断罪上等!悪役令嬢代理人

蔵崎とら

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代理人、仕分け作業に飽きる

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「ねぇアルムガルト。私の友達があんたに会いたいって言ってるんだけど明日の昼休みに来てくんない?」

「お前に友達はいないんだろう。無理はするな」

 それはそれは見事な哀れみの瞳だった。
 もう絶対に協力してやらない。

 アルムガルトとそんな会話をしたのは、私を脅した女ことロザリーと話した日の放課後のこと。
 そういえばその時からアルムガルトとその弟の様子は少し変だった。落ち着きがないというか、人の目を気にしているというか、とにかくそわそわしていた気がした。
 そのそわそわの原因の一つが分かったのは、その翌日。今日の朝だった。
 今朝、いつも通り学園に足を踏み入れると、今日も元気に大輪の乙女の生まれ変わりの噂が聞こえてくる。
 やっぱり噂はまだ消えてないかぁ、と思いつつも、ロザリーに昨日言われたことを思い出して、表情を変えないように心を無に保つ。
 ただ、無に保てていたのは一瞬だけだった。なぜなら新しい噂が聞こえてきたから。

「大輪の乙女の生まれ変わりはベルク・ライラック・ランス様らしいじゃないか」

 と、そんな噂が。
 私に目が向くことはなくなった! と心の中で喜んでしまった。あまりの嬉しさに、ちょっと顔に出てしまったかもしれない。
 それと、そのベルク・ライラック・ランスって誰? という疑問で、ちょっと首を傾げてしまったかもしれない。
 私のせいでとばっちりを受けた可哀想な人だからな、少し罪悪感がある……ような気がする。ないような気もする。誰だか分からないからな。
 いや、でもどっかで聞いたことがあるような……?

「トリーナ様、おはようございます」

「あぁ、おはようロザリーさん」

 ちょっと首を傾げていた私の背後から声をかけてきたのはロザリーだった。
 私は足を止めずに挨拶を返すと、ロザリーも並んで歩き出す。

「アルムガルト様をお誘いしていただけました?」

「出来なかった」

 なぜなら哀れまれて腹が立ったから。今も思い出すだけでイラっとする。あのアルムガルトの哀れみの目……!

「そう、ですよね……」

「忙しいみたいだった。っていうか……なんか変だったのよね」

 誘おうともしなかったと思われるのは癪なので、声だけはかけたアピールをしつつ、私は首を傾げて見せる。

「あぁ、弟様のことでしょうね……」

「弟?」

 傾げた首はそのままに、私は眉間にも深い皺を刻んだ。

「先ほどその辺の人たちが噂していましたでしょう? 大輪の乙女の生まれ変わりはベルク・ライラック・ランス様だった、と」

「あぁ……それは聞こえたけど……?」

「ベルク・ライラック・ランス様。アルムガルト・ライラック・ランス様の弟様です」

「あぁ……あー!! そっか、だからどっかで聞いたことある名前だったんだ」

 教えてもらえてよかったー! 二億時間悩んでも思い出せないところだったもの! まぁ一瞬たりとも考えてなかったけれど。
 そんなことを考えていると、呆れた顔をしたロザリーと目が合った。

「本当にアルムガルト様と仲がよろしくないんですのね」

「だから言ったじゃん」

「仰っていましたけれど、高位貴族のご子息様たちと昔から一緒にいるのでしょう?」

「まぁ、一緒にいるけど。でもほら、同じ屋敷内にいるからといって猫と鳥が仲良くなるわけないでしょ」

「え、えぇ、まぁ……いや猫と鳥って……」

 私の例え話にあまりピンと来ていないようだ。

「そういえば……アルムガルトはともかく、弟とは数える程度しか話したことない気がする」

「そうなのですか?」

「そうそう。確か女の子が苦手だとかで」

 女の子が苦手過ぎてキャーキャー言ってくる子たちを避け続けて隠密のプロになってたもんな、アルムガルトの弟。
 だから私はアイツの前世は忍者なんじゃないかと思っている。今のところ大輪の乙女の生まれ変わり説が出てるみたいだけど。でも噂の発生源は一応私だからなぁ。

「大輪の乙女の生まれ変わりなのに女の子が苦手なんですね」

「女の生まれ変わりだからこそ女が苦手、ってのもあるかもよ?」

 私がそう言いながらちらりと視線を送ったのは、私を睨みつけている女子生徒たちだ。
 王子殿下のファンたちだったか、アルムガルトを囲む群れだったか、とにかく私の存在が気に食わない系女子たちの塊がいる。

「確かに」

 そんな私の視線に気が付いたロザリーは一瞬ドン引きした顔をした後、苦笑いを浮かべながらこくこくと頷いた。

「それにしても、トリーナ様がこんなにも話しやすい人だなんて思いませんでした」

「そう?」

「私の想定では適当にあしらわれるんだろうなと思っておりましたし」

「まぁねぇ。基本的には適当にあしらうけどね」

 私の取り巻きになろうとしてくる人たちは、もちろん皆適当にあしらっている。
 ただ、ロザリーを適当にあしらわなかったのは、少女の人生映像の中にいなかったのだ。だから元々悪い印象があまりなかった。まぁ初対面で脅されかけてはいるものの。

「あの、トリーナ様。私たち、お友達になりません?」

「あはは。考えとく」

「そこはいいよって言ってくださるところでは?」

「ロザリーだって知ってるでしょ。私はね、嫌われ侯爵家の娘なの。私なんかと一緒にいたらあなたまで変な目で見られるよ」

 私はそう言って、ロザリーに背を向けた。
 そしてひらひらと手を振りながら己の教室へと足を踏み入れたのだった。

 その日の放課後。今日もあの要望とは名ばかりのファンレターの束を仕分ける作業をしなければならないんだろうなぁ、なんてうんざりした気持ちで生徒会室の扉を開ける。
 するとあからさまにビクついたアルムガルトとその弟と目が合った。

「なにしてんの」

 関わり合うつもりはないので適当に声をかけながら、今日も今日とて例の紙の束を手に取る。

「トリーナ、外に不審な輩はいなかったか!?」

「不審な輩? 誰もいなかったけど?」

 相槌は打つけれど、手元の紙から視線を外すことはない。

「よく見たのか!?」

 うるせぇ。

「いや、別にちゃんと見たわけではないけど」

 あの兄弟は何を騒いでるの? と王子殿下に視線を送ってみたところ、彼はなんとも難しい顔をした。

「昨日あたりからずっと誰かに見られているような気がしてるらしい」

「ストーカー女がいるってこと? モテる男たちは大変だな」

 ファンレターをぽいぽいゴミ箱に投げ入れながらそう言えば、アルムガルトのほうから呆れたようなため息が聞こえてきた。

「……あ、そういや大輪の乙女の生まれ変わりはあんただとかいう噂が出てたけど」

 アルムガルトの弟のほうをちらりと見たところ、彼はゆっくりとした動きで頭を抱える。
 自分じゃないからだろうなぁ。だってあれの犯人私だし。言わないけど。

「それは、僕が女っぽいってこと……?」

 蚊の鳴くような声がしたと思ったら、どうやらアルムガルトの弟が頭を抱えたまま喋っているらしい。

「女っぽいとかそういうことじゃなくて治癒魔法が使える人間だからでしょ。二人とも治癒魔法が使える有名人だし」

 仕分けに飽きた私は、手元のファンレターで紙飛行機を折り始めた。
 昨日はまだ長文のファンレターとか、ポエム的なファンレターとか、ちょっと凝ったものもあったけれど、今日はネタ切れしたのか簡素なものが多い。面白くない。

「治癒魔法なら君も使えるじゃないか」

「私は治癒魔法が使えるとはいえ無名だからね。学園内で他人と目を合わせることもあんまりないから私の瞳の色に気付いてる人も少ない」

 そんなことを呟きながら、私はアルムガルトの弟に向けて、今折った紙飛行機を投げる。
 上手いこと飛んだ紙飛行機はひゅるりと弧を描き、アルムガルトの弟のつむじあたりにぶち当たって、そのまま机の上に落ちる。

「なんだこれ」

「あんた宛てのやつ」

 ファンレターでも見てテンション上げなよ。嬉しいのかどうかは知らないけど。

「トリーナ、その作業は一旦休憩してピアノを弾いてくれないか?」

 疲労を隠しきれない王子殿下がそう言った。
 仕分けを休憩しろと言われたのか紙飛行機を作る作業を休憩しろと言われたのかは分からないけれど、王子殿下のご所望とあらばピアノを弾くしかないだろう。

「別にいいけど。聞きたい曲とかは?」

「穏やかな曲がいい。似たような文章ばかりで頭がおかしくなってきたんだ……」

 可哀想な王子殿下。
 しかしまぁ馬鹿の一つ覚えみたいに「お慕いしております」って書いてあるやつばっかりだもんな。

「俺も気が狂いそうだ」

 ぽつりと呟いたのはアルムガルトだ。
 ここで作業してる皆が思っていることかもしれない。
 私はどちらかというとイライラしてきている。

「しかしまぁ、この作業も今日までだと思うよ」

 王子殿下の言葉に、私は首を傾げる。

「トリーナが来る前にフェルステルとフェルスターが同じタイミングで発狂して箱壊してくるって言ってどっか行ったから」

 フェルステルとフェルスターっていうと、コピペたちか。っていうかコピペたちも仕分け作業やってたのか。あいつらは人一倍短気みたいだし、本当に箱を壊しているかもしれない。助かる。

「発狂って」

 ピアノの前に座って指のストレッチをしながら零す。

「発狂したあと俺たち宛てのが少ない! とも言ってたのを俺は聞き逃さなかった」

 なんて王子殿下が言うものだから、私は堪えきれずに笑ってしまった。
 確かに、言われてみればコピペたち宛てのファンレターは少なかった気がする。
 多かったのは王子殿下、ノア、アルムガルトとその弟あたりだったかな。
 そもそもコミュニケーション能力の高いコピペたちや女と見ればとりあえず口説くような銀髪はファンレターを出さずとも直接言えるからなんだろうけど、おそらくコピペたちは気付いていない。なぜならアホだから。
 笑いを抑え込んだ私は、ポーンと一つ音を出す。

「そういやあいつら宛てのファンレターより私宛ての脅迫文のほうが多かったな……」

 と、一言呟いてからピアノを弾き始めた。
 癒しのクラシックメドレーを。王子殿下も癒されたいらしいが、私だって癒されたい。

「ゴミの束、どのくらい減った?」

 三曲ほど弾いたところで、さすがに作業に戻ろうと王子殿下に声をかける。

「ピアノ聞いてたから進んでない」

 王子殿下のやる気が完全に死んでた。

「とりあえず今日はもうやめようか」

 そんな急ぎの要望なんてないでしょ。こんだけチェックしたってほとんどファンレターなんだもの。

「そうだな」

 王子殿下がそう言いながら首を捻ると、ゴキゴキと恐ろしい音がした。
 こんな歳から肩こりに悩まされることになるのか、王子殿下は。可哀想に。

「特にそこの二人はビビってたみたいだし、暗くなる前に帰りなよ」

 アルムガルトたちに声をかければ、二人とも「ビビってはいないけど」と強がりながらいそいそと帰っていく。
 視線を感じるっつって私がこの生徒会室に入ってきた時もクソほどビビってたんだから今更強がる必要なくない? と追い打ちをかけてやろうかと思ったけど、私は一度開いた口をそっと閉じた。
 大輪の乙女の生まれ変わりの噂を、アルムガルトの弟に押し付けた罪悪感がちょっとだけあったから。ちょっとだけね。
 さて、私もくだらないことを考えていないで帰る準備をしよう。と、そんなことを考えていた時だった。
 がちゃりと音を立てて、生徒会室の扉が開く。
 ついさっきアルムガルトたちが出て行ったばかりだし、何か忘れ物でもあったのだろうかと視線を扉のほうへと向ける。
 しかし、そこにいたのはアルムガルトたちではない。

「あれ、先生、お久しぶりです」

 そう、そこにいたのはライネリオ先生だ。
 トート・ウィステリア・アンガーミュラーのことを調べると言ってしばらく消えていた、生徒会の顧問。

「何か、やらかした?」

 先生の第一声がそれだった。
 私は別に何もやらかしてないけど?

「いや、別に」

「変な噂聞いたんだけど」

 噂っていうと、やっぱり大輪の乙女のあれかな?

「いや、あれは別に」

「大輪の乙女の噂の出どころ、君じゃない?」

 ……さすが先生。察しがいい。




 
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