復讐の殺人鬼

ざっくん

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序章

始まり

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 人は変化を望まないと生き物だと言う。どんなに苦しい生活を強いられたところでいつかは慣れてしまう。慣れてしなえばストレスなど感じず幸福に生きることができる。時に慣れと言う鎧が外的要因によって剥がされてしまうことがある。そうなってしまったら、人はもう止まることはできない。

 トゥルルル、トゥルルル、

肌寒い月曜日の朝、ある男の携帯電話に一通の連絡が入る。

警察?…

「はい、○○です。どちら様ですか?」

 男は不思議に思いながら電話に出た。

「そちら、ーーーーーー様でお間違えないでしょうか?………」

「はい…」

 妹が死んだらしい。今日の朝方にビルの屋上から飛び降りた所を現場を近くを散歩していた近隣住民によって目撃されたそうだ。遺書も発見されており、そこには高校でのイジメを仄めかす内容が書かれていたらしい。

 イジメ…か、相談してくれれば手を貸すくらいはしてやったのに…。疎遠ではあったがこんな時ぐらい頼って欲しいものだ。

 葬式が終わり、事後処理と言う物はある程度終わった。
 日常生活に戻るために実家のマンションで最後の荷物整理を行う。作業を進めていると誰かが訪ねてきた。ドアを開けると夫婦とお子さんがらしき人物が申し訳なさそうに立っていた。

「はい、どちら様ですか?」

 話を聞くとイジメについての謝罪をしに来たらしい。全体で一度謝罪されているが、個人的に来るのは感心する物がある。

「大丈夫です。もう終わったことですから」

「はい、そうですか…」

 謝罪をするとその一家はすぐに帰って行った。

 菓子折りを受け取ってしまった…そうだ、確か棚にカステラがあったな

 菓子折りの礼としてのカステラを持って後を追う。
 玄関から出るといきなり少女の怒鳴り声が聞こえてきた。

「何で謝らないといけないの!?」

「やめなさい!あなたが殺した様なものなのよ!」

「なんで私だけ!?皆んなもやってたわよ!」

「よさないか!」

 どうやら少女は不服だったらしい終わった後も文句を言っている。男は熟考した上でなお礼の品を渡しに行った。

「すいません。つまらない物ですが、」

 男は駆け寄り声をかける。

「えっ!?」

「どうしました?」

「いえ、きゅ、急だったものでつい…」

 母親がオドロオドロと言った。

 「申し訳ない!」

 父親が取り繕う妻を尻目に声を上げた。

「はい?」

「あ、いや、何でもない。忘れて欲しい」

 父親がハッとして言葉を訂正する。

「はは、お互い苦労しますね」

 菓子を渡してその場を去った。

 彼らに当たったところで何か変わる訳でもない。それにもう会うこともないだろう

 男が家に戻ろうと扉に手をかけた時。下から大きな爆発音が鳴り響いた。通路から外を確認すると駐車場の入り口で車が黒煙を上げて燃えていた。

 救急と消防を…!

 男はスマホを片手にその場に駆けつける。

「…はい、出入り口のところです!はい、はぃ………」

 男は燃え盛る車の前で絶句する。
 まず目に入るのは父親である。横になった車の窓から上半身が飛び出している。顎が外れダランとなっていて、右半分が潰れた空き缶のようにぺちゃんこになっている。さらには、血を噴き出しながら今なおピクピクと痙攣している。
 次に、フロントガラスに立てかけられた下半身が目を引く。大きさからして母親だなのだろう。車内に残っている下半身の損傷は少ないが上半身は見当たらない。

「……」

 男は悲惨な光景に言葉を失う。上半身の損傷は下半身の比では無く原型を留めていなかった。車がグルグルと回ったのだろうか点々と肉塊が車の元まで続いている。プレス機で潰されたような肉質であり、べちゃりとコンクリートにこびり付いていた。

 これはひどい…

「助けて…」

 生きているのか!?

 聞き逃しそうなほど小さな声だが確かに聞こえた。すぐさま車によじ登り後部座席を確認する。消防には近づかないように言われていたが、そんな事は関係ない。

 人間とはそのように出来ている。

 男は車によじ登り窓から手を伸ばす。熱く燃え上がる炎の中で車内に深々と体を入れる。

「捕まれ!」

 弱々しく伸ばされた腕を掴んで引き上げる。

「あ……」

 男は再び絶句する。少女の喉元に拳台のガラスが突き刺さっていたのである。切り裂された喉からドバドバと血を流していた。

「お父さん、お母さん…」

 少女は掠れた声で手を伸ばす。絶望的な状況にも関わらずその表情は希望に満ち満ちていて、この先に希望が待っていると信じて疑っていない。そんな救われたような笑顔だった。

「え……」

 男は隣に横たわっている肉塊を見た。右半分がぺちゃんこになったそれはこちらを向いていた。

 彼女は知らないのだろう。天国にも見えるその扉の向こうには更なる地獄が待ち受けていることを…
 見せてはいけない、これ以上の絶望は…!

 男は少女を引き上げた。いや、引き上げてしまった。

「…なんで?」

 少女の瞳に無残な肉塊と成り果てた父親が写り込む。痙攣は治まっておりピクリとも動くことは無かった。

「…パパ?なんで?」

 少女はか弱い声で呟く。

「大丈夫だ!大丈夫、大丈夫、」

 男は少女をギュッと抱きしめる。現実を受け止められず今にも壊れそうな彼女を抱きしめずにはいられなかった。
 しかし、悲劇は畳み掛けるようにして起こるものである。男の背後、少女の目線の先にはコンクリートに削られ、下半分の無い母親の頭が落ちていた。運の悪いことに母親の顔はこちら側を向いており、想像を絶する痛みを味わい白目をむきかけたその瞳は、少女を睨む形となっていた。

「うっ!………?」

 少女はその悍ましい光景に吐き気を模様したが、胃の内容物は外に吐き出されなかった。
 不思議に思った少女は喉元に手を伸ばして確認する。

 なに…これ?

 ここで初めて少女は自分の喉に巨大なガラス片が刺さっていることに気づいた。
 自覚したことにより急激に力が抜けて後ろに倒れる。

「大丈夫か!?」

 男は両肩を掴んで少女を支える。

「………え?」

 少女の中の小さな希望は更なる絶望へと姿を変えた。

 笑っていた。男は飛び切り不気味な笑顔で少女を見つめていた。今、この男が全て仕組んでいたと言われたら信じてしまうほど邪悪だった。

 ……美しい!

 男はこの悲惨な光景を見て彼女と麗しいと、この状況を愛おしい感じていた。しかし、それと同時に物足りなさも感じていた。

 足りない…足りない…しかし、人間としてそれは…

 だが、葛藤する彼の理性を置き去りに体は彼女の首へと手を伸ばしていた。

 それは音もなく押し込まれ、少女は車の中へと落ちていった。
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