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第10章 マムシの怨霊退治
4.問い(1)
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その日、道三は己の2番目の息子孫四郎龍重を茶室に呼んだ。
呼ばれた孫四郎は、蘭丸という近習を一人連れ茶室の前に来たのは正午すぎである。
『父上、孫四郎でございます。お呼びと聞き、参上致しました』
襖ごしに道三へ呼びかけた孫四郎の顔は、人当たりの良い笑みを浮かべている。
悪い言い方をすれば、その表情は何処か人を小ばかにしている様な表情でもあった。
『・・・・』
道三からの返答は無く、静寂の中、孫四郎の様子が変わる。
顔からは、感情が消え襖の中に居る筈の者を睨みつけるようにじっと、襖を見る。
襖の中には、明らかに気配がある。しかし、その者は自分を無視している。
その事が、孫四郎に憑りつく男の自尊心に不快感を感じさせたのである。
孫四郎は、彼の左に居る近習の蘭丸へ無言で目くばせをする。
蘭丸は、周囲の気配を探る様に一度首を左右に振り、そして孫四郎に合図を送る様に頷いた。
二人の雰囲気が変わり、何か事を起こそうとしそうになった時である。
『・・・孫四郎よ、お主、一人で来たのではないのか?』
突然道三の声が、襖の中から聞こえ、孫四郎は相手の問いに即答できなかった。
『今、茶を点てておってな、お主の声が聞こえてはいたが、・・ヨシ、茶の準備が出来た』
道三は、幼い息子に話しかける様な気軽な様子でそう続ける。
孫四郎の表情は、慌ててもとの愛想の笑みを浮かべたが、その表情は最初の頃より、ぎこちなく、明らかに、調子を乱されていた。
『ハッ!父上、スミマセヌ、最近、私の家来達に不幸が続き、怨霊でも憑いているのでは無いかと、近習が一人、我が身を案じて付いてきております』
『・・・怨霊か、有り得る話じゃな・・ワシを恨む者は五万といるからのう・・』
『まあ、良い、入れ、今日は其方に聞きたい事があるから呼んだのじゃ・・』
『ハッ、直ぐに!』
蘭丸が孫四郎に代わり襖を開けようと、襖に触ろうとした時である。
『孫四郎よ、お主一人だけである、近習の者は襖に触るな、その場で待て!茶室に入る事は許さん!』
突然、道三の声の調子が変わり、その様子は命令するような口調であった。
その言葉を受け、冷静であった蘭丸の顔が苦虫を噛んだ表情に変わった。
まるで、自分の思い描いてた計画が見透かされ、実行する前に潰された様な顔である。
『・・・其方は、此処で待っておれ・・』
孫四郎がそう言うと、蘭丸は、孫四郎にお辞儀し、襖から後ろに下がり、廊下の片隅に座った。
『父上、入りまする・・』
孫四郎は、一言そう言うと、襖を開け部屋に入った。
部屋の奥には、道三が座っている。
孫四郎は、違和感に気づかず、一礼し、開けた襖を閉めるべく、振り返る。
襖を閉めた時、その違和感に気がついた。
振り返り道三を見ると、そこには茶の具等一つもなく、もちろん点てたと言っていた茶は無かった。
『孫四郎よ、どうした?何を慌てているのじゃ』
『父上、・・・』
言葉を溢した孫四郎の顔からは、既に笑みが、余裕が消えていた。
『孫四郎よ、其処に立ったままでは、話しが出来ん』
『早く此処へ、座るが良い・・・』
道三の声は、冷静だった。そして表情は、可愛い息子に向ける様な笑顔であった。
孫四郎の身体は、父の言葉に従い、ユックリと父が指さす場所に近づき、それより二歩前で止まった。
そして座る。
その座る様子を、場所を素知らぬ顔で、じっくり観察する道三の顔に、自分が勘づいている事を悟られまいと、笑顔を作りながら、座った。
孫四郎が腰を下ろし、胡坐をかこうとした時、左足に何かが当たった。
衝撃を感じた時、右足に少量では無いモノがかかる。
『・・・・・』
孫四郎は、自分の状況が分らず、声もあげず、咄嗟に立ち上がった。
『どうしたのじゃ、孫四郎、何を驚いておる?』
『ワシに申せ、どうしたのじゃ?』
『父上、足に何かがかかりました』
『・・・・何がじゃ?』
『申せませぬ、水みたいなものが・・かかったのです』
『・・・ウム、やはり、そうか、お主、それが見えなかったのだな、そして、その熱さも・・』
道三はそう言うと、目を閉じると、苦痛に耐える様に眉間に皺を寄せた。
そして、暫くの沈黙の後、低い声で、孫四郎に話しかけた。
『・・・孫四・・・郎よ、ワシがお主が気づかず、蹴飛ばしたものを教えてやる代わりに、一つワシの質問に答えくれ・・いや、答えろ』
『・・・・』
孫四郎はただ黙りこむ。
『お主が蹴飛ばしたのは、ワシが点てた茶じゃ・・・・足にかかったのは、舌が焼ける程の熱い茶じゃよ』
『お主何者じゃ?ワシの愛する息子、孫四郎を何処にやった・・』
問うた道三も、問われた孫四郎の顔も、隠していた本性が現れた形相になっていた。
帰蝶の輿入れの日から、数カ月後の事である。
呼ばれた孫四郎は、蘭丸という近習を一人連れ茶室の前に来たのは正午すぎである。
『父上、孫四郎でございます。お呼びと聞き、参上致しました』
襖ごしに道三へ呼びかけた孫四郎の顔は、人当たりの良い笑みを浮かべている。
悪い言い方をすれば、その表情は何処か人を小ばかにしている様な表情でもあった。
『・・・・』
道三からの返答は無く、静寂の中、孫四郎の様子が変わる。
顔からは、感情が消え襖の中に居る筈の者を睨みつけるようにじっと、襖を見る。
襖の中には、明らかに気配がある。しかし、その者は自分を無視している。
その事が、孫四郎に憑りつく男の自尊心に不快感を感じさせたのである。
孫四郎は、彼の左に居る近習の蘭丸へ無言で目くばせをする。
蘭丸は、周囲の気配を探る様に一度首を左右に振り、そして孫四郎に合図を送る様に頷いた。
二人の雰囲気が変わり、何か事を起こそうとしそうになった時である。
『・・・孫四郎よ、お主、一人で来たのではないのか?』
突然道三の声が、襖の中から聞こえ、孫四郎は相手の問いに即答できなかった。
『今、茶を点てておってな、お主の声が聞こえてはいたが、・・ヨシ、茶の準備が出来た』
道三は、幼い息子に話しかける様な気軽な様子でそう続ける。
孫四郎の表情は、慌ててもとの愛想の笑みを浮かべたが、その表情は最初の頃より、ぎこちなく、明らかに、調子を乱されていた。
『ハッ!父上、スミマセヌ、最近、私の家来達に不幸が続き、怨霊でも憑いているのでは無いかと、近習が一人、我が身を案じて付いてきております』
『・・・怨霊か、有り得る話じゃな・・ワシを恨む者は五万といるからのう・・』
『まあ、良い、入れ、今日は其方に聞きたい事があるから呼んだのじゃ・・』
『ハッ、直ぐに!』
蘭丸が孫四郎に代わり襖を開けようと、襖に触ろうとした時である。
『孫四郎よ、お主一人だけである、近習の者は襖に触るな、その場で待て!茶室に入る事は許さん!』
突然、道三の声の調子が変わり、その様子は命令するような口調であった。
その言葉を受け、冷静であった蘭丸の顔が苦虫を噛んだ表情に変わった。
まるで、自分の思い描いてた計画が見透かされ、実行する前に潰された様な顔である。
『・・・其方は、此処で待っておれ・・』
孫四郎がそう言うと、蘭丸は、孫四郎にお辞儀し、襖から後ろに下がり、廊下の片隅に座った。
『父上、入りまする・・』
孫四郎は、一言そう言うと、襖を開け部屋に入った。
部屋の奥には、道三が座っている。
孫四郎は、違和感に気づかず、一礼し、開けた襖を閉めるべく、振り返る。
襖を閉めた時、その違和感に気がついた。
振り返り道三を見ると、そこには茶の具等一つもなく、もちろん点てたと言っていた茶は無かった。
『孫四郎よ、どうした?何を慌てているのじゃ』
『父上、・・・』
言葉を溢した孫四郎の顔からは、既に笑みが、余裕が消えていた。
『孫四郎よ、其処に立ったままでは、話しが出来ん』
『早く此処へ、座るが良い・・・』
道三の声は、冷静だった。そして表情は、可愛い息子に向ける様な笑顔であった。
孫四郎の身体は、父の言葉に従い、ユックリと父が指さす場所に近づき、それより二歩前で止まった。
そして座る。
その座る様子を、場所を素知らぬ顔で、じっくり観察する道三の顔に、自分が勘づいている事を悟られまいと、笑顔を作りながら、座った。
孫四郎が腰を下ろし、胡坐をかこうとした時、左足に何かが当たった。
衝撃を感じた時、右足に少量では無いモノがかかる。
『・・・・・』
孫四郎は、自分の状況が分らず、声もあげず、咄嗟に立ち上がった。
『どうしたのじゃ、孫四郎、何を驚いておる?』
『ワシに申せ、どうしたのじゃ?』
『父上、足に何かがかかりました』
『・・・・何がじゃ?』
『申せませぬ、水みたいなものが・・かかったのです』
『・・・ウム、やはり、そうか、お主、それが見えなかったのだな、そして、その熱さも・・』
道三はそう言うと、目を閉じると、苦痛に耐える様に眉間に皺を寄せた。
そして、暫くの沈黙の後、低い声で、孫四郎に話しかけた。
『・・・孫四・・・郎よ、ワシがお主が気づかず、蹴飛ばしたものを教えてやる代わりに、一つワシの質問に答えくれ・・いや、答えろ』
『・・・・』
孫四郎はただ黙りこむ。
『お主が蹴飛ばしたのは、ワシが点てた茶じゃ・・・・足にかかったのは、舌が焼ける程の熱い茶じゃよ』
『お主何者じゃ?ワシの愛する息子、孫四郎を何処にやった・・』
問うた道三も、問われた孫四郎の顔も、隠していた本性が現れた形相になっていた。
帰蝶の輿入れの日から、数カ月後の事である。
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