断罪上等!悪役令嬢代理人

蔵崎とら

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代理人、引っかかる

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「大人しくしててねって言ったよね?」

 先生からの圧が強い。

「大人しくしてました」

 私がそう言うと、先生の眉間には深い深い皺が寄る。私の言い分を嘘だと思ってやがる。
 こうなったら別に騒いだり暴れたりしたわけではないんだから一応大人しくはしていたのだとアピールをしなくてはならない。

「俺のせいです」

 アピールのために口を開きかけたところで、王子殿下からの横槍が入った。
 すると先生は、小さな声で「えぇ?」と言いながら、深い深い皺もそのままに私から王子殿下のほうへと視線を移す。

「俺が騎士の訓練所を見に行こうって誘ったのが原因です」

「えぇ……」

 困惑した先生は「そもそも令嬢がそんな誘いに乗るかな」と続けていたが、私は聞こえないふりを貫く。
 そもそも私は普通のご令嬢じゃないので訓練を見に行っただけじゃなく自分も訓練したいと思ってましたけどね。言わないけど。

「まぁ誘いに乗ったのも私だし魔法を使ったのも私だから別に誰のせいでもないけどね」

 王子殿下は私が怒られると思って自分のせいだと言ったようだ。
 しかし、先生がこの程度で怒るはずはない。ちょっと圧は強かったけども。

「魔法を使うのはいいんだよ。治癒魔法を使ったんでしょう?」

 ほらね。

「治癒魔法です。歌に乗せるやつ」

「で、噂になってるってことは、成功したんだね?」

「そう……なんじゃないかな、と」

 先生が詳しく聞かせて、と言うのであの日に起きた出来事を、順を追って説明した。
 治癒魔法を歌に乗せたこと、歌い終わったら怪我人が眠ってしまったこと、怪我人を追いかけて医務室に入り込んで盗み聞きをしたこと、怪我人が言うには眠ってしまう前に歌が聞こえていたということ。

「聞こえる距離で歌ったの?」

「いいえ。声量も隣にいたアシェルに聞こえる程度……だったはず」

 私がそう答えると、王子殿下もこくりと頷いた。

「そうか……だから大輪の乙女か」

 先生はそうぽつりと呟いて、小さな声で「うーん」と呻っている。何かを考えこむように、顎に手を当てながら。

「先生は大輪の乙女をご存知なんですか?」

 そんな私の問いに、先生はこくこくと頷く。

「知ってるっていうか、何度も調べてる……」

 さすがは研究者、と言った返答だった。
 しかし何度も調べてる、とはどういう意味だろうか? やはり童話だの物語だのになるくらいなので、すごい人だったのか。

「そもそも君が歌に魔力を乗せることが出来るかって聞いてきたときに言ったよね。昔そういう人がいたって」

「あぁ……」

 なんか、言ってた気がするなぁ。

「それが大輪の乙女だよ。彼女はその身に膨大な魔力を秘めていた」

「へぇ」

「そしてその人、トートさんの血縁者だよ」

 小さな小さなため息交じりの声だった。
 トートさんというのは、もちろん先生が調べてくると言ったあのトート・ウィステリア・アンガーミュラーのことだ。
 そして大輪の乙女がその血縁者だと。……ということは最近も調べてた可能性もあるな。

「最近も調べてたよ。君が興味あるかなと思って。トートさんのついでに」

 あ、やっぱり。

「興味あります」

「それならよかった」

 そう言った先生の顔が少し疲れていた気がした。
 そして先生と私がふと押し黙ったその時、王子殿下が口を開く。

「先生、トリーナが大輪の乙女の生まれ変わりである可能性は……?」

「噂のやつだね」

 先生はしばし難しい顔をして黙り込む。
 先生ならもっとサクッと否定してくれると思っていたが、まさか黙り込むとは。
 いやいやいや私自身の前世は日本人なんで大輪の乙女の生まれ変わりではないですよー! と言ってしまえれば楽なのだが、そんなこと言えやしない。

「可能性としては、絶対にないとは言い切れないってところじゃないかな」

 そんな先生の言葉を聞いた王子殿下が、なぜかドヤ顔で私を見ている。
 絶対にないんだからそんな顔でこっちを見ないでほしい。

「人間の転生周期は大体300年から400年っていう説がある」

「転生周期」

 すげぇ話になってきたな。

「大輪の乙女が亡くなったのは、今から300年以上前。そろそろ転生していてもおかしくはない」

 大輪の乙女ってのは300年前とかの人物だったらしい。
 要するに歴史上の偉人的な感じなのだろうな。日本的に言えば……大体江戸時代とかかぁ。

「誰が誰の生まれ変わりか、なんて調べようがないから絶対にないとは言い切れないよね」

 と、先生は笑う。

「ほらね」

 やっぱり王子殿下がドヤ顔で私を見ている。

「いやいや、私は大輪の乙女の生まれ変わりではないって」

 そのドヤ顔に、私は呆れた声で返す。
 すると王子殿下、今度はむすーっとむくれた顔をして先生のほうを見る。

「トリーナはなぜか絶対ないって否定するんです」

 私が生まれ変わり説を否定するのが余程不満らしい。
 そんな不満がられたって生まれ変わりじゃないんだから仕方ないじゃんね。

「絶対かどうかは分からないけど、あれだけ魔力の強い人なら記憶を持ったまま転生してきたりもしそうだけどねぇ」

 先生はそういってけらけらと笑った。
 明らかにいたずらっ子の笑顔なのに、王子殿下はそれを真に受けて「記憶があるから全否定してるの?」と疑いの目を向けてくる。

「私がもし本当に生まれ変わりだったとしたら何?」

 と問いかけてみたら、王子殿下は少し驚いて、そのまま動きを止めた。
 別に生まれ変わりだからといって何かを考えていたわけではないらしい。

「何……っていうか、トリーナは妙に強いし落ち着いてるからすごい人の生まれ変わりなんじゃないかなって」

 王子殿下は首を傾げながら呟く。
 先生はそれを聞いて「ちょっと分かる」と言って笑っている。笑い事ではない。
 だって私はすごい人の生まれ変わりではなく、ただのちょっとやんちゃしてた日本人の生まれ変わりなのだから。

「生まれ変わりじゃなくて、今後大輪の乙女みたいな偉業をなしそうではあるよね」

「それだ!」

 先生がふざけるから、王子殿下もそれに流されちゃったじゃん。それだ! じゃねぇんだよ。
 私はあの少女の仇討ちをするつもりでいるだけで偉業なんかなさないし、仇討ちさえ済めば目立たず騒がずひっそりと生きていくつもりだよ。

「大輪の乙女は歌じゃなく声に魔力を乗せた、いわゆる『命令魔法』って魔法を使ってたんだけど歌に乗せるほうが優雅でいいよね」

「優雅!」

 王子殿下! そんなに簡単に乗せられちゃダメ!

「私は目立たずひっそりと生きる予定だから偉業なんかなしませんよ」

 私がそう言うと、なぜだか妙にテンションが上がってしまった王子殿下が笑い出した。

「将来王妃になるんだから目立たずひっそりとなんて無理だよ」

 笑いながら、とても無邪気にそう言った王子殿下を見て、先生がちょっとだけ寂しそうな顔をする。
 おそらくあの本の魔法で見たこの国の未来を思い出しているのだろう。
 こんなにも無邪気な王子殿下が、どこぞの女に唆されてこの国が崩壊する。そんな未来を。

「さてさて、そんな将来の王妃が優雅な魔法を使いこなせるように勉強をしようか」

「あ、はい」

 先生はこの国の未来のことを王子殿下に話すつもりはないらしく、さっさと話を逸らしてしまおうとしているらしい。
 そんな先生に、王子殿下は「机の上を片付けましょうか」と提案している。
 机の上は例のゴミという名のファンレターで埋まってしまっているから。

「いや、ここはいいよ。資料が大量でこっちに持ってこられなかったからあの資料館で勉強するつもりだったし……あれ何?」

 どうやら先生は今あのゴミたちに気が付いたらしい。
 あんなにも大量にある謎の紙に今の今まで気付いてなかった、というか認識してなかったってどういうことだよ。とツッコミたい気持ちを抑えながら、要望書のおおまかな説明をする。

「要望書ねぇ。そういえばそんな箱あったね」

 説明を聞いた先生は、その辺にある紙を一枚手に取った。

「お慕いしております、だって。だから何?」

 シンプルな疑問。

「それ、ここにいる全員が思ってます」

 と、私が言えば、先生も「だよね」と言って手にしていた紙をゴミ箱にぶち込む。
 要望書をファンレターにして送りつけてくるやつらはこっちがこんなにも迷惑しているってことに気が付いていないのだろうな。

「こっちは脅迫文だけど」

「あぁ、私宛てですね」

「もしかして結構たくさん来てたりする?」

「しますね」

「大丈夫……?」

「はい。実害ないんで」

 紙で脅迫されたところで痛くも痒くもないのでなんとも思わない。
 そもそも私の立ち位置が人から妬まれるであろうことくらい、あの少女の人生映像を見た時から理解しているので今更ビビることもないわけで。
 しかしこうして私の周囲の心優しい人たちが傷ついた顔をしてしまうのが不本意だなとは思う。
 だからと言ってわざわざ犯人捜しをしてどうこうするのは……それはそれで大変だし、ここはやはり放置しておくのが一番だと結論付けてしまうのだ。
 実害がない、ということで。
 まぁでも嫌われているとはいえ、うちも一応侯爵家なので犯人を捜しさえすれば権力でどうこうできるのだが、これを書いたやつらはそれに気が付いているのだろうか?
 気が付いていないのか、なめられているのか、どっちかなぁ。

「トリーナのそういうところが妙に強いし落ち着いてるんだよなぁ」

 ふと、王子殿下が呟いた。

「これは強いとか落ち着いてるとかじゃなくて面倒臭がってるだけなんだけどね」

 どちらかというと事なかれ主義なだけである。

「脅迫されて面倒臭いって言ってる時点で強靭だと思うよ、先生も」

 先生まで。
 でも脅迫文はどれを見ても筆跡が女子なんだもの。
 この学園内に拳で戦って私に勝てる女子がいるとは思えない。
 皆が皆揃いも揃ってお嬢様なわけだし、クソヤンキー共と戦ったことのある女子なんていないだろう。……いや、まぁそもそも貴族が集まっているこの学園にクソヤンキーが生息してないんだけども、それは一旦置いておくとして。
 そしてこの世界には魔法があるとはいえ、攻撃魔法を使える女子はほとんどいないって話だし、それなら魔法で戦ったって私に勝てる奴がいるとも思えない。
 なんたって私にはあのヒステリックマナー講師に対して使ったあのヤバい魔法があるんだから。
 そんなわけで、こんな匿名でごにょごにょ脅迫文を送ってくる奴なんか「面倒臭い」で捨て置いていいと思っている。

 ……結局強いのか、私。

「こっちは大輪の乙女の生まれ変わりにお礼がしたいから名乗り出てほしい、かぁ」

 先生はいつの間にか次の紙を手に取っていたらしい。

「お礼がしたいってことは、さっき君たちが言ってた騎士の訓練所で怪我をした子が書いてるのかな?」

 そんな先生の疑問に、少しだけ引っかかった。
 大輪の乙女に関して書かれていた紙はあまり深く考えずに却下の箱に放り込んでいたけれど、そう言えば、変だった気がする。
 私は急いで却下の箱に近付いて、大輪の乙女に関して書かれていた紙を掘り返していく。

「どうなんでしょう?」

 箱の中から引っ張り出した紙に書かれているのは、お礼がしたい、名乗り出てほしい、直接会ってお礼を言いたい、お礼の品を贈りたい、と、書かれていることは似たり寄ったりなのだが、どれも筆跡がバラバラだった。

「うーん……?」

 王子殿下も先生も、小さく呻りながら首を捻っている。

「これ、大輪の乙女の生まれ変わりを表舞台に引きずり出したい集団かなんかがいるんですかね?」

「そんな感じだよね」

 ただ単にあの魔法を使ったやつの顔が見てみたい、という愉快犯がやっていることなら大したことない些細な事ではあるけれど……?

「引きずり出して、その後でどうしたいのかによっては結構危ない話かもしれないね?」

 先生のそんな言葉に、王子殿下も私もこくりと頷く。
 この場合危険なのは……。

「君はあまり一人にならないほうが」

「いや、危ないのは多分私じゃないですね。現時点で一番危ないのはきっとアルムガルトの弟だ」




 
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