【完結】赤痣の闘士は、好きになった彼が王弟殿下だと知らなかった

ゆらり

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番外編

リィの変装⑤

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 ――変装をして出かけた、その日の夜。

 侍女に頼んで変装の化粧を落としてもらい、入浴と寝支度を済ませたリィが寝室へ入ると、先に髪色を戻して待っていたイグルシアスが飛びついてきた。

「リィ!」
「うわっ!」
「やっぱり、リィは痣がないとリィじゃないよ!」
「んぁ、おぃ、頬ずりすんな!」
「愛してるよリィ!」

 脂下がっている顔を見上げて、呆れた半目になっている愛しい闘士の頬に、イグルシアスは何度も口付けを落とす。もちろん痣のある側の頬だ。

「も、バカ! いい加減にしろよ!」
「加減なんてないよ。いくらしても足りないのだもの」

 これ以上なく甘い声と眼差しと、頬や髪を撫でる優しい手によって、リィの顔が緩んでいく。煩わしいという顔をして怒鳴ることが多いが、触れられること自体は嫌いではないのだ。

「……アンタの底なしには一生勝てねぇな……、俺は」と、柔らかい笑みを浮かべながら広い背中に回されたリィのしなやかな腕が、イグルシアスをしっかりと抱き締め返す。

「不思議なもんだな」
「ん? なにが不思議なの」
「痣を嫌っていた俺が、痣がある顔も悪くねぇって思えるようになった。それがすげぇ不思議だ」
「ふふ。僕のお陰だね!」
「……ま、そうだな。アンタのしつこさのお陰だ」
「ちょ、言い方!」
「くくっ。本当のことだろ」

 どちらからともなく、じゃれ合うような軽い口付けが始まり、それは次第に深く濃密なものになっていった。




































 ――整えられた寝台の上で、リィは気怠げな顔で欠伸をした。

 事後の疲れもあって微睡みかけている彼の頭を撫でながら、イグルシアスが「また変装して食事に行こうね」と、言うと、「……気が進まねぇな」と、眉間に皺を寄せた。

「えっ、どうして」
「痣がねぇと舐められるだろ」
「僕が好きとか愛してるって言ったからじゃないの? 愛情が足りない!」

 ぎゅうぎゅうと抱き締めて不満を訴えるイグルシアスの胸に頬を摺り寄せて、「うるせぇな……。行かねぇとは言ってねぇだろうが……」と、再び欠伸をする。

「久しぶりにアンタと自由に出歩けて楽しかった。あの侍女に頼むのが手間じゃなけりゃ、いい」
「その辺は問題ないよ。時間帯の調整さえすれば、負担にならないから」
「なら、また頼む」
「わかったよ。楽しみだね。今度は裏路地は通らないようにしよう。万が一ということもあるから」
「まあ、そうだな。俺が守ってやれるっていっても、ああいう連中とアンタを会わせたくねぇし」
「ふふ。僕のこと考えてくれて嬉しい」

「当たり前だろうが」と、呆れ混じりに応えるリィに蕩けた甘い眼差しを注ぎながら、つむじの辺りに口付けを落としたイグルシアスも、彼の眠気が移ったのか小さく欠伸をした。 

「……そいえば、君がお仕置きした子達、僕が前にお金を取られた子達だったね」
「あ? ああ、そうだったか? ……あんま顔覚えてねぇけど」
「覚えてなかったの」
「前のときは、あんたに止められたしな。どうでもいいクズの顔なんていちいち覚えてねぇし。……ちっ。へし折っときゃよかったか」
「リィったら顔が怖いよ! へし折るってなに!」
「騒ぐんじゃねぇ!」

 ――いつも通りに騒がしくも甘い、二人の夜はこうして更けていったのだった。 
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