王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

文字の大きさ
155 / 168
第10章 マムシの怨霊退治

1.改名(誕生 明智光秀)

しおりを挟む
帰蝶が織田家に嫁いだ日の次の日である。

十兵衛に、稲葉山城からお呼びがかかった。

城へ出仕し、通された部屋で十兵衛を待っていたのは叔父光安と、道三の嫡男義龍であった。

(これは、一体何事じゃ?)

十兵衛は、先ずは義龍に、そして叔父光安に頭を下げながら思わぬ組み合わせの二人が居た事に驚いていた。

『御二人共、昨日は帰蝶様が、おめでとうございました・・・』

先ず、前日に尾張へ嫁いだ帰蝶の事にふれ、二人に頭を下げる十兵衛。

『ウム・・今、その妹の様子を光安に聞かせてもらっていた所じゃ・・』

『十兵衛、苦しゅうない、頭をあげよ!』

義龍は、十兵衛にそう気さくに応え、頭をあげる事を許した。

十兵衛は、義龍の許しを受け、頭をあげ、そして己の疑問を更に投げかけた。

『義龍様、叔父上、本日は・・何かあったのでしょうか?』

『・・・分からん、ワシも、朝、突然、親父殿にこの部屋に来るように言われてな・・』

義龍派が、先に十兵衛の問いかけに答えてくれた。

『ワシは、帰蝶様を届けた足で、この城へ戻って来たばかりじゃ』

『殿に、そのご報告に上がったのだが、この部屋に通されてな、殿を待っていたら、義龍様が来られて、先に帰蝶様について、義龍様にお伝え・・・』

光安が、そう言いかけた時、3人の居る部屋の襖の外から道三の小姓の声が聞こえる。

『殿の、おいででございます!』

3人はその声を聞き、ほぼ同時に各自両手をつき、頭を下げた状態で道三を迎え入れる。

襖が開けられ、先ずは道三が、そしてその後に二人の小姓が後から入って来た。

『オオウ、3人全員、揃っておったか!』

道三はそう言うと、部屋の上座へ向かって歩いていく。

小姓達は、開けた襖を二人で締め、そして、そのまま左右に別れ、襖の前にスッと座った。

道三は、上座に座ると、3人の事を見回し、頭をあげる様に命じた。

『光安、昨日は、ご苦労であったな、先ずは、お主の報告を聞こう!』

『ハッ!』

『特に問題なく、無事姫様を尾張古渡城まで、送り届けて参りました!』

『織田家もまた、自分達よりも格上の家から嫁を頂くと、いう様な、それはそれは丁重に迎えてくれました。・・・・が』

『ンン?が・・とは何じゃ』

『ハッ、・・・・大変申しづらい事なのですが・・』

光安は、少し困り果てた様子で、前日の信長と帰蝶のやり取りについて道三へ報告したのであった。

『・・帰蝶の婿になる男は、奇抜な服装で、庶民の者達と何時もつるんでおると、聞いていたが・・』

『大丈夫かのう、そ奴??三郎・・信長と言う男は?』

道三が、呆れた様にそう光安に問いかける。

『・・・・はああ、某・・気軽には判断が出来ませぬが、型にハマらぬ御方かと。。』

『フム・・・よく言えば、考えている事が分らぬ奴、悪くいえば、ウツケという事か・・』

『まあ良い、ウツケであれば、ワシの帰蝶が尻に敷いてくれるじゃろ・・我らが如何様にも出来るという事じゃ・・』

道三は、そう言って自分の直ぐ傍に座っていた義龍の目を見る。

義龍は、道三と目を合わせ、意が通じた事を示す様に軽く頷く。

『・・まああ、良い、分ったぞ、光安、此度の働き、大儀じゃった!』

『それでじゃ、今日、お主ら3人に揃ってもらったののはなあ・・』

『人事について、お主らと相談したくてのう・・』

『・・・十兵衛の事じゃ。』

(???・・私の事??何事じゃ)

十兵衛は、突然自分の事を話しに上げられ、ドキッとしてしまう。

『本日より、十兵衛をワシの家来から外し、義龍の家来とする。』

『義龍、どうじゃ、光安も、異論があったら、とがめぬから、此処で申せ!』

『親父殿、ワシに異論等ない。十兵衛とは、共に学問と剣術を学んだ仲じゃ』

『ワシとしては、心強い』

そう言った義龍の顔は、パッと明るくなり、十兵衛の方に笑顔を向ける。

『ウム、お主が喜んでくれるのであれば・・良い事じゃ、光安はどうじゃ?』

『ハッ、・・・殿の意向に、従いまする!異論などある筈もございませぬ』

『では、最後じゃ、十兵衛、お主はどうじゃ?』

道三に最後に問いかけられた十兵衛は、再び両手をつき深々と頭を下げる。

そして、短く、本意を告げる。

『義龍様に、忠義を尽くしまする』

『良し!、決まりじゃ』

そう言うと、道三は突然両手をあわせ、パンッと音を鳴らし、小姓へ合図を送った。

小姓の一人が、前から決まっていた段取り通りに、あるモノを道三に持って来る。

そして手渡した、それは白い紙であった。

『これは、以前、大垣城攻めの恩賞として、ワシがお主らに頼まれていた事じゃ』

道三は、そういうと、白い紙を3人に見せた。

白い紙には、大きな字で、明智光秀と書かれていた。

『十兵衛、面をあげえぃ!、お主に新しき名を与える』

『本日より、明智光秀と名乗るのじゃ!!』

『オオッ、これは良い名を頂いた!』

『十兵衛より、先に紙をみた叔父光安が、感嘆の声を上げた。』

『みつひで・・でございますか』

『あけち みつひで、私の新しい名・・』

(なんじゃ、まるで新しい人間に、生まれ変わる儀式のようじゃ)

十兵衛は、不思議な感覚だった。なぜなら突然の展開に、心が追い付かず軽い放心状態だったのである。

そんな、十兵衛の様子をみて、道三が付け加えるように、命名の意味を説明する。

『他者よりも光る、秀でた男という意味じゃ、十兵衛、そんな男になるのじゃ!』

『なってもらわなければ、義龍が、これからの斎藤家が困る、頼んだぞ!』

『殿・・』

『親父殿』

叔父光安と、新しき主の義龍が、驚き、二人それぞれ呼び方で道三の事を呼んだ。

大きな声と、期待が十兵衛の耳に入り、彼を覚醒させた。

『ハッ!、某、明智十兵衛改め、明智光秀、命をかけ、御役目に励みまする!!』

十兵衛は、感嘆だが偽りなき心を告げたのであった。

『励むのじゃ!!』

道三は、そう言って何時もの様に満足そうに笑ったのである。

『??、ンンッ、殿、それでは、ワシは他者より光る、安き者になってしまいまするが・・』

叔父、光安が何かに気づき、避難の目で道三の方をみたが、道三は口笛を吹いて目を合わそうとしなかった。

その日、十兵衛は明智光秀と名を改めた。

それは正式に明智家を継ぐ者として認められたという事であった。

時期明智家当主が、道三の嫡男義龍の直臣になるという事は、同時に義龍が斎藤家を継ぐ後継者である事を意味していたのである。

道三が3人を呼んだ意味は、そう言う事であったのである。

斎藤家は、一枚岩であった・・・・この時までは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。 独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす 【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す 【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す 【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす 【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

処理中です...