元歌い手悪役令嬢、うっかりラスボスに懐かれる

蔵崎とら

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クソ前世からのクソ転生

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 家には居場所がなかった。
 学校にも居場所なんかない。
 私がいてもいい場所は、世界のどこにもなかった。

 私が中学生くらいの時、母が亡くなった。父はそれからすぐに新しい母とやらを連れてきて、家に他人が一人増える。
 そんな折、家を出て行ったはずの姉が知らない男と作った子どもを連れて帰って来た。また一人他人が増える。
 そして姉が別の男と作った子どもを増やしたところで父が亡くなった。
 それから、なぜかこの家に居座ったままの新しい母がさらに新しい父とやらを連れてきた。当たり前のように増える他人。
 さらには姉がまた別の男を作ってこの家に連れてきた。一人目の子どもの父親でもなく、二人目の子どもの父親でもない。ここでもまた他人が増えた。しかもヒモ。毎夜お盛んなようなので、新たな子どもが増えるのも時間の問題だろう。
 こんな複雑な家に居場所がないのなんて当たり前だと思う。
 こんな複雑な家だからか周囲からは変な噂を流されて、学校では変な人扱い。友達もいなかった。

 そんな私が通い詰めたのは、ネットカフェとカラオケ。
 ネットカフェもカラオケも、金さえ払えば個室が用意される、私にとって最高の場所だった。
 家に帰りたくない一心でバイトを始め、そのままネットカフェ難民になった私が始めたのが、カラオケ動画の投稿。
 別に人気があったわけではないけれど、見てくれた人はいた。聞いてくれた人もちゃんといた。上手だね、声が綺麗だね、そうやって褒めてくれた人もいた。それが心の底から嬉しかった。
 褒められるのがこんなにも嬉しいことなんだと知って、涙が溢れたのを今でも覚えている。
 母が亡くなって以降は褒められるどころか人とちゃんと会話をすることすらなくなっていたからほんの少し声をかけられるだけで泣くほど嬉しかったのだ。
 それから歌うことが好きになって、もっと人に聞いてもらいたくて、いろんな歌を聞いて覚えて練習した。
 皆が知ってる有名な曲も、バイト先で聞いただけのマイナーな曲も、ちょっとでも好きだと思った歌は片っ端から練習して、今も歌詞を見なくたって歌えるほど。
 何を歌っても褒めてくれる人がいたから、それが本当に本当に楽しかったのだ。
 それからネットカフェ難民を脱却し、家を借りてネット環境を整えて少しずつではあるけれど機材も揃えて歌い手として活動をし始めて、もっともっと楽しくなる! そう思っていたはずだったのに、その日々が長く続くことはなかった。
 なぜなら、死んでしまったから。死の直前、胸がとても痛かったのを覚えている。そのまま意識を失って、道端に倒れたところも覚えている。ただその先を覚えていないから、死因は分からない。私の遺体がどうなったのかも知らない。
 母も父も若くして亡くなっているし、家系的に短命なんだろうなぁ。……なんて、死んだはずの私がどうして過去を懐かしんでいるのか。
 それはついさっき思い出したから。いわゆる前世の記憶を。そして芋づる式に思い出したのが、この世界を舞台にした漫画があったこと。
 ヒロインは前世の記憶持ちの少女。彼女の前世はこの世界の聖女だった。それはもう歴史の教科書に名が載るくらい力の強い聖女だった。しかしその強すぎる力のせいで陰謀に巻き込まれて無残な最期を迎えてしまう。そしてその記憶を持ったまま転生する。
 元聖女だったためかありあまる力を持ったまま転生してしまっていて、それがバレたらまた陰謀に巻き込まれる! と思い、力を隠して生きることを決めた。
 今度の人生は波風立てることなく平穏に暮らしていこう、そう決意したヒロインだったが、前世で両想いだったが結ばれなかった相手と再会してしまう。
 男のほうは前世を覚えていないのだけど、なぜだかヒロインに惹かれてしまい……みたいな、じれじれ両片想い系少女漫画だった。ネットカフェで読んだ。
 そんな漫画の世界で、私の立ち位置はと言うと、その男の婚約者である。
 じれじれ両片想い系少女漫画なので、ヒロインとその男は思い合って結局はくっつく。要するに、私は邪魔者なのだ。
 いわゆる悪役令嬢ポジションだな。そういうのもネットカフェで読んでた。懐かしい。
 そんなわけで近い将来、私は婚約者に捨てられるわけだけれど、それほどショックでもなかった。ただ、生まれ変わってもなお他者からの愛情には恵まれない人生なんだなと思うだけだった。
 そんなことより悲しいのは褒めてもらえるあの場所がないことだろう。この世界、ネットなんかないし。
 うっかり貴族のご令嬢なんかに転生してしまったせいで、家から出ることだってままならない。
 前世ではクソみたいな家に生まれたクソみたいな人生だと思ってたけど、適当にバイトをして家出が出来るなんて実は最高だったんじゃないかと思い始めている。
 戻りたいかと言われたら別に戻りたかないけど。二度とごめんだあんなクソ人生。

「ルーシャ、来月俺の家が主催する夜会だが、一応共に出席しろ」

 とある日の昼下がり、突如として我がマキオン家の別邸にやってきた婚約者である例の男。
 ふわふわした紺碧の髪にきりりとクールな水色の瞳、背が高くすらりとしていて容姿だけ見れば実にいい男である。名はフランシス・ヴィージンガー。ヴィージンガー伯爵家の嫡男。
 そいつは挨拶もなしに、私に命令を下す。

「その日は具合が悪くなる予定ですのでご遠慮したいのですが」
「えぇ……」

 具合が悪くなる予定ってどういうことだよ、とドン引きしている。

「一応婚約者なんだ、形だけでもいいから出席しろ」
「……はい」

 半ギレのままそう言い捨てて、ヴィージンガーは去っていった。
 我々の婚約はもちろん親が決めたものなので、愛などどこにもない。
 私からの情もない。どうせ捨てられるんだから、情が移ったら面倒でしょ。




 
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