αと嘘をついたΩ

赤井ちひろ

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第三章 共生

28霜月 半同棲②

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「嫌だって言われても、誰のせいでも無いですし、誰にもどうにも出来ないでしょう?」
 落ちたボールを拾い、ムッとしてる神無月のおでこにキスをした。ちょっとだけ背伸びをしてでも頬ではなくおでこにしたい。おでこにキスをするならつま先立ちにならなきゃいけない。その時どうしても神無月の両腕を掴むと言う動作がいる。
 紫苑は素直に甘えられない自分が唯一意識せずにくっつけるのは、おでこにキスをする 時だと認識していた。
 勿論神無月もそんな事は重々承知だったし、紫苑がキスをしやすい様に最近は前髪を真ん中で分けるようになっていた。
「ほら、落ちましたよ。何を作ってくれるんですか?卵一杯出しちゃって」
 キスは魔法だ。つい優しい気持ちになる。
「卵は明日の朝ごはんにフレンチトースト作ろうかと思って、ただの仕込みだよ」
「僕、今日は帰るつもりなんですが……」
 朝からちょっとだけだるい。熱でも出して神無月に迷惑をかけたくない、それが紫苑の気持ちだった。
「なんで?そもそも半同棲ってのが中途半端なんだよ。もうこっちに来ればいいのに何で嫌なの?」
 ――何で嫌なのか、か。
「喧嘩したら一緒に居たく無いじゃないですか」
「そうか?なんで?」
 何故か普通の価値観的会話が通じない。これも同棲を始めてわかった事だ。
「顔見たいですか?仮に僕が神無月さんを怒らせたとして、僕の顔、そんな時に見たいですか?」
 紫苑はそんな時には距離が有難い。だから部屋は解約していないし、いつまで神無月が紫苑を愛してくれるかは判らないと純粋に思っていた。神無月の表情が一緒のうちに曇り模様だ。
 ――しまった。地雷を踏んだかも。紫苑は様子を伺った。何を踏んだんだ?じっと神無月の出方を伺った。
「仮に――」
 声が1オクターブ低くなる。
 ――やっぱり怒ってる。
「仮に……何度神無月さんではない。柊だと言っている。と、怒らせたとしても、俺は美月の側に居たいし顔が見たい」
「……柊さん」
「怒っていると伝えたいし、反論があるなら聞きたい」
「……柊」
「ああ、そうやって言いあいしても柊と呼ぶ美月の声が聞きたい。だからずっといたら良いのにと思っているのだよ」
「ん……考えてはおくよ」
「ならフレンチトーストは次回にするか?」
 それでも神無月は紫苑の気持ちを優先してくれる。
「夜食べませんか?ダメですか?」
 首筋に抱きつき、頭を擦り付けた。
 
 




 
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