鬼に連れられ異世界へ〜基本俺はついでです〜

流れ華

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二章・・・かごの外

知らぬが仏

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誰かに優しく背を撫でられている。
誰かがそっと寄り添ってくれている。
誰かに頬を撫でられている。

(暖かい)

あまりにも心地よくて、時間がゆっくりと流れていて、その空間をに永遠さえ感じた。


【落ち着くまで、何時までもいるといい。】


その聞き覚えのある声に、一気に意識が覚醒する。

「あ、起きた。
主様、新月起きましたよ。」

幻月の声がするが、姿は見当たらない。

「神域ならば目は見えるな?」

状況が全く呑み込めず、とりあえず異常は感じられないためこくこくと頷く。

【そうか、それは良かった。
紅月の行方がつかめなくなった上に新月まで倒れたと聞いて心配していたんだ。】

「えっ、」

全く思考が追いつかない。

「主様が見失うって、相当だよね。」

【恥ずかしい話だよ。
しかし、姉上にも探してもらったのだが、紅月を見つけることが出来なかった。】

(姉・・・?ツクヨミさんの姉って・・・まさか。)

天照大御神あまてらすおおみかみ・・・?」

【よく知っているな、新月。いい子だ。】

よしよしと頭を撫でられる。
そこでやっと我に返り、自らがおかれている状況を理解した。

(・・・俺、ツクヨミさんに膝枕されてるや。)

なんだか、退いても退かなくても失礼な気がする。

(だったら動かないでおこう。
表情が見えないことだけが心配だけど、ツクヨミさんはこれくらいで怒る方ではない・・・はず。)

しかし、なぜ天照大御神の話が出てくるのだろうか。

【日本神話を知っているな?】

コクリと頷くと、満足気な声が返ってくる。

【それならば話は早い。
私が見つけられず、姉上さえも見つけられない。
となると、紅月を隠した相手は絞られてくる。】

少し難しく感じる。

「つまり、主様や大御神とほぼ同格の神って、一柱しかいないよね?ってことだよ。」

幻月が助け舟を出してくれた。

須佐之男命すさのおのみこと・・・?」

【そういうことだ。】

なんだか話が大きくなってきている。

「紅月さんを拐ったのは須佐之男命ってことですか?
決めつけるのは良くないんじゃ・・・。」

【新月は優しいな。】

楽しげに頭を撫でられる。

「かの御方には前科があるからな。」

十六夜がふぅ、とため息をつく。

「二千年前、まだ“紅月”が“紅月”じゃなかった時。
まだ地上の妖だった彼奴を根の国に幽閉し、拷問していた。」

ヒュ、と息が詰まる。

“拷問”

平和な日々に慣れた新月にはどんなことをされるのか、想像もつかない。
しかし知識として、とても残酷であるということを知っている。

「そんな・・・!」

反射的に身体を起こす。

「その二千年前と同じことが根の国で行われているかもしれない。
根の国だけは、大御神様も主様も目が届かないからな・・・。」

背筋がゾッとする。

(紅月さんが苦しんでいるかもしれない)

「な、んで、そんなこと・・・」

【・・・新月が知るにはまだ早いな。】

「そんな!」

話しぶりからして、十六夜も、幻月も、どのような拷問が、どうして行われたのかを知っているのだろう。

「俺だけ知らないなんて、そんなの嫌です!」

大人しくなどしていられない。
落ち着いてもいられない。
今まさに紅月が苦しんでいるというのがわかっていると言うのに!

「紅月さんが苦しい思いをしてるなら助けに行かないと!」
「時には身の程を知ることも必要だぞ、新月。」

いつの間にか視界が反転する。
首根っこを押さえられ、床に這いつくばるような状態になっていた。

「主様はまだ御使みつかいとして魂も、心身も、すべて未熟であり、なおかつ精神攻撃を受けてボロボロのお前を気遣ってくださっているのだぞ。」

十六夜の感情のない声が、新月の頭を冷静にしていく。

「人間あがりの御使は前例がない上に、人間に生まれ落ちたという時点で、魂の成熟はまだなされていない。
分不相応な立場にいるお前を守ろうとしてくださる主様の御心を汲み取れ。」

抵抗しようという気は起きなかった。
それは新月自身を貶めるものでも、大人しくさせるための説教でもなく、ただの事実でしか無かったから。

「お前が紅月の状態を知ったところで、何も出来ぬ。」

放心していたと言った方が正しいのかもしれない。

「むしろ、お前はさらなる精神的なダメージを食らうことだろう。」

己の無力さ、未熟さが痛いほどに身に染みる。思い知らされる。

「そういう意味では、足手まといになる。」

悔しさを通り越して、悲しみが湧き上がってくる。

強くなったと思っていた。
何かを守れると思っていた。
それは、自惚れと等しかったのか。

【そこまで。新月が泣いてしまいそうだ。】

月読の声に、押さえつける力が緩む。

「そこまで強く押さえたつもりは無いのですが・・・
大丈夫か、新月?首は痛めてないか?」

十六夜が心配そうに顔を覗いてくる。
少し的外れな心配をする十六夜は、自分が発した言葉で泣きそうになっているとは考えてもいないのだろう。
すべて、紛れもない事実なのだから。
コクリと頷き、身体を起こす。

(俺、酷い顔してそうだ。)



「ねぇツクヨミさん、どうして俺を御使にしたんですか。」


自分で思っていたよりも掠れ、震え、情けない声が出た。
不安、不満、疑心、悲しみ、憤り・・・感情がぐちゃぐちゃと混ざってよく分からなくなってしまう。


【まだ精神が落ち着いていないようだな。
十六夜、幻月、ついていてあげなさい。】

「「御意に。」」

サッと新月のそばに来る二人は獣の姿ではなく、童の姿で、狐の面をしていた。



【“朧月おぼろづき”はおるか?】

薄く霧がかかったかと思うと一箇所に集まり形を成す。

「は、貴方様の“朧月”はここに御座います。」

麗しい青年が月読に傅き、よく通る声が紡がれる。

【紅月を取り戻してきてくれ。】

「かしこまりました。
・・・つかぬ事をお伺いしますが、奴はまた何か問題を?」

【起こしたといえば起こしたが、行方がしれぬ原因自体は二千年前と同じと私は思っている。】

「左様でございましたか・・・。
この朧月、必ずや貴方様のご期待に沿う結果を持ち帰ってご覧に入れましょう。」

【頼りにしている。】

「それでは失礼致します。」

青年は再び霧のように消えた。



【新月、必ず紅月は戻ってくるよ。】

ゆっくりと顔を上げる。
月読の姿は見慣れた七海の姿を借りたものではなく、見慣れぬ男性とも女性とも判断できない中性的で麗しい姿だった。

【今、“朧月”を向かわせた。
彼はとても強いから、必ず紅月を連れ戻してくれるよ。】

そっと頭を撫でられる。

【紅月は戻ってきたら、しばらく私の神域で療養することになる。
新月も、精神が落ち着くまで療養が必要だ。】

ポロポロと自然に涙がこぼれる。

【紅月と新月を会わせてあげることは出来ないけれど、同じ神域で療養するわけだから!
ちゃんと、お互いの存在を感じることはできるからね。】

綺麗な指が新月の涙を拭う。

【大丈夫、新月もちゃんと強くなれるよ。】

優しく微笑み、頬を撫でる。



「あとはお任せ下さい、主様。」

【新月のこと、頼んだよ。】

月読はスっ、と空間に溶けるように姿を消した。




「質問には、答えてくれないんですね。」

新月の口からこぼれた言葉に、狐面の童子達は何もこたえられなかった。



To Be Continue・・・・・・
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