Seed of truth《真実の種》

赤井ちひろ

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2 友との最後の会話

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 トントン、扉を叩く音がした。
「合言葉を言え、種」
 ………………
「夢」
 キー、小さな少年が迎え入れてくれ……静かな重い音がして鉄の扉は開いた。
 そこにいたのは新国王の側近、メルセウスであった。
「父さんに用ですか?」
 父さん?ベンハムに子供など居なかったはすだ。
「ベンハム博士、お久しぶりです。あのコは」
「息子だ」
 圧のある言い方にメルセウスはただ黙って頷いた。ベンハム博士は手を止め、いすをゆっくり回転させると、
「相変わらずの敬語か、良く来たな」
 ベンハムはメルセウスが中に入るとそのまま扉をしめた。
「なかなか大変な様だね。君も損な役目を買って出たものだ」
「あなたに比べたら大した事ではありません」
 ベンハムの左手は2度と動かない。ベンハムの左目は何も見えない。
 研究に持っていかれたからだ。
 ベンハムは、たいして何もないのだが、と前置きして温かいお茶をいれてくれた。
「貴方に茶をいれていただけるなんて。おそらく最初にして最後の茶ですね。美味しいですよ、博士」
 メルセウスは窓1つ無い地下シェルターで旧知の友と最後の再会を果たしていた。
「武器商売程金になるものは無い。世界恒久平和は机上の空論だが、この王立植物園が100年前から手掛けている真実の種はきっといつか花開くと俺は信じている」
 ベンハムはクルリと椅子を回転させ研究に目を落とす。
「最後位、幼馴染として敬語抜きで話さんか? メルセウス」
「ああ…………そうだな。ベンハム。俺達の爺ぃのさらに爺ぃの代から、脈々と続く真実への探求心は、いつか必ず実を結ぶと……俺も信じている。なんせエルモアの首が跳ねられてから20年だ。
 新しい種が育ってもおかしくない月日がたった」
「次にあうのは革命の成功か」
「成功でありたいものだ」
 ベンハムは首を若干だけ左に振り向き、でなけりゃ地獄だな、と言った。
「人智が暴力に勝つ時代の幕開けに、この世に生を預けているこの奇跡、ベンハム、お前は時代の流れをどう見ている」
「時代の流れなど、知ったことか。私はただこの頭脳で誰もがなし得なかった真実の種を……新しい時代に撒くだけだ」
 ベンハムはメルセウスに右手を差し出した。
 ベンハムの動かぬ左手をじっとみたメルセウスはあとは任せておけ、裏切り者は裏切り者らしくユダとして生きてやるさと颯爽と笑って言った。
 公平なエルモア、知能のベンハム、策略のメルセウス。
 アルテイシア全盛の時代の立役者達は、20年前のあの日、1度死んだのだ……。
 
                                  
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