、彼の主となったばかりの青年が甘く優しい笑みを浮かべて見守っている。

「――始め!」

 自分だけを見詰める王弟殿下の空色の瞳へと柔らかな笑みを向けてから、赤痣の闘士は舞台の上を軽やかに駆けていった。








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これにて本編完結です。最後までお読み頂きありがとうございました。
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