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ゴリゴリのお揃い
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俺が幸せにするから、はもうプロポーズでは?
「ねぇルーシャ、これ歌える?」
じゃじゃーん、とギターを鳴らすクリストハルト様。そしてそのイントロを聞いたら自然と歌い出してしまう私。
結局あの言葉がプロポーズだったのかどうかは聞けないまま、時間だけが過ぎていく。
二人で楽しく歌を歌いながらマキオンパールの収穫をしてみたり、染色作業をしてみたり、色ごとに仕分け作業をしてみたり、サイズごとに仕分け作業をしてみたり。
そして件の夜会の日が近づくにつれて、二人の衣装の準備も進められていく。我が家の使用人たちの手によって。
クロウリー家的にはそれでいいのだろうか? と思うのだが、クリストハルト様がノリノリなので……まぁいいのだろう。怒られるのは私じゃなくクリストハルト様だろうし。
「男用の衣装にもマキオンパール縫い付けたらカッコイイと思うんだよね」
今もこうしてノリノリで我が家のお針子さんたちに声を掛けているから。
「完全にお揃いにしてしまいますか?」
「もうゴリゴリのお揃いで!」
ノリノリが過ぎるな。
「大丈夫なんですか?」
そんな私の問いにも、クリストハルト様は大きく頷いて見せる。
「絶対大丈夫だよ」
なんて、優しく微笑みながら。
それから数日後、どこからどう見てもお揃いの衣装が出来上がった。
そしてその衣装を当然のように着せられる。
本当に親族でも婚約者でもない相手とは思えないほどゴリゴリのお揃い衣装なんだけどこれは本当に大丈夫か?
「いやこれ本当に大丈夫ですかね」
「大丈夫だって。これで男物にもマキオンパールを取り入れたらカッコイイって評判になるって」
そういう意味での「大丈夫か?」ではなく、クリストハルト様と私の関係が変な噂になるんじゃないかって意味の「大丈夫か?」なんだけど……確かに男物にマキオンパールを取り入れてもカッコイイ。
ドレス程ギラギラと沢山縫い付けるわけではなく、襟元や袖、腰のあたりにも飾りとしてきらりと輝かせて。
ただ……衣装がカッコイイのか、着ているのがクリストハルト様だからカッコイイのかは分からない。
なんてったってモデルがいい。
このカッコイイ人と並んで歩いて大丈夫か私。
……何もかもが大丈夫じゃない気がしてきた。
「さて、お手をどうぞ、ルーシャ嬢」
「あ、え、はい」
あー照れる!!
ほんのり頬が染まってしまいつつ馬車に乗り込んで、照れが落ち着いてきたのは馬車に揺られてしばらく経った頃。二人で他愛のない話をし始めた頃だった。
「ところで今日の夜会なんだけどさ」
「はい」
「なんとなく嫌な予感がするわけなんだけど」
「そうですね。なんとなく嫌な予感はしてます」
フランシス・ヴィージンガーの親戚(多分)からの招待だもんな。
「誰かがルーシャに危害を加えようとしたらどうしようかと思ってる」
「そんなことしてきますかね?」
「嫌がらせとかしてきたらどうする?」
「えーっと……受けて立つ?」
「戦う気満々」
「相手がフランシス・ヴィージンガーなら戦おうと思ってます。そして勝てると思ってます」
問題は相手がフランシス・ヴィージンガーじゃなかった時だ。
私はフランシス・ヴィージンガーにこれといって興味がなかったものだから、フランシス・ヴィージンガーの親戚になどもっと興味がなかった。
ヴィージンガー家の人間……なんだったらフランシス・ヴィージンガーの両親の顔も今となってはいまいち覚えていない。
だから結局この招待状を送って来た人も全く分からないし、フランシス・ヴィージンガーの親戚(仮)くらいの認識だ。顔なんかもちろん知らん。
そんな相手に嫌がらせをされて、果たして気が付くだろうか?
「婚約解消した相手に対する嫌がらせって……なんだろうなぁ」
「なんでしょうねぇ。考えたこともないから分かんないですね」
「確かに。関係が終わった相手ってわけだよね? しかも自分には新恋人的な奴がいるわけだし。一応」
「そっちとうまく行ってないから、お前も不幸になれ的な?」
「発想が陰湿過ぎる」
あれこれ考えながら、二人して「ははは」と笑い合う。
とても穏やかな時間だった。もうこの穏やかな空気のままUターンして帰りたい。
しかしそうもいかないわけで、馬車は件の夜会会場へと辿り着いてしまった。
いっそ馬車の中に居座ってやろうかとも思うけれど、折角クリストハルト様にエスコートしていただくのだから、それはそれで楽しみたい。なんというジレンマ。
なんてことを考えながら会場へと一歩足を踏み入れると、私たちの前に一人の女性が立ちはだかった。
「あなたがルーシャ・マキオンね」
どぎついメイクであまり分からないけれど、半ギレのトーンがフランシス・ヴィージンガーに似ている気がする。
「来てくださってありがとう」
「こちらこそお招きいただきありがとうございます」
半ギレのトーンのままの「ありがとう」に対して、戸惑いながらも挨拶の言葉を口にする。
「フランシスを手放してしまうなんて、あなたも見る目がないわね」
そうでもないです。そもそも手放したんじゃなくて捨てられたみたいなもんです。……と、素直に返してはいけないんだろうな。面倒だな。
「今日はフランシスの良さを見せつけてあげる! そしてあなたには心底後悔してもらうわ!」
……と、会場の入り口付近で高らかに宣言されてしまいましたが、どんなにアレの良さを見せられたところで後悔はしないと思う。いやだって私は浮気されて捨てられたんだってば。普通に考えて後悔しないどころか恨みが湧くやつだってば。
どうしたもんか、という気持ちを込めて、隣にいてくれているクリストハルト様の顔を見上げる。
するとそこには、案の定困惑した様子のクリストハルト様の綺麗な顔面があったのだった。
「ねぇルーシャ、これ歌える?」
じゃじゃーん、とギターを鳴らすクリストハルト様。そしてそのイントロを聞いたら自然と歌い出してしまう私。
結局あの言葉がプロポーズだったのかどうかは聞けないまま、時間だけが過ぎていく。
二人で楽しく歌を歌いながらマキオンパールの収穫をしてみたり、染色作業をしてみたり、色ごとに仕分け作業をしてみたり、サイズごとに仕分け作業をしてみたり。
そして件の夜会の日が近づくにつれて、二人の衣装の準備も進められていく。我が家の使用人たちの手によって。
クロウリー家的にはそれでいいのだろうか? と思うのだが、クリストハルト様がノリノリなので……まぁいいのだろう。怒られるのは私じゃなくクリストハルト様だろうし。
「男用の衣装にもマキオンパール縫い付けたらカッコイイと思うんだよね」
今もこうしてノリノリで我が家のお針子さんたちに声を掛けているから。
「完全にお揃いにしてしまいますか?」
「もうゴリゴリのお揃いで!」
ノリノリが過ぎるな。
「大丈夫なんですか?」
そんな私の問いにも、クリストハルト様は大きく頷いて見せる。
「絶対大丈夫だよ」
なんて、優しく微笑みながら。
それから数日後、どこからどう見てもお揃いの衣装が出来上がった。
そしてその衣装を当然のように着せられる。
本当に親族でも婚約者でもない相手とは思えないほどゴリゴリのお揃い衣装なんだけどこれは本当に大丈夫か?
「いやこれ本当に大丈夫ですかね」
「大丈夫だって。これで男物にもマキオンパールを取り入れたらカッコイイって評判になるって」
そういう意味での「大丈夫か?」ではなく、クリストハルト様と私の関係が変な噂になるんじゃないかって意味の「大丈夫か?」なんだけど……確かに男物にマキオンパールを取り入れてもカッコイイ。
ドレス程ギラギラと沢山縫い付けるわけではなく、襟元や袖、腰のあたりにも飾りとしてきらりと輝かせて。
ただ……衣装がカッコイイのか、着ているのがクリストハルト様だからカッコイイのかは分からない。
なんてったってモデルがいい。
このカッコイイ人と並んで歩いて大丈夫か私。
……何もかもが大丈夫じゃない気がしてきた。
「さて、お手をどうぞ、ルーシャ嬢」
「あ、え、はい」
あー照れる!!
ほんのり頬が染まってしまいつつ馬車に乗り込んで、照れが落ち着いてきたのは馬車に揺られてしばらく経った頃。二人で他愛のない話をし始めた頃だった。
「ところで今日の夜会なんだけどさ」
「はい」
「なんとなく嫌な予感がするわけなんだけど」
「そうですね。なんとなく嫌な予感はしてます」
フランシス・ヴィージンガーの親戚(多分)からの招待だもんな。
「誰かがルーシャに危害を加えようとしたらどうしようかと思ってる」
「そんなことしてきますかね?」
「嫌がらせとかしてきたらどうする?」
「えーっと……受けて立つ?」
「戦う気満々」
「相手がフランシス・ヴィージンガーなら戦おうと思ってます。そして勝てると思ってます」
問題は相手がフランシス・ヴィージンガーじゃなかった時だ。
私はフランシス・ヴィージンガーにこれといって興味がなかったものだから、フランシス・ヴィージンガーの親戚になどもっと興味がなかった。
ヴィージンガー家の人間……なんだったらフランシス・ヴィージンガーの両親の顔も今となってはいまいち覚えていない。
だから結局この招待状を送って来た人も全く分からないし、フランシス・ヴィージンガーの親戚(仮)くらいの認識だ。顔なんかもちろん知らん。
そんな相手に嫌がらせをされて、果たして気が付くだろうか?
「婚約解消した相手に対する嫌がらせって……なんだろうなぁ」
「なんでしょうねぇ。考えたこともないから分かんないですね」
「確かに。関係が終わった相手ってわけだよね? しかも自分には新恋人的な奴がいるわけだし。一応」
「そっちとうまく行ってないから、お前も不幸になれ的な?」
「発想が陰湿過ぎる」
あれこれ考えながら、二人して「ははは」と笑い合う。
とても穏やかな時間だった。もうこの穏やかな空気のままUターンして帰りたい。
しかしそうもいかないわけで、馬車は件の夜会会場へと辿り着いてしまった。
いっそ馬車の中に居座ってやろうかとも思うけれど、折角クリストハルト様にエスコートしていただくのだから、それはそれで楽しみたい。なんというジレンマ。
なんてことを考えながら会場へと一歩足を踏み入れると、私たちの前に一人の女性が立ちはだかった。
「あなたがルーシャ・マキオンね」
どぎついメイクであまり分からないけれど、半ギレのトーンがフランシス・ヴィージンガーに似ている気がする。
「来てくださってありがとう」
「こちらこそお招きいただきありがとうございます」
半ギレのトーンのままの「ありがとう」に対して、戸惑いながらも挨拶の言葉を口にする。
「フランシスを手放してしまうなんて、あなたも見る目がないわね」
そうでもないです。そもそも手放したんじゃなくて捨てられたみたいなもんです。……と、素直に返してはいけないんだろうな。面倒だな。
「今日はフランシスの良さを見せつけてあげる! そしてあなたには心底後悔してもらうわ!」
……と、会場の入り口付近で高らかに宣言されてしまいましたが、どんなにアレの良さを見せられたところで後悔はしないと思う。いやだって私は浮気されて捨てられたんだってば。普通に考えて後悔しないどころか恨みが湧くやつだってば。
どうしたもんか、という気持ちを込めて、隣にいてくれているクリストハルト様の顔を見上げる。
するとそこには、案の定困惑した様子のクリストハルト様の綺麗な顔面があったのだった。
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