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二章・・・かごの外
囚われの身
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じゃらりと金属のすれる音がする。
・・・懐かしい、音だ。
その音に呼応するように意識が浮上する。
決して心地の良いものではないその過去を思い出し、苦々しく思う。
嫌悪感さえ感じる金属の臭いが、苦々しい過去を思い出させるのに拍車をかける。
いや、もしかしたら過ごしたと思っていた二千年は夢だったのかもしれない。
主君に仕え、手足となって働き、同僚にも恵まれ、可愛い後輩ができた。
飢えることも無く、衝動に身を焦がすことも無く、なんと幸せな事だっただろう!
だが今はどうだ。
この身は飢え、身体を動かすことさえ億劫になり、だというのに破壊衝動にキリキリと身を焦がされている。
これが悪夢だ、と言われるよりも、今までの幸せが夢だったと言われる方が納得できる。
ああでも、
夢だとしても
「あの子には、また会いたいな・・・」
掠れた声が、闇に溶ける。
たった一人、入れられるだけにしてはあまりにも広い独房に、返事をしてくれるものなどいない
はずだった。
「お目覚めのようですね。」
闇を割くような凛とした声が響き、明かりがともされる。
重たい首を上げる気にはなれず、その声に反応するのも億劫に思う。
声の主に対して友好的な気持ちになることはできないということも、そうさせる要因だろう。
「あなたは変わってしまわれた・・・。
あんなにも気高く、雄々しく、美しかったのに。」
声の主はゆっくりと近づいてくる。
「嘆かわしい・・・実に嘆かわしいことです。
今のあなたには、雄々しさも、気高さも、ありはしませんね。
憎らしいことに、美しさは鎖に繋がれていても陰ることはないようですが。」
何も感じない。
“あなた”とは“私”のことであるはずなのに、どこか、別の事のように感じる。
「・・・反応すらしていただけないのですか。
これは、あんなみすぼらしい、魂のかたちもなってないようなガキと関わったからでしょうか。」
「それは新月のことを言っているのか。」
無意識のうちに声が出る。
「なんと・・・そこまでご執心とは・・・」
「私が質問しているのだ、こたえろ。」
ゆらりと立ち上がる動作と一緒にじゃらりと金属の音が響く。
「はぁ、まぁいいでしょう。確かに私が申し上げたガキは、『新月』と呼称されておりますよ。
全く、あんなガキのどこに惹かれたのか分かりかねますね・・・」
切り裂いてやろうかと殺意が芽生える。
「あんなガキを眷属にするなんて、月読命もおちたもんですね。」
何かが切れた。
「新月や私だけでは飽き足らず、我が主君まで愚弄するか!!
いくら貴様が須佐之男命のお気に入りとて許さんぞ“緋翠”!」
殴り飛ばしてやりたかったが、お互いを隔てる格子によって叶わない。
(高天原の神木で作られた格子でさえなければ壊せるというのに・・・!
くそっ、この鎖も忌々しい!)
四肢の自由を封じる鎖は天目一箇神が作ったものであるため、壊すことは叶わない。
「なんと野蛮な・・・今のあなたには仕える神の名を冠する“紅月”という名は似合いませんね。」
ニヤリと口角を上げ、挑発するようにゆっくりと喋ってくる。
「今のあなたには・・・“羅刹鬼”という名がお似合いだ。」
思わず舌打ちをしてしまった。
「その名はもう捨てた。その忌々しい名を口に出すな。」
「捨てたなどと・・・名は捨てられるものでは無いことをあなたが一番よくご存知でしょう?」
ガっ、と格子をつかみ、緋翠を睨みつける。
「黙れ。私は主君の名のもとに真名を変え、その名を主君に捧げた!」
格子を掴む手に力がこもる。
「それを貴様ごときが侮辱し、否定するなど、決して許しはしない!」
「許されない、ではなく、許さない、というあたり、私は結構好きですね。」
「そんな話は・・・!」
赤と緑の瞳を愉悦に歪めて、緋翠は笑う。
「罰するのは上ではなくこの自分だという不遜な感じ、二千年前のあなたと全く同じです!」
ああ、思い出した・・・
思い出してしまった!
二千年前、今のように此奴に捕まり“教育”と称して拷問された日々を!
我を忘れるほどの苦痛の日々を!
「相変わらず悪趣味だな・・・!
須佐ノ男様の気が知れん。」
「おや、自分の主以外には案外辛辣ですね。」
「私が敬愛する御方は主君以外存在しない。」
面白くないとでも言うように色の違う瞳が細められる。
「なぜ、なのでしょうね。」
緋翠は手袋を外し、格子にそっと触れる。
その手には痛々しい傷が無数にあった。
「私はこんなにも主様のためにこの身を尽くしているというのに、眷属の末席にさえ置いていただけず、
私の主様に敬意を払うことさえもしないあなたは主様に二千年もの間、ずっと望まれ続けている。」
「私の知った話ではない。」
嫉妬に揺れる目には、どこか諦めさえも感じられた。
自らを落ち着かせるように丁寧に手袋をはめ直す。
「そうですね、あなたには関係のないことでしょう。私の想いなど、取るに足らぬことでしょう。
ですが、あなたの想いもまた関係ないのですよ。」
シュルりと袖から鞭が取り出される。
『あなたの意志も、私の意思も、無に等しく・・・
全ては主様のために。』
祈るように呟き、そっと開かれた色違いの眼には一切の感情が感じられなくなっていた。
「前回は邪魔されましたが、今度はしくじったりは致しません。」
「“再教育”のお時間です。」
To Be Continue・・・・・・
・・・懐かしい、音だ。
その音に呼応するように意識が浮上する。
決して心地の良いものではないその過去を思い出し、苦々しく思う。
嫌悪感さえ感じる金属の臭いが、苦々しい過去を思い出させるのに拍車をかける。
いや、もしかしたら過ごしたと思っていた二千年は夢だったのかもしれない。
主君に仕え、手足となって働き、同僚にも恵まれ、可愛い後輩ができた。
飢えることも無く、衝動に身を焦がすことも無く、なんと幸せな事だっただろう!
だが今はどうだ。
この身は飢え、身体を動かすことさえ億劫になり、だというのに破壊衝動にキリキリと身を焦がされている。
これが悪夢だ、と言われるよりも、今までの幸せが夢だったと言われる方が納得できる。
ああでも、
夢だとしても
「あの子には、また会いたいな・・・」
掠れた声が、闇に溶ける。
たった一人、入れられるだけにしてはあまりにも広い独房に、返事をしてくれるものなどいない
はずだった。
「お目覚めのようですね。」
闇を割くような凛とした声が響き、明かりがともされる。
重たい首を上げる気にはなれず、その声に反応するのも億劫に思う。
声の主に対して友好的な気持ちになることはできないということも、そうさせる要因だろう。
「あなたは変わってしまわれた・・・。
あんなにも気高く、雄々しく、美しかったのに。」
声の主はゆっくりと近づいてくる。
「嘆かわしい・・・実に嘆かわしいことです。
今のあなたには、雄々しさも、気高さも、ありはしませんね。
憎らしいことに、美しさは鎖に繋がれていても陰ることはないようですが。」
何も感じない。
“あなた”とは“私”のことであるはずなのに、どこか、別の事のように感じる。
「・・・反応すらしていただけないのですか。
これは、あんなみすぼらしい、魂のかたちもなってないようなガキと関わったからでしょうか。」
「それは新月のことを言っているのか。」
無意識のうちに声が出る。
「なんと・・・そこまでご執心とは・・・」
「私が質問しているのだ、こたえろ。」
ゆらりと立ち上がる動作と一緒にじゃらりと金属の音が響く。
「はぁ、まぁいいでしょう。確かに私が申し上げたガキは、『新月』と呼称されておりますよ。
全く、あんなガキのどこに惹かれたのか分かりかねますね・・・」
切り裂いてやろうかと殺意が芽生える。
「あんなガキを眷属にするなんて、月読命もおちたもんですね。」
何かが切れた。
「新月や私だけでは飽き足らず、我が主君まで愚弄するか!!
いくら貴様が須佐之男命のお気に入りとて許さんぞ“緋翠”!」
殴り飛ばしてやりたかったが、お互いを隔てる格子によって叶わない。
(高天原の神木で作られた格子でさえなければ壊せるというのに・・・!
くそっ、この鎖も忌々しい!)
四肢の自由を封じる鎖は天目一箇神が作ったものであるため、壊すことは叶わない。
「なんと野蛮な・・・今のあなたには仕える神の名を冠する“紅月”という名は似合いませんね。」
ニヤリと口角を上げ、挑発するようにゆっくりと喋ってくる。
「今のあなたには・・・“羅刹鬼”という名がお似合いだ。」
思わず舌打ちをしてしまった。
「その名はもう捨てた。その忌々しい名を口に出すな。」
「捨てたなどと・・・名は捨てられるものでは無いことをあなたが一番よくご存知でしょう?」
ガっ、と格子をつかみ、緋翠を睨みつける。
「黙れ。私は主君の名のもとに真名を変え、その名を主君に捧げた!」
格子を掴む手に力がこもる。
「それを貴様ごときが侮辱し、否定するなど、決して許しはしない!」
「許されない、ではなく、許さない、というあたり、私は結構好きですね。」
「そんな話は・・・!」
赤と緑の瞳を愉悦に歪めて、緋翠は笑う。
「罰するのは上ではなくこの自分だという不遜な感じ、二千年前のあなたと全く同じです!」
ああ、思い出した・・・
思い出してしまった!
二千年前、今のように此奴に捕まり“教育”と称して拷問された日々を!
我を忘れるほどの苦痛の日々を!
「相変わらず悪趣味だな・・・!
須佐ノ男様の気が知れん。」
「おや、自分の主以外には案外辛辣ですね。」
「私が敬愛する御方は主君以外存在しない。」
面白くないとでも言うように色の違う瞳が細められる。
「なぜ、なのでしょうね。」
緋翠は手袋を外し、格子にそっと触れる。
その手には痛々しい傷が無数にあった。
「私はこんなにも主様のためにこの身を尽くしているというのに、眷属の末席にさえ置いていただけず、
私の主様に敬意を払うことさえもしないあなたは主様に二千年もの間、ずっと望まれ続けている。」
「私の知った話ではない。」
嫉妬に揺れる目には、どこか諦めさえも感じられた。
自らを落ち着かせるように丁寧に手袋をはめ直す。
「そうですね、あなたには関係のないことでしょう。私の想いなど、取るに足らぬことでしょう。
ですが、あなたの想いもまた関係ないのですよ。」
シュルりと袖から鞭が取り出される。
『あなたの意志も、私の意思も、無に等しく・・・
全ては主様のために。』
祈るように呟き、そっと開かれた色違いの眼には一切の感情が感じられなくなっていた。
「前回は邪魔されましたが、今度はしくじったりは致しません。」
「“再教育”のお時間です。」
To Be Continue・・・・・・
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