加藤虎之助(後の清正、15歳)、姉さん女房をもらいました!

野松 彦秋

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第3章 十文字槍対策

6.努力(ヒゲ殿の笑顔)

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虎之助が、宝蔵院ほうぞういん流槍術を学ぶ傍らで、二人の家来も又、日々奮闘していた。

修業の後半戦がスタートして、2カ月が経過しても二人はヒゲ殿から一本取れていなかった。

二人が、努力を怠ったワケではない。二人の努力は虎之助に負けていなかったが、ヒゲ殿が強すぎたのである。

ヒゲ殿の体からは余分な脂肪は落ち、鍛え抜かれた体から繰り出される槍は、毎日落雷の様に二人に降り注がれた。

正に電光石火の速さで襲う槍を、二人は逃げずに受け続け、それと同数の槍突きをヒゲ殿に喰らわせていたが、一向に当たらなかった。

それもそのはず、当時、織田家中一の槍使いと目された前田利家の盾、槍の又兵衛は、実は利家よりも槍の達人であったのである。

つまり、実際の織田家中一は前田利家ではなく彼だった。

そんなヒゲ殿が、二人に知られない様に影で努力し始めて早2カ月、顎と内臓についていた脂肪が取れるのは当然なぐらい、彼は努力した。

(負けられない・・・、前田家の面子めんつを潰したら、自分は切腹ものだ。この青二才ども、それが分かっているのか?あ~無自覚なアイツらが本当に憎たらしくなってきた!)と、彼は憤り、怒りをエネルギーにして二人と戦っていたのである。彼の怒りを含む決意が努力となって彼を強くしていたのである。

ヒゲ殿が強くなる度に、力士、久次郎も強くなる。3人の距離は、縮まりそうで縮まらない我慢比べの様相ようそうかもし出してきていた。

例えるならば、ヒゲ殿はマラソンレースで先頭を走っているのだが、2位と3位が後ろにピタッと着き、ヒゲ殿を風避けにして、虎視眈々こしたんたんとトップを狙らわれている状況であった。

(こいつら、少しはサボろうとか、ヒゲ殿は強すぎる俺達には敵わない・・って打ちひしがれて練習する気力がなくなる、みたいな、みたいなぁ、年相応の可愛げは無いのかよぉ)と、ヒゲ殿は、二人の脱落を切に願っていた。

半年の修業が終わりを迎えようとしていた頃、後続のランナー二人が、ヒゲ殿に揺さぶりをかけて来た。

先ずは、久次郎がヒゲ殿の動きの先を読み、ヒゲ殿は、反応できずかわし切れず被弾。『グフッ。ナカナカやるな』と、一本を認めた。

その日、力士も最後の模擬戦で、ヒゲ殿が反応できない突きを入れ、ヒゲ殿の水下みぞおちにキレイな一撃が入った。

『グェ~なかな・・・ウォッエー、ゲェー』と昼に食べた握り飯を総て吐き出した後、ヒゲ殿は口を拭きながら力士の一本も認めた。

『あ~あ、ついに一本取られたか・・・。』

『仕方が無い、約束通り・・・二人をワシの娘達むすめたち花婿ハナムコとして認めよう!』

『あ~負けちゃったよ。おふさ吉野きちの、スマンお父さん負けっちゃった。』と遠くの空に出始めた月をわざとらしく見上げるヒゲ殿であった。

ヒゲ殿の勝手な物言いを無視して二人が、ヒゲ殿に声を揃えて感謝の意を告げる。

『ヒゲ殿、この半年間、我々も修業をつけて下さり、誠に有難うございました、御蔭で見違える様に強くなりました。』と、大きな声で御礼を言った。

『ウム、良く頑張った。もうワシから二人に教える事は無いのう、明日から虎之助と共に胤栄いんえい様に修行をつけてもらうが良い。』とヒゲ殿が言うと。

『残り僅かではありますが、引き続き修業をお願い致します。!!。』と二人が答えた。

二人の返答を聞き、一瞬ヒゲ殿の顔の表情が何とも言えない笑顔になった。

この日見せたヒゲ殿の笑顔は、本当に嬉しそうで半年間の合宿の中で一番だった。

『仕方がないのぅ・・約束どおり、ワシの口利きで、二人を前田家に召し抱える様、利家様にお願いするか・・。』

そう言って、愛弟子達を再び見たかったのだが、二人の愛弟子は、既に自分達の主君の元に喜びを伝えに走っており、後ろ姿になっていた。

『本当に仕方がないのぅ…。』と長頼は残念そうに呟いたのである。

苦しく、そして楽しく、充実した半年間の修行の終わりの日が直ぐその近く迄来ていた。

季節は、冬から春の入り口迄移り変わっていた。
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