1 / 31
クソ前世からのクソ転生
しおりを挟む
家には居場所がなかった。
学校にも居場所なんかない。
私がいてもいい場所は、世界のどこにもなかった。
私が中学生くらいの時、母が亡くなった。父はそれからすぐに新しい母とやらを連れてきて、家に他人が一人増える。
そんな折、家を出て行ったはずの姉が知らない男と作った子どもを連れて帰って来た。また一人他人が増える。
そして姉が別の男と作った子どもを増やしたところで父が亡くなった。
それから、なぜかこの家に居座ったままの新しい母がさらに新しい父とやらを連れてきた。当たり前のように増える他人。
さらには姉がまた別の男を作ってこの家に連れてきた。一人目の子どもの父親でもなく、二人目の子どもの父親でもない。ここでもまた他人が増えた。しかもヒモ。毎夜お盛んなようなので、新たな子どもが増えるのも時間の問題だろう。
こんな複雑な家に居場所がないのなんて当たり前だと思う。
こんな複雑な家だからか周囲からは変な噂を流されて、学校では変な人扱い。友達もいなかった。
そんな私が通い詰めたのは、ネットカフェとカラオケ。
ネットカフェもカラオケも、金さえ払えば個室が用意される、私にとって最高の場所だった。
家に帰りたくない一心でバイトを始め、そのままネットカフェ難民になった私が始めたのが、カラオケ動画の投稿。
別に人気があったわけではないけれど、見てくれた人はいた。聞いてくれた人もちゃんといた。上手だね、声が綺麗だね、そうやって褒めてくれた人もいた。それが心の底から嬉しかった。
褒められるのがこんなにも嬉しいことなんだと知って、涙が溢れたのを今でも覚えている。
母が亡くなって以降は褒められるどころか人とちゃんと会話をすることすらなくなっていたからほんの少し声をかけられるだけで泣くほど嬉しかったのだ。
それから歌うことが好きになって、もっと人に聞いてもらいたくて、いろんな歌を聞いて覚えて練習した。
皆が知ってる有名な曲も、バイト先で聞いただけのマイナーな曲も、ちょっとでも好きだと思った歌は片っ端から練習して、今も歌詞を見なくたって歌えるほど。
何を歌っても褒めてくれる人がいたから、それが本当に本当に楽しかったのだ。
それからネットカフェ難民を脱却し、家を借りてネット環境を整えて少しずつではあるけれど機材も揃えて歌い手として活動をし始めて、もっともっと楽しくなる! そう思っていたはずだったのに、その日々が長く続くことはなかった。
なぜなら、死んでしまったから。死の直前、胸がとても痛かったのを覚えている。そのまま意識を失って、道端に倒れたところも覚えている。ただその先を覚えていないから、死因は分からない。私の遺体がどうなったのかも知らない。
母も父も若くして亡くなっているし、家系的に短命なんだろうなぁ。……なんて、死んだはずの私がどうして過去を懐かしんでいるのか。
それはついさっき思い出したから。いわゆる前世の記憶を。そして芋づる式に思い出したのが、この世界を舞台にした漫画があったこと。
ヒロインは前世の記憶持ちの少女。彼女の前世はこの世界の聖女だった。それはもう歴史の教科書に名が載るくらい力の強い聖女だった。しかしその強すぎる力のせいで陰謀に巻き込まれて無残な最期を迎えてしまう。そしてその記憶を持ったまま転生する。
元聖女だったためかありあまる力を持ったまま転生してしまっていて、それがバレたらまた陰謀に巻き込まれる! と思い、力を隠して生きることを決めた。
今度の人生は波風立てることなく平穏に暮らしていこう、そう決意したヒロインだったが、前世で両想いだったが結ばれなかった相手と再会してしまう。
男のほうは前世を覚えていないのだけど、なぜだかヒロインに惹かれてしまい……みたいな、じれじれ両片想い系少女漫画だった。ネットカフェで読んだ。
そんな漫画の世界で、私の立ち位置はと言うと、その男の婚約者である。
じれじれ両片想い系少女漫画なので、ヒロインとその男は思い合って結局はくっつく。要するに、私は邪魔者なのだ。
いわゆる悪役令嬢ポジションだな。そういうのもネットカフェで読んでた。懐かしい。
そんなわけで近い将来、私は婚約者に捨てられるわけだけれど、それほどショックでもなかった。ただ、生まれ変わってもなお他者からの愛情には恵まれない人生なんだなと思うだけだった。
そんなことより悲しいのは褒めてもらえるあの場所がないことだろう。この世界、ネットなんかないし。
うっかり貴族のご令嬢なんかに転生してしまったせいで、家から出ることだってままならない。
前世ではクソみたいな家に生まれたクソみたいな人生だと思ってたけど、適当にバイトをして家出が出来るなんて実は最高だったんじゃないかと思い始めている。
戻りたいかと言われたら別に戻りたかないけど。二度とごめんだあんなクソ人生。
「ルーシャ、来月俺の家が主催する夜会だが、一応共に出席しろ」
とある日の昼下がり、突如として我がマキオン家の別邸にやってきた婚約者である例の男。
ふわふわした紺碧の髪にきりりとクールな水色の瞳、背が高くすらりとしていて容姿だけ見れば実にいい男である。名はフランシス・ヴィージンガー。ヴィージンガー伯爵家の嫡男。
そいつは挨拶もなしに、私に命令を下す。
「その日は具合が悪くなる予定ですのでご遠慮したいのですが」
「えぇ……」
具合が悪くなる予定ってどういうことだよ、とドン引きしている。
「一応婚約者なんだ、形だけでもいいから出席しろ」
「……はい」
半ギレのままそう言い捨てて、ヴィージンガーは去っていった。
我々の婚約はもちろん親が決めたものなので、愛などどこにもない。
私からの情もない。どうせ捨てられるんだから、情が移ったら面倒でしょ。
学校にも居場所なんかない。
私がいてもいい場所は、世界のどこにもなかった。
私が中学生くらいの時、母が亡くなった。父はそれからすぐに新しい母とやらを連れてきて、家に他人が一人増える。
そんな折、家を出て行ったはずの姉が知らない男と作った子どもを連れて帰って来た。また一人他人が増える。
そして姉が別の男と作った子どもを増やしたところで父が亡くなった。
それから、なぜかこの家に居座ったままの新しい母がさらに新しい父とやらを連れてきた。当たり前のように増える他人。
さらには姉がまた別の男を作ってこの家に連れてきた。一人目の子どもの父親でもなく、二人目の子どもの父親でもない。ここでもまた他人が増えた。しかもヒモ。毎夜お盛んなようなので、新たな子どもが増えるのも時間の問題だろう。
こんな複雑な家に居場所がないのなんて当たり前だと思う。
こんな複雑な家だからか周囲からは変な噂を流されて、学校では変な人扱い。友達もいなかった。
そんな私が通い詰めたのは、ネットカフェとカラオケ。
ネットカフェもカラオケも、金さえ払えば個室が用意される、私にとって最高の場所だった。
家に帰りたくない一心でバイトを始め、そのままネットカフェ難民になった私が始めたのが、カラオケ動画の投稿。
別に人気があったわけではないけれど、見てくれた人はいた。聞いてくれた人もちゃんといた。上手だね、声が綺麗だね、そうやって褒めてくれた人もいた。それが心の底から嬉しかった。
褒められるのがこんなにも嬉しいことなんだと知って、涙が溢れたのを今でも覚えている。
母が亡くなって以降は褒められるどころか人とちゃんと会話をすることすらなくなっていたからほんの少し声をかけられるだけで泣くほど嬉しかったのだ。
それから歌うことが好きになって、もっと人に聞いてもらいたくて、いろんな歌を聞いて覚えて練習した。
皆が知ってる有名な曲も、バイト先で聞いただけのマイナーな曲も、ちょっとでも好きだと思った歌は片っ端から練習して、今も歌詞を見なくたって歌えるほど。
何を歌っても褒めてくれる人がいたから、それが本当に本当に楽しかったのだ。
それからネットカフェ難民を脱却し、家を借りてネット環境を整えて少しずつではあるけれど機材も揃えて歌い手として活動をし始めて、もっともっと楽しくなる! そう思っていたはずだったのに、その日々が長く続くことはなかった。
なぜなら、死んでしまったから。死の直前、胸がとても痛かったのを覚えている。そのまま意識を失って、道端に倒れたところも覚えている。ただその先を覚えていないから、死因は分からない。私の遺体がどうなったのかも知らない。
母も父も若くして亡くなっているし、家系的に短命なんだろうなぁ。……なんて、死んだはずの私がどうして過去を懐かしんでいるのか。
それはついさっき思い出したから。いわゆる前世の記憶を。そして芋づる式に思い出したのが、この世界を舞台にした漫画があったこと。
ヒロインは前世の記憶持ちの少女。彼女の前世はこの世界の聖女だった。それはもう歴史の教科書に名が載るくらい力の強い聖女だった。しかしその強すぎる力のせいで陰謀に巻き込まれて無残な最期を迎えてしまう。そしてその記憶を持ったまま転生する。
元聖女だったためかありあまる力を持ったまま転生してしまっていて、それがバレたらまた陰謀に巻き込まれる! と思い、力を隠して生きることを決めた。
今度の人生は波風立てることなく平穏に暮らしていこう、そう決意したヒロインだったが、前世で両想いだったが結ばれなかった相手と再会してしまう。
男のほうは前世を覚えていないのだけど、なぜだかヒロインに惹かれてしまい……みたいな、じれじれ両片想い系少女漫画だった。ネットカフェで読んだ。
そんな漫画の世界で、私の立ち位置はと言うと、その男の婚約者である。
じれじれ両片想い系少女漫画なので、ヒロインとその男は思い合って結局はくっつく。要するに、私は邪魔者なのだ。
いわゆる悪役令嬢ポジションだな。そういうのもネットカフェで読んでた。懐かしい。
そんなわけで近い将来、私は婚約者に捨てられるわけだけれど、それほどショックでもなかった。ただ、生まれ変わってもなお他者からの愛情には恵まれない人生なんだなと思うだけだった。
そんなことより悲しいのは褒めてもらえるあの場所がないことだろう。この世界、ネットなんかないし。
うっかり貴族のご令嬢なんかに転生してしまったせいで、家から出ることだってままならない。
前世ではクソみたいな家に生まれたクソみたいな人生だと思ってたけど、適当にバイトをして家出が出来るなんて実は最高だったんじゃないかと思い始めている。
戻りたいかと言われたら別に戻りたかないけど。二度とごめんだあんなクソ人生。
「ルーシャ、来月俺の家が主催する夜会だが、一応共に出席しろ」
とある日の昼下がり、突如として我がマキオン家の別邸にやってきた婚約者である例の男。
ふわふわした紺碧の髪にきりりとクールな水色の瞳、背が高くすらりとしていて容姿だけ見れば実にいい男である。名はフランシス・ヴィージンガー。ヴィージンガー伯爵家の嫡男。
そいつは挨拶もなしに、私に命令を下す。
「その日は具合が悪くなる予定ですのでご遠慮したいのですが」
「えぇ……」
具合が悪くなる予定ってどういうことだよ、とドン引きしている。
「一応婚約者なんだ、形だけでもいいから出席しろ」
「……はい」
半ギレのままそう言い捨てて、ヴィージンガーは去っていった。
我々の婚約はもちろん親が決めたものなので、愛などどこにもない。
私からの情もない。どうせ捨てられるんだから、情が移ったら面倒でしょ。
16
あなたにおすすめの小説
目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。
しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。
破滅を回避するために決めたことはただ一つ――
嫌われないように生きること。
原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、
なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、
気づけば全員から溺愛される状況に……?
世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、
無自覚のまま運命と恋を変えていく、
溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる