元歌い手悪役令嬢、うっかりラスボスに懐かれる

蔵崎とら

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即バレ

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 ヴィージンガーの髪色は紺碧。私の髪は真紅。
 この時点で原作者は我々をくっつける気なんか全然全く1ミリたりともなかったのだ。だって並んでも合わないんだもん。目がちかちかするわ。
 まぁでも一応は私だって主要キャラクターなので、美人ではある。一応。
 燃えるような真紅の髪に、金色の瞳。身長はそれほど高くなく細身で、わりと巨乳。
 前世の私は全体的に貧相だったので、実はちょっと嬉しいこの胸の肉。胸に肉は付いてるのに腹には付いてないのがありがたい。
 自由の身だったらなぁ、このスタイルに合う服とかあれこれ着てみたいなぁ。

 ……と、現実逃避をしながら、私は今ヴィージンガーの隣に並んでいる。
 先月言われていた夜会に連行されたからである。おかしいなぁ、具合が悪くなる予定だったのに。
 私がこの夜会に出たくなかった理由は、あの漫画の中でヒロインとフランシス・ヴィージンガーが出会うのがこの夜会だったから。
 漫画ではキラッキラな感じで描かれていたが、現実として見てみればただの浮気の始まりである。
 そんな瞬間をなぜ浮気される側である私が見なければいけないのか。というかどんな気持ちで見ろというのか。
 ただの読者であればわー運命だーという気持ちなのだろうが、浮気されて略奪される身である私には感動の気持ちなど一つもない。それどころかわー迷惑だーという気持ちだし自分の将来の心配をすることくらいしか出来ない。
 あぁ本当に、将来どうしよう。
 私は現在、どちらかというと貧乏寄りの男爵家の娘だ。両親は伯爵家の嫡男である男との結婚をとても喜んでいた。
 それが、男に浮気された結果その婚約が破談となったとなれば、私は心底失望されるのだろう。おそらく浮気される私が悪いということになる。
 それは前世を思い出した時から気付いていたから、ある程度の心の準備は出来ているけど、この世界にバイトのような金を稼ぐ手段はあるのだろうか? 一応は貴族令嬢である私が家を出てとりあえず生活していけるだけの金を稼ぐ手段は。
 ネットカフェはないし家も借りなければならないのだが、この世界はどうやって家を借りるのだろう?
 色々考えることが多くて大変だ。それもこれもこの男が浮気するのが悪い。

「それでは失礼します」

 今日の任務はヴィージンガーのエスコートで会場に入り、ファーストダンスを踊る。ただそれだけ。
 それが済んだので、私はさっさと退散する。
 ヴィージンガーが何か文句を言いたげな顔でこちらを見ていたけれど、完全に無視をした。
 お前はヒロインとの邂逅を楽しめよな。どうせキラッキラするんだろ。キラッキラ。あー想像だけで目がちかちかする。
 会場内に用意された食べものも飲みものもデザートだってスルーして、私は解放されているバルコニーへと逃げた。
 バルコニーが解放されているのは飲み過ぎた人なんかが夜風に当たるため。だから夜会が始まって間もない今、ここには誰もいない。

「すーーーーー……、はあぁぁぁぁ……」

 誰もいないことをいいことに、欄干に身体を預けながら、大きく大きく深呼吸。
 夜会の会場、というか人がたくさん集まる場所が苦手過ぎてろくに息が出来ていなかったのだ。
 ほんのりと冷たい風に吹かれながら、ふと夜空を見上げると、無数の星々と大きな月が出ていた。
 この世界には王侯貴族がいて、魔法があって、剣を扱う騎士もいる。
 それでも日中の空には太陽が昇り、夜の空には月が輝く。そして1年は365日だし1日は24時間だし、1週間は7日。……ほぼ地球。
 あと四季はあって雨季や乾季はない。……ほぼ日本。

「はぁ」

 くるりと会場に背を向け、今度は欄干に肘を預け頬杖をつきながらもう一度ため息を零す。
 今頃ヒロインとヴィージンガーは邂逅を済ませたところだろうか?
 邪魔者である私がそこにいないのだから、突然の急接近とかしちゃってるのかもしれないな。

「あー……ああー」

 前世も今も、私は恋なんかしたことないから分からないけど、私と言う邪魔者がいなかったら、あの二人の恋路はどうなるのだろう?
 じれじれすることなくストレートにくっついたりするのだろうか?

「らー、ららら~」

 あれこれ考え込みながら、私はいつの間にか鼻歌を歌っていた。
 まぁ今ここに人なんかいないし、かつて歌っていた歌を、今ここで歌ったところで誰の耳にも入らないだろう。

『誰もいない海で この強い風に吹かれて 好きだった花は枯れてもまた』
「え、あの、その、歌……」

 嘘じゃん、早速他人の耳に入ったんだが。
 ついさっきまで誰もいないと思っていたバルコニーに、いつの間にか人がいた。
 まさか聞かれるとは。しかも声までかけられるとは。
 ただ薄暗いから、相手の顔はよく見えない。相手からもこちらの顔が見えていなければいいのだけれど。

「その歌、パシオの曲じゃない?」
「……え?」

 合ってる。いや、合ってるよ。合ってるんだけど、なぜそれを?
 この歌を歌っていた人たちのグループ名は確かにパシオだった。ただ、その人たちはこの世界にいない。だって日本の歌なんだから。

「お、おれ、その曲……ぐすっ」
「……えぇ?」

 やっぱり薄暗いから顔は良く見えないのだが、鼻をすするような音がする。
 まさか、泣いてる?

「その曲、最初から最後まで歌えますか?」
「えっと、その、はい」

 すごく練習した歌なので、もちろん最初から最後まで歌える。
 泣かれているのが若干気になるが、とりあえず歌って欲しいというのなら歌おう。暇だし。


 ♪ ♪ ♪


 そんなこんなで一曲歌い終えたわけだが、ぐすぐすという鼻をすする音がさっきより強めになっていた。

「おれ、むかし、その歌が好きだった」

 昔、というのはもしや前世かな?

「おれ、『日本人』だったんだ」

 あ、前世みたいだな。




 
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