【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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番外編

リィの変装④

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 ――屋敷を出た二人は馬車で王都の中央通りまで馬車で向かい、そこからは徒歩になった。

 無邪気に他愛のない話をするイグルシアスの横を、穏やかな笑みを浮かべて歩くリィに対して「赤痣のリィだ!」などと指をさしたりする者は誰もいない。

 伸び伸びとした心地で散策を楽しんだ後、下町へと向かう。

 目指すのは裏路地の先にある飯屋だ。そこで出されるのは、すじ肉の煮込みと、クズ野菜のスープに雑穀パン。安いばかりの品々だが、二人にとって思い出が詰まった料理だ。

「なんだか懐かしいね。この路地で君に助けられたのが、何年も前みたい」
「はは、そうだな。アンタがうるさくて、凄ぇしつこかったのもな」
「ざっくり酷いこと言われてる気がする!」

 酷い酷いと騒ぐイグルシアスを、笑いながら雑にいなしていたリィの顔から、不意に表情が消えた。やや鋭くなった視線は、路地の奥の方に向けられている。

「どうしたの。急に怖い顔して」
「ここにいろ。動くんじゃねぇぞ」

 目を瞬かせて首を傾げたイグルシアスの肩を掴んでその場に留まらせたリィは、ずいと前の方へと進み出た。薄暗い路地の奥から歩いてきたのは、ガラの悪そうな……どこかで見たような若い男の二人組だった。

「よぉ、アンタら、オレらに奢ってくれないか。金に困ってんだよなぁ」

 あからさまなだ。

「断る」

 短く無感情に放たれた返答に一瞬だけ苛ついた表情を見せた二人組だったが、直ぐにへらへらとした笑い顔になる。こちらを甘く見ているのは明白な態度だ。

「威勢がいいなぁ。ちょっと奢ってくれたら済むんだからいいだろぉ」
「綺麗な顔が台無しになる前に金よこしな。痛ぇのは嫌だろ?」

 体格の良い方の男が、一見細身に見えるリィの肩を拳で強く小突いてくる。

「触んじゃねぇよクソが」

 色味鮮やかで柔らかそうな唇から、地獄の底から響いてくるような低い声が吐き出された。

 その声に驚愕の表情を浮かべた男の胸ぐらを鷲掴みにしておいて、リィは軽やかに膝を振り上げてみぞおちに一撃を食らわせる。

「ゴフッ!」

 喉奥からせり上がるような声を漏らした男の胸ぐらを離すと、その体はあっけなく足元に転がった。図体の割には撃たれ弱いのか、起き上がってくる様子はない。

「舐めてんじゃねぇぞコラァ!」
「ひっ、うぎゃあっ!」

 怒号とともにもう一人へと躍り掛かり、平手で横っ面を強かに打ってなぎ倒す。

「す、すいませんでしたぁっ!」と、這いずるようにして逃げ出そうとした男を「うるせぇよカスが! てめぇから喧嘩売っといて逃げんな!」と、怒鳴り付けながら横っ腹を蹴り飛ばした。

「わぁ! かっこいい!」
「ったく、こんなクズども片付けたところで、飯の足しにならねぇ……」
「そうだけど、僕だったら勝てないもの。リィはやっぱり凄いね!」
「凄くねぇから騒ぐな!」

 リィは平手を食らわせた方の手を、上着の裾辺りで払うようにして拭ってから、倒れた二人を「邪魔だおら。二度とやるんじゃねぇぞ」と、言いながら足で突っついて壁際に避ける。イグルシアスが通るために道を空けたのだ。

「さっさと飯食いに行くぞ」
「うん! でも、この子達は放置しておいていいの? 起き上がれないみたいだけど」
「あ? 軽く撫でてやっただけだぞ。そのうち起きて帰るだろ」

「撫でるって! それ、言葉の意味が違う気がするよ!」と、騒ぐイグルシアスを引き連れて、リィは悠然と飯屋へと歩き始めたのだった。
 
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