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第2章 雛を育てるソーサレス
「わたくしの魔法ですのよ!? 効きまくって当然ですわ!」
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「あんたはあいつの攻撃対象外だと思うわよ」
「ほーっほっほっほっ! サレイ家次期当主のわたくしが、しつこいだけの巨像相手に尻尾を四つに折り畳んで震えるだけだとでも!?」
「あのねぇ! 冗談抜きで殺されるかも知れないのよ!?」
「でしたら、わたくしの魔法でそのゴーレムをやっつけてやっつけてやっつけて差し上げますわ! アレクシアさんは隅で震えていて下さって結構ですわよ」
「どうなっても知らないわよ……でもありがと」
「ほーっほっほっほっ! とても気分がいいですわ! さあ、来ましたわよ!」
『アァレクシィアアア……!』
大魔法院での約五年間の学生生活のなかで、初めて共同戦線を張った少女たちに向かって、無数の石片がゆっくりと迫っていき――なにかに気付いたらしいヨランダが、目を細めて呟いた。
「……妙に刺々してますのね」
彼女が言った通り、石片は先ほどとは異なり、ひとつひとつが細長く――要は尖っている。
しゃきんっ!
『きゃあああああああああ!』
それら全ての切っ先がアレクシアに向けられた瞬間、鋭い石片が豪雨のように降り注ぎ、少女たちは揃って左に全力で駆け出した。
かかかかかっ!
壁に沿って走る少女たちの軌跡を、石の刃が一瞬だけ遅れて描いていく。
巨像は偏差的に石片を放っているようだが、脚力を強化して走り回るアレクシアたちには今のところ当たっていない。
「生命魔法が使えて良かったわ! ミリアムに感謝しないと!」
「あら!? わたくしはとっくに感謝していましたのに!」
「こんな時に揚げ足とってんじゃないわよ!? ていうかあんた結界とか張りなさいよ! 死滅魔法ってそういう系統でしょ!」
机と机の間をじぐざぐに駆けながらアレクシアが叫ぶと、ヨランダは高笑いなど交えて返す。
「ほーっほっほっほっ! わたくし、まだるっこしい結界はあまり好きではありませんの!」
「なに習得分野のえり好みしてんのよ!? そんなんで宮廷を目指してたの!?」
「わたくしだって、あなたが電撃以外の魔法を使ったところを見たことありませんわ!」
「苦手なだけで炎や水だって使えるわよ! ていうか、わたしの電撃はパターンが豊富だし、そもそも死滅は敵の弱体化と味方の援護が仕事でしょ! 片方だけじゃ死魔法じゃない! 滅はどこにいったのよ!?」
「まだるっこしいのが性に合わないだけと申し上げたはずですわ!」
少女たちはそんなやりとりなど交わしながら暑い館内を駆け回り、気づけば封印された扉の前に再び立っていた。
ヨランダは余裕の笑みなど浮かべつつ、右足を大きく後方へと振る――
「魔法力は充分に溜めましたので、一気にいきますわ」
そして不敵に呟くと、彼女は右足を全力で振り上げ、手近な机を思い切り振り上げた。
蹴り上げられた机は一つだけだったが、なにかの魔法が付与されていたらしく、周囲の十脚ほどの机も同じように宙を舞い、その後、宙でぴたりと静止した。さらに、最初に蹴り上げられた机から黒いもやのようなものが燃えるように広がり、アレクシアたちの前方を完全に覆った。
『アレクシアアア!』
きんきんっ!
巨像は石片の豪雨を振らせたが、傘に弾かれる雨粒のように弾かれては砕け、宙を漂う――
「やるじゃない!」
「わたくしの防壁なら当然ですわ! 石の下に隠れるだんご虫の気分はいかがですの?」
「その言い方だと一緒に隠れてるあんたもだんご虫なのよ!?」
「……ほーっほっほっほっ!」
ヨランダはごまかすように高笑いをばら撒くと、左右に開いた両手から白い煙のようなものを吹き出し始めた。手品ではなく魔法である。
「これは酸の濃霧ですわ! 触ると非常に痛むでしょうけど、アレクシアさんなら構いませんわよね?」
「わたしのことを試験管かなんかだと思ってるの!?」
巻き込まれまいと伏せたアレクシアは両手で頭を抱えた。彼女がそうしたのは、酸を回避するだけが理由ではなさそだった。
それはそれとして、防壁の左右から酸の濃霧が巨像へと襲い掛かる。
『アレクシアアア!?』
「逃がしませんわ!」
意志で自在に操作できる魔法の濃霧は、散り散りになって逃れようとした巨像を全方位からに一気に呑み込んだ。
じゅうううっ!
巨像は火をつけられた鳥のように、大図書館の天井付近を暴れるように飛び回り始めたが、ガラス張りの天井も封印の影響を受けているらしく、突き破って逃走もできそうにない。
『アレグジアアア!』
「効いてるわよ! やるわね!」
「わたくしの魔法ですのよ!? 効きまくって当然ですわ!」
石が酸に焼かれる不気味な音が大図書館に響き――止んだ。
酸の濃霧はいまだ天井付近を漂っているものの、攻撃対象が消滅したからなのか、急速に薄れていく。
「完全に溶かしたのかしら!?」
「こんな簡単に溶けてしまうなんて、ずいぶんと安物の石材でしたのね」
だがヨランダが高笑いなどしようとした瞬間――
どずん!
アレクシアたちの真上から落下してきた巨岩が、ヨランダの防壁に大きくめり込んだ。
「真上!? 転移でもしたというのですか!?」
「ごめん、聞かれても分からないわ!」
二人は崩れ落ちる防壁の残骸から逃れるように、二階へと続く階段の下まで走った。
「ほーっほっほっほっ! サレイ家次期当主のわたくしが、しつこいだけの巨像相手に尻尾を四つに折り畳んで震えるだけだとでも!?」
「あのねぇ! 冗談抜きで殺されるかも知れないのよ!?」
「でしたら、わたくしの魔法でそのゴーレムをやっつけてやっつけてやっつけて差し上げますわ! アレクシアさんは隅で震えていて下さって結構ですわよ」
「どうなっても知らないわよ……でもありがと」
「ほーっほっほっほっ! とても気分がいいですわ! さあ、来ましたわよ!」
『アァレクシィアアア……!』
大魔法院での約五年間の学生生活のなかで、初めて共同戦線を張った少女たちに向かって、無数の石片がゆっくりと迫っていき――なにかに気付いたらしいヨランダが、目を細めて呟いた。
「……妙に刺々してますのね」
彼女が言った通り、石片は先ほどとは異なり、ひとつひとつが細長く――要は尖っている。
しゃきんっ!
『きゃあああああああああ!』
それら全ての切っ先がアレクシアに向けられた瞬間、鋭い石片が豪雨のように降り注ぎ、少女たちは揃って左に全力で駆け出した。
かかかかかっ!
壁に沿って走る少女たちの軌跡を、石の刃が一瞬だけ遅れて描いていく。
巨像は偏差的に石片を放っているようだが、脚力を強化して走り回るアレクシアたちには今のところ当たっていない。
「生命魔法が使えて良かったわ! ミリアムに感謝しないと!」
「あら!? わたくしはとっくに感謝していましたのに!」
「こんな時に揚げ足とってんじゃないわよ!? ていうかあんた結界とか張りなさいよ! 死滅魔法ってそういう系統でしょ!」
机と机の間をじぐざぐに駆けながらアレクシアが叫ぶと、ヨランダは高笑いなど交えて返す。
「ほーっほっほっほっ! わたくし、まだるっこしい結界はあまり好きではありませんの!」
「なに習得分野のえり好みしてんのよ!? そんなんで宮廷を目指してたの!?」
「わたくしだって、あなたが電撃以外の魔法を使ったところを見たことありませんわ!」
「苦手なだけで炎や水だって使えるわよ! ていうか、わたしの電撃はパターンが豊富だし、そもそも死滅は敵の弱体化と味方の援護が仕事でしょ! 片方だけじゃ死魔法じゃない! 滅はどこにいったのよ!?」
「まだるっこしいのが性に合わないだけと申し上げたはずですわ!」
少女たちはそんなやりとりなど交わしながら暑い館内を駆け回り、気づけば封印された扉の前に再び立っていた。
ヨランダは余裕の笑みなど浮かべつつ、右足を大きく後方へと振る――
「魔法力は充分に溜めましたので、一気にいきますわ」
そして不敵に呟くと、彼女は右足を全力で振り上げ、手近な机を思い切り振り上げた。
蹴り上げられた机は一つだけだったが、なにかの魔法が付与されていたらしく、周囲の十脚ほどの机も同じように宙を舞い、その後、宙でぴたりと静止した。さらに、最初に蹴り上げられた机から黒いもやのようなものが燃えるように広がり、アレクシアたちの前方を完全に覆った。
『アレクシアアア!』
きんきんっ!
巨像は石片の豪雨を振らせたが、傘に弾かれる雨粒のように弾かれては砕け、宙を漂う――
「やるじゃない!」
「わたくしの防壁なら当然ですわ! 石の下に隠れるだんご虫の気分はいかがですの?」
「その言い方だと一緒に隠れてるあんたもだんご虫なのよ!?」
「……ほーっほっほっほっ!」
ヨランダはごまかすように高笑いをばら撒くと、左右に開いた両手から白い煙のようなものを吹き出し始めた。手品ではなく魔法である。
「これは酸の濃霧ですわ! 触ると非常に痛むでしょうけど、アレクシアさんなら構いませんわよね?」
「わたしのことを試験管かなんかだと思ってるの!?」
巻き込まれまいと伏せたアレクシアは両手で頭を抱えた。彼女がそうしたのは、酸を回避するだけが理由ではなさそだった。
それはそれとして、防壁の左右から酸の濃霧が巨像へと襲い掛かる。
『アレクシアアア!?』
「逃がしませんわ!」
意志で自在に操作できる魔法の濃霧は、散り散りになって逃れようとした巨像を全方位からに一気に呑み込んだ。
じゅうううっ!
巨像は火をつけられた鳥のように、大図書館の天井付近を暴れるように飛び回り始めたが、ガラス張りの天井も封印の影響を受けているらしく、突き破って逃走もできそうにない。
『アレグジアアア!』
「効いてるわよ! やるわね!」
「わたくしの魔法ですのよ!? 効きまくって当然ですわ!」
石が酸に焼かれる不気味な音が大図書館に響き――止んだ。
酸の濃霧はいまだ天井付近を漂っているものの、攻撃対象が消滅したからなのか、急速に薄れていく。
「完全に溶かしたのかしら!?」
「こんな簡単に溶けてしまうなんて、ずいぶんと安物の石材でしたのね」
だがヨランダが高笑いなどしようとした瞬間――
どずん!
アレクシアたちの真上から落下してきた巨岩が、ヨランダの防壁に大きくめり込んだ。
「真上!? 転移でもしたというのですか!?」
「ごめん、聞かれても分からないわ!」
二人は崩れ落ちる防壁の残骸から逃れるように、二階へと続く階段の下まで走った。
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