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第3章 十文字槍対策
6.努力(ヒゲ殿の笑顔)
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虎之助が、宝蔵院流槍術を学ぶ傍らで、二人の家来も又、日々奮闘していた。
修業の後半戦がスタートして、2カ月が経過しても二人はヒゲ殿から一本取れていなかった。
二人が、努力を怠ったワケではない。二人の努力は虎之助に負けていなかったが、ヒゲ殿が強すぎたのである。
ヒゲ殿の体からは余分な脂肪は落ち、鍛え抜かれた体から繰り出される槍は、毎日落雷の様に二人に降り注がれた。
正に電光石火の速さで襲う槍を、二人は逃げずに受け続け、それと同数の槍突きをヒゲ殿に喰らわせていたが、一向に当たらなかった。
それもそのはず、当時、織田家中一の槍使いと目された前田利家の盾、槍の又兵衛は、実は利家よりも槍の達人であったのである。
つまり、実際の織田家中一は前田利家ではなく彼だった。
そんなヒゲ殿が、二人に知られない様に影で努力し始めて早2カ月、顎と内臓についていた脂肪が取れるのは当然なぐらい、彼は努力した。
(負けられない・・・、前田家の面子を潰したら、自分は切腹ものだ。この青二才ども、それが分かっているのか?あ~無自覚なアイツらが本当に憎たらしくなってきた!)と、彼は憤り、怒りをエネルギーにして二人と戦っていたのである。彼の怒りを含む決意が努力となって彼を強くしていたのである。
ヒゲ殿が強くなる度に、力士、久次郎も強くなる。3人の距離は、縮まりそうで縮まらない我慢比べの様相を醸し出してきていた。
例えるならば、ヒゲ殿はマラソンレースで先頭を走っているのだが、2位と3位が後ろにピタッと着き、ヒゲ殿を風避けにして、虎視眈々とトップを狙らわれている状況であった。
(こいつら、少しはサボろうとか、ヒゲ殿は強すぎる俺達には敵わない・・って打ちひしがれて練習する気力がなくなる、みたいな、みたいなぁ、年相応の可愛げは無いのかよぉ)と、ヒゲ殿は、二人の脱落を切に願っていた。
半年の修業が終わりを迎えようとしていた頃、後続のランナー二人が、ヒゲ殿に揺さぶりをかけて来た。
先ずは、久次郎がヒゲ殿の動きの先を読み、ヒゲ殿は、反応できず躱し切れず被弾。『グフッ。ナカナカやるな』と、一本を認めた。
その日、力士も最後の模擬戦で、ヒゲ殿が反応できない突きを入れ、ヒゲ殿の水下にキレイな一撃が入った。
『グェ~なかな・・・ウォッエー、ゲェー』と昼に食べた握り飯を総て吐き出した後、ヒゲ殿は口を拭きながら力士の一本も認めた。
『あ~あ、ついに一本取られたか・・・。』
『仕方が無い、約束通り・・・二人をワシの娘達の花婿として認めよう!』
『あ~負けちゃったよ。お房、吉野、スマンお父さん負けっちゃった。』と遠くの空に出始めた月をわざとらしく見上げるヒゲ殿であった。
ヒゲ殿の勝手な物言いを無視して二人が、ヒゲ殿に声を揃えて感謝の意を告げる。
『ヒゲ殿、この半年間、我々も修業をつけて下さり、誠に有難うございました、御蔭で見違える様に強くなりました。』と、大きな声で御礼を言った。
『ウム、良く頑張った。もうワシから二人に教える事は無いのう、明日から虎之助と共に胤栄様に修行をつけてもらうが良い。』とヒゲ殿が言うと。
『残り僅かではありますが、引き続き修業をお願い致します。お師匠!!。』と二人が答えた。
二人の返答を聞き、一瞬ヒゲ殿の顔の表情が何とも言えない笑顔になった。
この日見せたヒゲ殿の笑顔は、本当に嬉しそうで半年間の合宿の中で一番だった。
『仕方がないのぅ・・約束どおり、ワシの口利きで、二人を前田家に召し抱える様、利家様にお願いするか・・。』
そう言って、愛弟子達を再び見たかったのだが、二人の愛弟子は、既に自分達の主君の元に喜びを伝えに走っており、後ろ姿になっていた。
『本当に仕方がないのぅ…。』と長頼は残念そうに呟いたのである。
苦しく、そして楽しく、充実した半年間の修行の終わりの日が直ぐその近く迄来ていた。
季節は、冬から春の入り口迄移り変わっていた。
修業の後半戦がスタートして、2カ月が経過しても二人はヒゲ殿から一本取れていなかった。
二人が、努力を怠ったワケではない。二人の努力は虎之助に負けていなかったが、ヒゲ殿が強すぎたのである。
ヒゲ殿の体からは余分な脂肪は落ち、鍛え抜かれた体から繰り出される槍は、毎日落雷の様に二人に降り注がれた。
正に電光石火の速さで襲う槍を、二人は逃げずに受け続け、それと同数の槍突きをヒゲ殿に喰らわせていたが、一向に当たらなかった。
それもそのはず、当時、織田家中一の槍使いと目された前田利家の盾、槍の又兵衛は、実は利家よりも槍の達人であったのである。
つまり、実際の織田家中一は前田利家ではなく彼だった。
そんなヒゲ殿が、二人に知られない様に影で努力し始めて早2カ月、顎と内臓についていた脂肪が取れるのは当然なぐらい、彼は努力した。
(負けられない・・・、前田家の面子を潰したら、自分は切腹ものだ。この青二才ども、それが分かっているのか?あ~無自覚なアイツらが本当に憎たらしくなってきた!)と、彼は憤り、怒りをエネルギーにして二人と戦っていたのである。彼の怒りを含む決意が努力となって彼を強くしていたのである。
ヒゲ殿が強くなる度に、力士、久次郎も強くなる。3人の距離は、縮まりそうで縮まらない我慢比べの様相を醸し出してきていた。
例えるならば、ヒゲ殿はマラソンレースで先頭を走っているのだが、2位と3位が後ろにピタッと着き、ヒゲ殿を風避けにして、虎視眈々とトップを狙らわれている状況であった。
(こいつら、少しはサボろうとか、ヒゲ殿は強すぎる俺達には敵わない・・って打ちひしがれて練習する気力がなくなる、みたいな、みたいなぁ、年相応の可愛げは無いのかよぉ)と、ヒゲ殿は、二人の脱落を切に願っていた。
半年の修業が終わりを迎えようとしていた頃、後続のランナー二人が、ヒゲ殿に揺さぶりをかけて来た。
先ずは、久次郎がヒゲ殿の動きの先を読み、ヒゲ殿は、反応できず躱し切れず被弾。『グフッ。ナカナカやるな』と、一本を認めた。
その日、力士も最後の模擬戦で、ヒゲ殿が反応できない突きを入れ、ヒゲ殿の水下にキレイな一撃が入った。
『グェ~なかな・・・ウォッエー、ゲェー』と昼に食べた握り飯を総て吐き出した後、ヒゲ殿は口を拭きながら力士の一本も認めた。
『あ~あ、ついに一本取られたか・・・。』
『仕方が無い、約束通り・・・二人をワシの娘達の花婿として認めよう!』
『あ~負けちゃったよ。お房、吉野、スマンお父さん負けっちゃった。』と遠くの空に出始めた月をわざとらしく見上げるヒゲ殿であった。
ヒゲ殿の勝手な物言いを無視して二人が、ヒゲ殿に声を揃えて感謝の意を告げる。
『ヒゲ殿、この半年間、我々も修業をつけて下さり、誠に有難うございました、御蔭で見違える様に強くなりました。』と、大きな声で御礼を言った。
『ウム、良く頑張った。もうワシから二人に教える事は無いのう、明日から虎之助と共に胤栄様に修行をつけてもらうが良い。』とヒゲ殿が言うと。
『残り僅かではありますが、引き続き修業をお願い致します。お師匠!!。』と二人が答えた。
二人の返答を聞き、一瞬ヒゲ殿の顔の表情が何とも言えない笑顔になった。
この日見せたヒゲ殿の笑顔は、本当に嬉しそうで半年間の合宿の中で一番だった。
『仕方がないのぅ・・約束どおり、ワシの口利きで、二人を前田家に召し抱える様、利家様にお願いするか・・。』
そう言って、愛弟子達を再び見たかったのだが、二人の愛弟子は、既に自分達の主君の元に喜びを伝えに走っており、後ろ姿になっていた。
『本当に仕方がないのぅ…。』と長頼は残念そうに呟いたのである。
苦しく、そして楽しく、充実した半年間の修行の終わりの日が直ぐその近く迄来ていた。
季節は、冬から春の入り口迄移り変わっていた。
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