モンスターコア

ざっくん

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vs秘密結社クロノス

74話 シルビア.1

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「ーーー完了。」

 グレーの正気が無いつぶやきの後、突如発生した純白の光の柱が発生する。窓の発生により漆黒と水色の二層に分かれた空は縦に割られる。源界こちら側を眩い光で照らし、巨大な窓の奥に存在する外界向こう側を覗かせた。

「これでようやく、パ…おっとそれは駄目です。気をしっかり保たなければ、フフッ」

 長耳の黒装束は頭を抑え、苦痛に顔を歪ませながらも笑って見せた。

 彼らクロノスの実質的なリーダーは彼女である。
 彼女はイジられ役であり仲間からの評判はファザコン、バカ、小物、耳長いなど散々足る結果である。しかし、最も敵に回したく無い相手にと皆口を揃えて彼女の名を上げる。
 前触れも無く山に篭った研究者の元を訪れる。一つの情報で教員を釣り出す。元英雄の野盗を拾う。その辺を彷徨っていた幼女を攫う。どの戦力も一級品だ。何のコネもない個人で集められるものではない。
 さらにその知力と情報力に加え、未知数の力を持つ。本来ならばあり得ない種類の多彩な魔法を精密に扱う。どんなに探っても底どころか入り口すら見えないのである。

「シルビア、久しぶり」

 シルが彼女の前に現れた。
ーーーーーー

「シル、久しぶりですね」

 早朝、まだ学園の人間が日常を謳歌していた頃、彼女は内通者の手引きで学園の地下に来ていた。
 そこは地上から10メートルほど下の所に存在する立方体の部屋である。部屋の中には大量の管とそれに繋がれたマネキンしか無く外との出入り口の類は一切無い。

 そのため彼女は壁を円形に繰り抜き部屋の中に足を踏み入れた。

 ガクッ

 マネキンが彼女を感知しビクリと動き出す。本来ならば警報が鳴るべき状態であるがその場は恐ろしく静かである。

「だれ?僕の連勝記録をストップさせておいてつまんない事だったら…97回ゲームに付き合ってもらうよ」

「久しぶり、借りを返しに来ましたよ。ここから出ましょう」

 シルビアは手を差し伸べる。
 ただ、その仕草は自然で美しかった。異性のみならず同性をも性的に魅了すほど洗練されていた。しかも、そのような行動を何度も繰り返してきたのか、すっかり堂に入っている。
 しかし、その仕草とは裏腹に彼女の顔からは懐かしさを読み取ることができた。
 シルは腕の管を外し、特に躊躇いもなく差し伸べられた彼女の手を取った。

「ありがとう。一つ聞いていい?」

「どうぞ」

 彼女は少し首を傾ける。相変わらず人を魅了する仕草である。
 しかし、魔動人形ゴーレムであるシルには大した意味がなかった。彼に人間的な本能が無いためが受ける感情は洗練された剣術のもの対して変わらない。
 
「だれ?」

 黒装束により気配がぼやけており、声にも心当たりは無い。
 正直、誰にも貸しを作った覚えの無い彼はある意味で恐怖を感じていた。

「忘れたんですか?私ですよ私、シルシルコンビのシルビアです」

 フードを外し、素顔を露わにした。あたかもそう言うコンビがあるかの様に堂々した態度である。
  宝石のような濃青の瞳、特徴的な長い耳と金色の髪、そして堀の深い美しい容姿。
 金色こんじきの髪は背中まで伸びており、容姿も含め大人びた美少女そんな印象を与える。
 そして、彼女の特徴的な耳は既存のエルフ種とは比べられないほど長い。たまに耳の長い個体が生まれる事もあるが比較にならない。もう少し伸びれば肩に届きそうな勢いである。

「本当にだれ!?」

 ただ、シルは何も知らない。

「え?覚えてない?仕方ないですね。それは八十年くらい前のこと…」

  シルと彼女は面識がなかった。それなのに、彼女は馴れ馴れしく接してくる。まるで旧知の仲であるかのようだ。

「待って、僕、産まれてから半年だよ!?」

「それはそこまで重要じゃないです」

「え…でも」

「重要じゃないので省きます」

「はぁ!?何この人!?怖いんだけど!え?何!?警備の人ー!!」

 シルは残った管を全て外し、自身の足で地面に立つ。そして、 斜め上を向いて叫んだ。

「……」

 しかし、誰もいないのか反応は無い。ただ、シルはある人間の存在を確信していた。

「フィロー!出て来て状況を説明してよ。このエルフもどき多分話できない!」

「そんな…私を捨てて他の女の所に行くのですね。浮気者…」

「いきなり泣き出しても誰も騙されないよ!状況考えて!」

「フィロー!早く来てー!来ないと愛しのラウドをコロコロしに行っちゃうよ!」

「……」

「無視!?もう、それなら仕方ないな~、告白代行してあげるよ!今ちょうど魅力的な…」

 シルの目の前に青白い小さな玉が出現した。
 これは警告だ「これ以上何か言ったらぶっ飛ばすぞ!」との意思を読み取ることができる。

「…所作を覚えたから、きっと成功するよ!」

 しかし、シルは警告を軽く無視する。楽しさを優先したのだ。

「それは良いですね!私の極めたハニトラ術を全てを伝授しますよ。えっと…」

 何故かシルビアも乗り気である。頭の中で自信の所作を言語化し始めていた。
 二人は襲い掛かって来る球体をいなしながら

「まっ、妹をそんな目で見れるわけねえよ。頭ポンポン。とか言ってフラれそうだけどね。残念」

「確かに!こうなったらタスク変更です。意識させる方向に持っていきましょう!色仕掛けは得意分野です!」

「それ良いね!…待って、何でラウドの性格知ってるの?」

「あっ、そう言うのはいいです。」

「えっ、えー….」

「そんな事より作戦会議です。『まずは見た目から』という事で、水…下着です!白をベースにフリルを付けて!布面積を多めにお淑やかな雰囲気を出してしてください!」

「よしきた!任せて!この際だから、何でラウドの好みを?とか聞かないでおく。時間稼ぎ任せたよ!」

「はい!あなたの邪魔は誰にもさせません!」

「「あ゛っ…!」」

 案の定、球は巨大化しを壁に押し付けた。

「待って、待って、待って!死んじゃう!潰れる!」

「フィロさん!隠密行動ですよ!これ以上は感知されます!どうか怒りを抑えて!」

 二人の必死の説得も意味をなさず攻撃の勢いはさらに増した。
ーーーーー
 感知されることを恐れた二人は最後まで抵抗出来ず攻撃を受け続け倒れた。
 今更ではあるが教員であるフィロスは学園に魔法を使ったことがバレても差して問題はないのだ。

「…私をからかって満足?」

 フィロスは二人がボロボロになって地面に臥してからようやく姿を現した。

「ねぇ、楽しかった?」

 彼女はシルの頭をグリグリと踏みつける。力を込めて念入りに靴底を押し付ける。

「フフフ、楽しかった?だって」

「笑えます」

「「楽しいのはこれか…ガフッ!」」

 立ち上がろうとした二人の地面に強く打ちつけられた。魔法がまともに使えない今の彼女たちでは相手にならなかったのだ。

「茶番はそれくらいにして。予定が崩れる」

 彼女は憂さ晴らしにシルビアの溝内に蹴りを入れる。

「ふふっ、本当に茶番だと?」

「何…?」

 フィロスは警戒の色を露わにする。こんな様子であるがシルビアの能力は常軌を逸している。
 学園すら把握していない情報を無価値のものであるかのように振りまく。
 目的がはっきりとしていない以上、確実に衝突しないとは言い切れない。それなのに羞恥し警戒を怠ったのだ。後悔の念が膨れ上がる。

「本気も本気、大マジです!」

「おい、ちょっと待てゴラァ」

 セフィロはあまりの衝撃に口調が崩れる。二人にもう一撃加え、シルビアを魔法で浮かべる。

「これで勝ったと思わないことです。がその気になれば、あなたの声で公開告白する事も可…グフッ!」

「黙って」

「僕だって。ラウドの体になって色仕掛け!することも可能だよ!……あれ?ブワァ!」

「………」

「今ちょっと考えた!よく無いこと考えた。スケべなんだ~」

ドカッ!

 シルが球体の攻撃で地面に叩きつけられる。

「…ッ!…シル、時が来るまでそこで大人しくしていてください」

「私としては出て暴れてくれると嬉しいですが」

「ねぇ、どっち?仲間じゃないの?」

 二人の意見が食い違っている。協力関係にあるのならば作戦が

「うーん、互いをデコイにしてやしたいことをやるって感じですね。でも、学園はそこまで甘くない。だから、同時に暴れましょ。って感じです。やりますか?」

「僕は自分のやりたいことをするよ。ところで君のそれは何…」

「あなたには関係ないです!それじゃ、私は行きますので!」

 シルビアはシルの言葉を遮ると、セフィロの高速を振り解き脱兎の如き勢いで部屋を出ていった。

「あっ!逃げた…」
ーーーーー
 シルは腕から伸びた光をシルビアに向けた

「さっそくだけど、返してくれないかな。それは人の手に余る」

「あなたから秩序を重んじる言葉が出るとは…世界が滅びるんじゃないですか?」

「僕も驚いてる」
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